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第3章 元帝国編
3-7 神の武器、孤児院
しおりを挟む壮年の女性が他の町に通信をしている。
丸型の魔石を机の上に置くとその周りに魔法陣が現れる。
こちらの振動を特定の位置に送る魔法が予め込められている。
二つの魔石に一人の人間が同時に魔法を込める事で位置指定せずに魔石間で振動をやり取りする仕組みだ。
「で軍舞ってなんだっけ?」
「・・・さっきC級って言ったよね?」
「そうだよ、すごいだろ」
ニヒヒと笑いブイサインをする。
何処かで聞いたやり取りだ。
頭を抱えるフィナを尻目に頭を抱えたシャルが説明する。
支配者級、キングやロードの名を冠する魔物が現れた時に起こる現象が軍舞と呼ばれる。
知恵のない魔物が徒党を組み軍のように群れで行動する事から群舞とかけられ軍舞と呼ばれている。
特徴は斥候や囮、戦線を組んだり罠を仕組んだり様々だ。
危険度でいえば暴走よりも格上に当たる。
因みに暴走と呼ばれる現象は魔物がその土地に溢れかえって飢えて狂い津波のように人里に押し寄せる現象を指す。
「かもしれない、と言うのは?」
とシャルが手を差し出す。
PTメンバーも了承しましたよ、と言う意味で。
「ゴブリンとウェアウルフが一緒に行動してたらしいんです、斥候みたいに」
「フィナです、すみません」と苦笑いをしながら手を握る。
孤児院の出身ではないらしいが同い年の幼馴染だ、とティダが紹介してくれた。
「ん、ん、オークキングで間違いはないのか?ゴブリンキングなどではなく」
シャルが握手したなら我もせねばならぬ、と言う意味を込めて手を差し出し「ティダの母のようなものをしているオリハだ」と告げる。
ようなものと言ったのは朝ティダから「子供達が親を思い出したらいけない」と注意を促されたからだ。
「ではこの街を出たら母で良いのか?」との切り返しに「いいんじゃない?」と引っかかってしまったのか、諦めたのか。
「オークの生息地が西にあるんです、その手前の森で斥候が見つかったので・・・ふーん、それにしてもお母さんのような、ですか」
握手しながらティダをニヤニヤと見る。
「な、なんだよ」
「小さい時から年上に弱かったよね、八百屋の奥さんにも愛の告白してたし」
「ちょっ!お前!」
「他にも「まてっ!言うな!おい」
そんなやり取りを見ながらシャルが「母性・・・やはり胸か」と呟いていた。
オリハは肩を叩き「エルフは五十からだ」と声を掛けた。
後ろから冒険者達の嘆きの声が聞こえてくる。
「あいつなんだ?」「女に囲まれやがって」「ハーレム野郎め」と相変わらずのデフォだ。
その一団から一人の女性冒険者が声をかけてきた。
「あんた、今オリハって言った?」
「ぬ?ああそうだ」
「あの四十人斬りの聖女?!」
「・・・ああそう呼ばれているらしいな」
望んでつけられた訳でもないが、面と向かって言われるとやはり気恥ずかしくもある。
後で聞いた話だが、二つ名持ちはここ十数年いないらしい。
何故かあのギルマスが故意に広めた気がしてならないオリハだった。
そしてその答えに場が湧いた。
どうやら戦力不足だったらしい。
この街は東西の西の果てでここから南北に街道が枝分かれしている。
中継点として活気はあるものの、留まって活動している冒険者はいないとの事。
しばらく話を聞いたが「今すぐどうこうはない」「はっきりするまで滞在して欲しい」との事だ。
オリハとしても滞在は問題ない。
ティダの弟や妹達がいるのだ。
我が子を増やすチャンスである。
シャルは娘扱いしても嫌がらないし問題はない。
ただどうもオリハはお婆ちゃん扱いをされてる気がしてならない。
口には出さないが孫の座を維持する気のようだ。
了承して宿の位置を告げギルドを後にした。
「お土産とか買わなくていいの?」
「んー院についてからいるもの聞いた方がいいかなって、今何人いるかわかんないし」
「なら菓子なら問題あるまい」
と両手に抱える程度のお菓子を買った。
金を出したのはオリハだが抱えるのはティダの仕事だ。
個別に飴玉を購入してそれはオリハの懐にある。
「あとオリハさん」
「なんだ?」
「母のような、もダメ」
「ぐぬぬぬぬっ!考えておく」
その辺りの紹介をなくすつもりは欠片もなかった。
街を出てすぐ小高い丘がありその上に教会と孤児院があった。
正面は教会になっていて裏手に住居兼孤児院のような形になっている。
教会の横を歩いていると子供達の声が聞こえてくる。
一人の少女が洗濯物を干している。
その周りを走る子供や手伝いをする子、日陰でさらに小さい子に絵本を読んであげる子供。
そこは豪華な食堂に見えた。
オリハは食べる事が好きだ。
感じとれる匂いに関しても好みはある。
特に子供の楽しげな感情は蜜にも似た甘露であった。
目を輝かせるオリハを尻目にティダが前を歩き声を掛けた。
「ユーリ!」
洗濯物を干していた少女の手が止まる。
こちらを見て破顔一笑する。
「ティダ兄?!」
と走り寄り荷物を抱えるティダごと抱きついた。
「お帰り!いつ帰ったの?!」
抱きつくユーリの頭を撫でる。
「ああ昨日ついた」「しばらく街にいられるの?」「ああそうだな」そんなやり取りをしている。
(・・・我が抱きついたら嫌がるくせに)
と不満げだが微笑ましく眺めていた。
そんなオリハをシャルが見て含み笑いをしていた。
いつの間にか十人の子供達が近くにいた。
はっきりと覚えている子は飛びつくか悩んでウズウズしている。
誰?と不思議そうな顔をしている子もいる。
ユーリがこちらを見てティダに問いかける。
「ティダ兄、そちらの二人は?」
「ん?ああ同じ冒険者でPT組んでるオリハさんとシャルだ」
何時もの様に割って来られずに安堵する。
オリハを手で制してシャルが前に出る。
「ティダにお姉ちゃんの様に慕われてるシャルって言います」
そう笑顔で答えた。
「誰も慕ってねーし」と姉の部分は否定しなかったティダ。
一人の少女がおずおずと聞く。
「ティダ兄のお姉ちゃん?」
「そうよ~だからここにいる間はユーリさんみたいにお姉ちゃんと思ってくれていいからね」
しゃがんでそう答えた。
オリハはこれがシャルの助け舟だと直感した。
「我はティダに母の様に慕われてるオリハだ」
「お母さんなの?」
「ああ、だからここにいる間は母と慕って構わぬぞ、ほら飴をやろう」
と少女を飴で釣った。
近づいてきた少女の口に飴玉を放り込んだ。
「甘ーい!」
そう微笑む子を撫でる。
ハルを見て「お母さんの子供?」と聞かれ「ああ妹だ」と答えた。
ティダの年上好きを恐らく知っているだろうユーリは訝しげにティダを見た。
「違う!俺の子じゃねえ」と弁解している。
だがこれで母問題は解決した。
そうシャルを見るといい顔でサムズアップした。
よし、後で飴をやろう。
「いーなー俺も飴ちょうだい!」
「あー私もー」と子供達が近寄ってくる。
甘い匂いを漂わせて。
ここが天国か?と天界に座していた筈のオリハは思う。
可愛らしい子供達が近寄ってくる。
黒髪の少年や緑髪の少女が目をキラキラさせて駆け寄ってくる。
金色のお人形さんの様な目がくりっとした子や白髪で髭の生えたおっさんがオリハの胸に飛びこもうとして、いつの間にか荷物をシャルに預けたティダにアイアンクローされた。
「くっ!離せ!」
「・・・何やってんだ?」
「あの女性はお前の母親代わりなのだろう?」
「・・・で?」
「私はお前の父親代わりだ、つまりあの人は私の妻だっ!なら抱きついても何も問だいたっ!痛い痛い!」
と力を増したティダの手をタップする。
楽しい滞在になりそうだ。
オークキングも含めて・・・そう思うオリハだった。
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