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第3章 元帝国編
3-14 神の武器、ティダとシャル
しおりを挟む東への国境を渡る旅は辛いものがあった。
食事の面で、だ。
魔人国は火山帯が多く地熱が高い。
その為か隔たる運河の水温も高く海魚があまり取れないらしい。
折角の運河沿いなのにがっかりなオリハだ。
だが日本酒は美味い。
そして人族の国境と違い栄えてはいない。
途中の村や町が行商人で賑わう事がないのだ。
魔人国へは食料品が、人族の国へは魔石が輸入、輸出されている程度だ。
魔石の輸出業は国が一括で管理しているらしく、その売上を国の運営費にしているので税金はないそうだ。
とシャルが羨ましそうに教えてくれた。
国境のある街だけはさすがに魔石を求める行商人に溢れていた。
ここから人族の国へ魔石を届けに行くのだ。
魔道具に関しては大小問わず様々な目新しい物があった。
だがそれだけだ。
オリハにとっては一番大事な食料品も珍しい物があるだけで美味しい物はなかった。
一粒で栄養が取れる丸薬やパン、干し肉、干し魚などの加工食品ばかりだった。
これは魔人国の影響があった。
大気中の魔素濃度が高く生鮮品は脚が速いのだ。
誤字ではなく本当に脚が速いのだ。
人族の国でいう野菜は収穫前まで育つと脚が生え、そして逃げ出すという。
その上、生えた脚に栄養が奪われるようで味も栄養価もないとの事。
魔化と呼ばれる現象だ。
農業もあるが魔化する前に収穫して加工される国家管理の事業らしい。
畜産も鶏や牛、豚は魔化するので駄目なのだ。
だが脚ではなくツノや羽根が生えるとの事。
魔物肉は高価な嗜好品で一般には干し肉や加工された丸薬で食事を行うらしい。
街に着いて国境でまず登録をした。
シャルとティダは国境を越えるまで見送ってくれるらしい。
国境を渡る許可が下りるのに一週間かかるとの事。
人族と人族の国境とはやはり違うようだ。
持ち込む荷物の検査もしっかりと行われる。
生鮮品を持ち込もうなら魔化して大変な事になるからだ。
その後、宿屋で飯をしたが正直美味しくなかった。
それでも魔人の商人や冒険者などは満足しているようだ。
国元では生鮮品を調理する事自体ないことだからだ。
オリハはこの先の旅に不安を覚える。
だがまずはこの宿屋の飯だ。
御食事ではない飯だ。
宿屋の主人にこの街で買える食材でも充分美味しく食べられるレシピを提供した。
最初はオリハが作った。
魔人達の反応はかなり良かった。
オリハは満足出来なかったが。
だがこれでここに滞在中はなんとかなるだろう。
酒はあるし。
三人は許可が下りるまでの一週間は冒険者ギルドで依頼をこなす事にした。
冒険者としてPTとしての思い出作りだ。
息子として愛弟子として二人に最後まで手を抜く気はない。
この二人ならいずれ名を挙げるだろう。
いずれまた会う事もあるだろう。
だから最後まで無駄にはしたくない。
別れではなくいつかの再会の時のために。
~~~~~~~~~~~~~~~
「そっち行ったよ!」
「おう!」
かち合う金属音が鳴り響く。
振り下ろされるキラーマンティスの巨大な鎌を受け止め流した。
ティダはすごく変わった。
前までなら力づくで受け止めるだけだったのに。
名も無き声よ 翅に宿れ 「Thrice Wind Cutter!」
三つの風の刃がキラーマンティスを襲う。
一つは鎌で防がれたが一つが鎌の根元をもう一つは胴体を斬り裂いた。
「うおおおおぉぉぉ!」
鎌のない側をティダが斬り込む。
一閃の横薙ぎはキラーマンティスを二つに割いた。
「よっしゃあああ!」
と振り返り勝鬨をあげた。
釣られてふぅと息を吐いた。
だが上半身だけのキラーマンティスが鎌で身体を起こし牙でティダを狙った。
「ティダ!」
が振り返るより早くオリハさんの土の槍が頭を貫いた。
「うえっ?!」
「油断し過ぎだ」
「ぐ、ぐぬぬ」
ハルちゃんを抱いたオリハさんがため息混じりそう言った。
「シャ・・・愛弟子よ!良かったぞ」
と師匠がサムズアップしてくれた。
そしてティダに説教を始めた。
あいつはあまり変わってないかもしれない。
今日は森の討伐依頼を受けた。
まさかB級PT推奨のキラーマンティスが出てくるとは思ってなかった。
その上、師匠は「二人でやってみろ」と仰せだ。
正直倒せるとは思ってなかった。
私も少しは変わってるのかな?
そして師匠はやっぱり凄い。
ティダと私とで教え方が全然違う。
私には理詰めで、ティダには大まかに分かりやすく。
今も「考えるな、感じろ」って言ってる。
私は「要領が良すぎる」と課題をだされていた。
複数の術式を使う時に術式を描くのではなく脳内のイメージを写している、と言われた。
危ない時以外はしっかりと描くように、と。
・・・身に覚えがありすぎた。
魔力の流れだけでそこまでわかるのかな?と色々試したけど私には分からなかった。
「慣れればこんな事も出来る」と火水風土雷の五本の槍を無詠唱で同時に発動させた。
「呪文は?」と聞いたら「長くて面倒だった」と頭を掻きながら答えた。
凄くてもその辺りはオリハさんらしい。
そして術式の練習を重ねていけば自然とロストマジックの極級以上の魔法の道が開かれる、と。
そして一度見せてくれた。
ティダは「おおっ!すげえ!」と語彙がアレだ。
私も「おおっ!すごい!」だったのでアレだ。
体外での術式の制御が複雑すぎて今は無理。
でもいつか・・・
そしてティダのいない時に「大丈夫か?」と声をかけてくれた。
「正直にわかりません」って答えた。
「本当に辛くなったら呼べ、何処へでも行ってやる」そう言って抱きしめてくれた。
やっぱりオリハさんはお母さんでもお姉さんでもないや。
下から三番目がお婆ちゃん、二番目が師匠、一番上が友達だ。
この親友を一人にするのは心配だけど・・・
次に会うときは横に並べるくらいのつもりで・・・
それは無理だ、うん。
でも胸を張って会えるように頑張ろう。
~~~~~~~~~~~~~~~
オリハさんが魔人国に行くのがとうとう明日になった。
だから今日は稽古をつけてくれってお願いした。
シャルもいいよってハルを見てくれた。
前と同じでこっちはなんでもあり。
オリハさんは魔法はなしだ。
戦う時のオリハさんと向き合うと背中がゾクゾクすんだ。
怖くて脚が震えてくる。
でも最後にいいところを見せたかった。
なのに剣を構えたところから稽古が終わるまで何をしたのか思い出せない。
気がついたら魔力がなくなってた。
あれ?もう終わったのかって情けなくなったけど、オリハさんが「それでいい」って笑ってくれた。
そう言って飴玉を口に放り込んでくれた。
よくわかんないけど褒められたのか?
そういや褒められただけだったの初めてかもしんない。
宿に戻ってオリハさんが剣を研いでくれた。
じいさんもそうだったけど剣を研いでる時ってすげえかっこいいんだ。
そんでなんかすげえ優しいんだ。
研ぎ終わった剣を渡される時に「頑張れ」って言われた。
なんか剣を持った手と胸が熱くなった。
その晩はいっぱい飲んだ。
オリハさんが飯を作ってくれた。
シャルと二人になったら飯どうしよう、と心配になったけどなんとかなるか、うん。
そんで途中から記憶がない。
起きた時なんでこうなってるのかわからなかった。
右にオリハさんがいて間にハルがいた。
そんで左にシャルがいた。
シャルの胸が鉄板でよかったって思った。
大事な仲間だからさ、変に意識したくないんだよな。
だからこっそりと抜け出した。
少し早かったけど顔を洗って目を覚ました。
部屋の荷物を片しながらオリハさんと会った時の頃から思い出してた。
大変だったけど楽しかった、うん。
そんなことしてたら二人とも起きてきた。
母の味だって朝食を作ってくれた。
なんかいつもみたいに美味いって言えなかった。
かわりにいつもよりよく噛んで食べた。
「母と呼んで良いのだぞ?」
「呼ばねーよ」
オリハさんが国境を渡る時にそう言ったのでいつもの様に答えた。
シャルが肘で突いてきたけど呼ばないもんは呼ばない。
そう呼んだらきっとなんか出るから。
かわりに握手した。
また会おうって。
振り向きながらハルと手を振ってくれた。
だから思いっきり振り返した。
次に会ったらちゃんと呼ぶから。
そう心の中で勝手に約束した。
かーちゃんと。
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