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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち
1-8 神の武器、契約する
しおりを挟む暫しの雑談の後村長からの話になり、賊は三人だった事と恐らく斥候であった事を伝えた。
「そう・・・ですか、となると・・・」
「うむ、早ければ明晩にも襲撃の可能性があると思う」
オリハは可能性と言ったが確信に近かった。
肉体と共に得たものは、視覚、触覚、聴覚、嗅覚、味覚、そして直感だ。
数千年の時を経て得た経験と知識、そして勘が間違いないと告げていた。
そこからは色々な話し合いが行われた。
領主より派遣され衛兵勤務、兼農夫をしている男より説明があった。
現在この領土で斥候まで遣う盗賊団の報告は無い。
ここより東の領地内で四、五十人規模の盗賊団討伐の依頼が失敗に終わった、という報告が数ヶ月前にあったと。
ここまでは村長を含め村人達も知っていたようだ。
ただ東の領土より北、そして西に向かうと王都より離れ農村地帯が増える為、盗賊にとっての旨味がなくなるので、こちらにくる事は無いと予想していた。
だがタイミングを考えるとその盗賊団だと衛兵は述べた。
恐らく散り散りになった時の集合場所として、街に潜るのではなく山谷を超えたこちらの領土を選択したのだろうと。
十人前後であれば被害は出るだろうが、自分達で戦うという選択もあるだろうが、四、五十人となれば有り得ない選択だ。
近くの街へ衛兵、冒険者の防衛任務の依頼。
これは早くても三、四日はかかる。
そして盗賊団の斥候が妨害する事も憂慮される。
地方都市でもなく冒険者ギルドもない、しがない農村に偶然冒険者の一団が訪れる。
そんな事は有り得ない。
打つ手がないなら村を捨てるか?
その話しが出たところでオリハが提案した
「村長よ、この村の防衛、盗賊団の討伐任務、我に依頼せぬか?」
事もない態度で告げる。
「ああ、ちなみに言っておくが、主は防衛でよい、討伐はこの村を襲ってきた野盗が対象だ」
この言質は褒賞を持ち逃げしない。
その意味が込められている。
悪質な冒険者になると褒賞の前金を受け取って逃げ出す者もいるからだ。
そして例え高名な冒険者であったとしても一人で村の防衛任務に就くと言えば、一笑に付されるのが関の山だ。
だが目の前にいる女性が只者ではないのは、村長、村人達以下、目の当たりにしていた。
何せ二人の亡骸と一匹のロバ、そして商品を詰め込んだ幌付きの馬車を片手で押してきたのだから。
そしてわざわざ亡骸の傷と血糊を消すという行為から、魔法の知識も有している事が分かる。
この人ならもしかしたら・・・
そう思うと同時に夕刻の風景が脳裏に浮かぶ。
農村を駆け抜ける一陣の風の中、銀の髪を靡かせて赤子と少女を胸に優しい笑みと言葉を説いたあの姿を。
だからこそ縁も所縁もないこの人を巻き込むべきではない、巻き込んではいけないと考えた。
だから村長は言う。
勝算のない戦いなのだから。
「い、いや、しかしですな、防衛任務の褒賞など、村から出せる金額ではありません」
「ふむ、金なら村から出さぬでもよい、襲って来る奴らが多少でも持っておるだろう?その一部で構わん」
「そんな!その程度では・・・」
村を襲撃しようとする盗賊が、金銀財宝を背負って来るわけがない。
せいぜい腰袋程度だ。
それに他所より逃げてきた盗賊団だ。
アジトが山中にあったとして溜め込んでいる筈がない。
「当然それは一部だ、我が望むのは・・・二晩、三晩だろうがこの村の滞在中の食事だ」
「後は成功報酬で良いのだが・・・調味料をな、少しでよいのだ、分けてもらいたい」
ようやく本命の褒賞を伝えられたオリハは、さも金銀財宝を要求する悪党が如く笑みを浮かべる。
「「「「「「「・・・は?」」」」」」」
「ぬ?・・・駄目か?」
実はオリハは少し勘違いをしていた。
記憶の中で上質の胡椒は金砂と同等の価値があった。
砂糖なども高価なものだと。
この世界でオリハが知るだけでも、数人は他の世界から召喚されたものがいた。
その殆どがもれなく食の革命を起こしている。
つまり現代では調味料は庶民にも出回る安価な物になっていた。
それをさもドヤ顔で要求されたのだから、村人達は戸惑う他ない。
よくわからないが褒賞で断る術はなさそうだと村長は思い至った。
「で、ですが今日初めて会ったばかりの貴女に命をかけて頂くわけにはいきません!」
そう、巻き込んではいけない。
テーブルを囲う村人達も深く頷く。
オリハは強い決意と何か背中がむず痒くなる感情を感じ戸惑った。
何なのかわからないが、気持ち悪さの欠片もないので悪意ではないのだろうが。
「すまぬが・・・命は懸けれぬぞ?この子の母親に守ると誓ったのだ」
「そう・・・ですよね」
ここにいる全員が安堵した。
これで村はどうなるかわからないが・・・
だが、これで・・・
「野盗の四、五十人を切り捨てるだけであろうが?」
と、調味料寄越せとばかり苦々しく答えた。
オリハと寝ているハル以外の人間が、言葉の真意を慮った。
さも、そこまで散歩に行ってきます。
と言わんばかりに、野盗四、五十人切り捨てる。
そう言い切ったのだ。
その程度、造作もない、簡単な話だ、と。
村の壊滅という脅威を、肩についた糸屑のようにとってやろう、と。
「ぷっ」「ぷっぷっ」
何処からともなく我慢できない笑いがあがってくる。
一つが二つになり二つが三つになりいつのまにか笑いの輪となった。
ああ、この村は助かるんだ、と。
(む、むう)
オリハは何か変な事を言ってしまったのかと、考えている。
背中がむず痒いのを堪えて。
そんな思案顔を浮かべるオリハを見て、村長は涙目になりながら、右手を前に出し笑いを制した。
「あーすいません、オリハさん」
「う、うむ」
「では、この村の防衛、襲撃してくると思われる野盗の討伐の依頼、これを村に滞在して頂く間の飲食の保証、成功報酬は当村で可能な限りご用意をさせていただく、これでよろしいですか?」
「あ、ああ、問題ない」
「巻き込んだ形で申し訳ありませんが、よろしくお願い致します!」
「うむ、こちらこそよろしく頼むぞ」
これで調味料が手に入る、とニヤッと笑い村長と握手する。
村長の後ろに立っていた奥方と娘さんは、お互いを見合って深く頷くのだった。
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