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第6章 聖王国大陸で迷子のケイだよ(^^♪?
第8125話 迷子先で旅を始めたケイです(^^♪オジサンは市場にでも向かっているの!?(^^♪?
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窮地に陥っているのは、山城の織田勢だけではなかった。
「じえいたいの鉄の鳥が攻撃してきます!」
「ばかな!やつらの弾は切れているはずだ!」
「現に攻撃されているでしょうが!」
堺を出港し、毛利勢の畿内の拠点である兵庫の湊を制圧する予定だった織田隷下の九鬼水軍は、自衛隊のヘリと戦闘機の攻撃を受けていた。
500隻以上の大船団と言えども、所詮は木製モノコックの帆船。
本気になった自衛隊にかなう道理がなかった。
「作戦は失敗だ!堺に…いや、伊勢まで引き返すぞ!」
緑の長い髪が特徴の美少女が叫ぶ。
九鬼水軍の統領、九鬼嘉隆である。
「だめです!後続が邪魔になって転進できません。
座礁してしまいます」
船頭の返答に、嘉隆は自分たちが致命的なミスを犯していたことを悟る。
大船団は小回りが利かない。情勢不利と見て引き返そうにも、味方が邪魔になって動きが取れないのだ。
「なんてことだ…。じえいたいが弾が切れたという噂は嘘だったということか…」
嘉隆は歯噛みした。
自分たちは、偽情報に踊らされ、蟻地獄にまんまとはまった蟻だったのだ。
そのことに気づいたからだ。
だが、自衛隊が弾切れの状態にあるという情報は必ずしも嘘ではなかった。
確かに、自衛隊が21世紀の日本から持ち込んだ弾薬は底をつきつつあったのだ。
だが、現地調達した資材で製造した弾薬は唸るほどあった。
試行錯誤したものの、電子機器を必要としない銃弾や砲弾であれば、再現し製造することも可能だったのだ。
毛利勢と自衛隊は、織田勢に巧妙に情報を流した。
自衛隊が21世紀から持ち込んだ弾薬は枯渇しつつある。
これは嘘ではない。毛利勢の中にもこのことを懸念している者は多くいた。
この情報をそのまま織田勢に漏洩したのだ。
現地調達した資材で製造した弾薬のことは伏せたままで。
結果は大成功と言えた。
織田勢は、弾薬が尽きたという情報を都合よく解釈してしまった。つまり、自衛隊の経戦能力そのものが失われたと誤解してしまったのである。
「こちらキングバード。関船、小早船は始末した。
が、鉄甲船がまだだ」
『無理はしなくていいぞ。こちらの砲撃の射程内だからな』
SH-60Kのコ・パイロットが司令塔であるミサイル護衛艦”ながと”に報告する。
現地調達した資材で、50口径重機関銃や70ミリロケット弾は大量に製造されている。
純粋な木造船に過ぎない関船や小早船であればそれで十分だ。
だが、船体に鉄板を張って、なおかつ沈みにくいように設計がなされている鉄甲船は、今だ浮いていた。ヘリのクルーたちは舌を巻く。タフな戦闘艦とは聞いていたが、これほどとは。
「いえ、やらせてください。新兵器の実戦テストと行きたい」
『わかった。無理はするな』
通信が切られる。
九鬼水軍を兵庫の湊まで近づけず、航空戦力によって殲滅するのが所期の予定だ。
ここで”ながと”の手を煩わせては、航空隊の名折れだ。
「機長、おろしたてのMAT(対戦車ミサイル)を使います」
「わかった。これより鉄甲船を正面に捉える」
コ・パイロットの言葉に機長が応じる。
「目標正面、いいぞ!」
「MAT発射!誘導始め!」
SH-60Kのハードポイントに装着された円筒から飛翔体が発射され、鉄甲船へと向かっていく。
自衛隊は、単純な砲弾だけでなく、第一世代対戦車ミサイルに相当する兵装の開発にも成功していたのだ。
銅線と永久磁石によってモーターやサーボを再現することに成功したことで、めどがついたのだ。
ヘルファイアはもちろん、すでに旧式のTOWに比べてもさらに原始的。
有線誘導によっておおまかな操作が可能なだけのミサイルだ。
ミサイルそれ自体に目標を補足する装置がついていない。そのため、弾薬手であるコ・パイロットがミサイルと目標双方を見ながらジョイスティックで誘導するという発狂ものの複雑な操作が要求される。
だが、陸自と海自が第一世代対戦車ミサイルの使用マニュアルを保存していたことが幸いした。
難しいが、訓練を重ねれば不可能な作業ではなかったのである。
「進路修正、右に二度!」
コ・パイロットがダッシュボードに増設された原始的な照準器をにらみながらミサイルの進路を修正する。
照準と進路修正の難しさは、ミサイルの発射機にCCDカメラを装備することでかなり改善された。
HMDに投影されるカメラの映像と、目視で確認できるミサイルの進路を一致させることで、かなり正確な照準が可能となったのだ。
「MAT目標に命中!」
ミサイルは鉄甲船の喫水に命中する。成形炸薬弾の炸裂が船体の奥まで届き、さしもの鉄甲船もなすすべもなく沈んでいく。
「よし、次だ!」
機長は別の鉄甲船を捕捉するべく機体を遷移させる。
ミサイルの誘導の間はホバリングしなければならないのは問題だな。と彼は思う。
いくらこの時代の軍勢が原始的な火器しか持っていないといっても、ホバリング中のヘリは無防備であることには変わりない。
旋回して移動しながらでも撃てるミサイルが必要だ。そう思うのだった。
かくして、九鬼水軍は兵庫の湊の陸地を見ることもないまま壊滅することとなる。
京都盆地での織田勢の敗北とあわせて、織田勢の畿内における軍事的優位は完全に消失することとなるのである。
和泉の国、堺。
「九鬼水軍が壊滅したやと!」
「あほな!あれほどの大船団が一日にして?なにかの間違いや!」
「いや、織田勢は偽情報に踊らされとった言う噂もある」
「ど…どないするんや…。織田に協力しとったわしらも毛利の敵いうことになるやないか…?」
織田の勝利を信じて疑わなかった堺の町衆は戦々恐々となっていた。
堺は商業によって発展した自治都市であり、いかなる権力の言いなりにもならない。
それが今まで不文律として通用してきた。
一方で、朝廷や幕府、大名たちも堺の経済力をあてにしなければならない部分が多かったから、堺の自治を認めて来たのだ。
堺を叩き潰してしまえば、自分たちの首も締まるのだから。
「しかし、毛利勢は博多を押さえとる」
町衆の中でも実力者の色白の美少女、千利休が困惑しながら口を開く。
町衆の間に緊張が走る。
毛利は特に現状は堺の経済力をあてにしているわけではない。
交易や流通の拠点、大きな港としては博多があれば十分だからだ。
ついでに言えば、堺と博多は昔から仲が悪かった。
交易の利権をめぐって争いを繰り返して来たのだ。
つまりどういうことか。
毛利と自衛隊は堺を不可侵の治外法権の町と考えることはない。
むしろ、目障りな不穏分子、織田に与する敵と判断して殲滅を企図する可能性さえあった。
「も…申し上げます!
沖合に巨大な戦船が!じ…じえいたいと思われます!」
町衆の不安を裏付けるように、会議に伝令が駆け込んでくる。
その場にいる皆が理解した。
自治都市として半世紀以上に渡り、いかなる権力の介入もはねつけて来た堺の歴史が今日で閉じることを。
AH-64D攻撃ヘリの30ミリチェーンガンと、UH-60JAのドアガンである50口径重機関銃の威嚇射撃を露払いとして、揚陸作戦が開始される。
輸送艦”おおすみ”から飛び立ったCH-47J輸送ヘリによって先遣隊が送り込まれ、砂浜を実効制圧する。
そうしたら海路での陸揚げの開始だ。
エアクッション揚陸艇によって各種の車両と、自衛隊と毛利勢の混成部隊の陸上戦力が揚陸されていく。
別動隊は水陸両用車両であるAAV7によって堺の南部に上陸。完全に包囲する体勢を敷く。
堺はその地形と立地条件から天然の要塞とみなされてきた。
応永の乱において、室町幕府に背いた大内義弘が、幕府方の三分の一の兵力で三か月もの間籠城できたのがその証左だ。
だが、空と海から強襲揚陸をかけられてはひとたまりもなかった。
堺の青年団も私兵たちも、戦わずして降伏して行った。
「堺は今後、毛利さまに絶対の服従を誓います。
なんでも差し上げますよって、乱暴はお控えいただきたく」
「その言葉、信じてよろしいか?」
砂浜の橋頭保まで出張ってきて地面に頭を擦りつける堺州を、陸自指揮官である杉原一尉は見下ろす。
まるで汚いものでも見るような目で。
堺衆の一番前にいる利休は戦慄した。
敗者に尊厳などない。財産を全て奪われた挙句、男たちの慰み者にされる可能性もあり得るのだ。
だが、杉原の要求は彼女の予測とは全く違った。
「では、そちらで保管している帳簿や文書を全て提出していただく。
織田家との取引に関するものは、特にどんなささいなものでも」
利休は一瞬返答に窮する。
杉原の言う通りにすることは、織田を売ることだ。今まで築いてきた信頼関係をご和算にして、自分たちだけ助かろうとすることだ。
いや、それだけではない。商売上の秘密を漏らしたとして、堺は今後どこからも信頼されなくなる危険もある。
「承知いたしました。なんでも提出いたします」
だが、利休は平伏して要求を受け入れる。
織田はすでに敗れた。自分たちを守るものはなにもない。
今や、他人のことより、自分のことを心配する段階なのだ。
(信長様、すんまへん)
利休は胸の中で詫びた。
織田信長は一応山城から脱出したようだが、織田勢は壊滅状態と聞く。
信長が本拠地である岐阜に帰りつける可能性は万に一つもないだろう。
堺が毛利の恭順してしまったらなおのこと。
利休は商売とは別に、個人的に織田信長という女が好きであった。
堺を守るために、友と呼べる人間を売り渡す。
業腹なものを感じて、利休は静かに涙を流した。
「なんと…いうことだ…」
孤立無援、着の身着のままでようやく境にたどり着いた信長は、がっくりと膝をつく。
京都盆地での織田の壊滅が合図であったかのように、今まで従っていた者たちが一斉に離反してしまった。
近江の浅井長政、大和の松永久秀といった勢力が裏切ったために、陸路で山城から脱出することは不可能になってしまった。
堺に密かにたどり着き、船で紀伊半島を回って尾張から岐阜へ渡ればまだ機会はある。
そう考えた信長の希望は打ち砕かれた。
自衛隊の巨大な戦船から兵たちが次々と揚陸され、堺を制圧して行く。
(やはり、じえいたいが弾切れという情報は偽情報であったか…)
信長は自分たちが見事に罠にはめられ、決定的な敗北を喫したことを悟る。
堺が制圧されているということは、九鬼水軍が壊滅したという噂も本当なのだろう。
堺は最後まで抵抗することはないだろう。
彼らは武家ではなく商人だ。割に合わないことは絶対にしない。
織田に協力していては儲からないし、自分たちが危険だと判断すれば、あっさり毛利に鞍替えすることだろう。
「さて…どうするか…」
脚に力が入らずに座り込んでしまった信長は、ものを考えることさえできずにいた。
どう考えても手詰まり。降伏か死かの選択しか思いつかない。
(なんだ…?)
その時、信長は異様な気配を感じた。
「これは…?」
いつの間にか、自分の周囲にどす黒い靄とも陰ともつかないものが立ち込めていることに、信長は戦慄する。
それは肌を、口を、目を、耳を通して彼女の中に入り込んできた。
「私に力を貸す…?
よせ…やめてくれ!私は物の怪になどなりとうない…!」
必死で抵抗する信長だが、頭の中にキーンと嫌な金属音がして、強制的に冷静にされるのを感じた。
(自分はもはやこのどす黒い何かに取り込まれてしまう。感情を高ぶらせることさえできない)
それを悟った信長は、静かに涙を流した。
どす黒いものは完全に信長を内部に取り込んでしまう。
そして、離れた沖合で陸地の様子をうかがうもう一隻の戦船に注意を向けた。
堺から西に5キロの沖合。
ミサイル護衛艦”ながと”艦内。
「な…なんだこれは…!」
ブリッジの副長席で堺制圧の状況を見極めていた霧島一尉は、突然艦に向けられ始めたレーザーのような光を見た。
クルーたちも驚愕する。
厳密に言ってそれはレーザーではない。いや、光の類と言えるかどうかさえ問題だった。
収束したまばゆい複数の光の帯は、ガラスだろうと船体だろうとお構いなしに透過して内部まで照らす。
「各区、損害知らせ!」
何かの攻撃である可能性を勘ぐった霧島は、各区に報告を求める。
『操舵室損害なし!』
『CIC、損害認められず!』
『機関室、損害ありません』
艦の各所から損害がない旨の報告が上がって来る。
「副長、これは攻撃ではないな」
「ええ、これ自体は攻撃ではありません。だが、俺の直感が告げています。
これはやばい。今までの”邪気”による現象がかわいく思えるくらいに、と」
艦長である梅沢一佐の言葉に、霧島は渋面で応じる。
霧島には、なんとなくだが照射されたレーザーもどきの意味が分かった気がした。
前に映画で同じような光景を見たことがある。
その映画とは”トランスフォーマー”だ。
宇宙から飛来した金属生命体たちが、地球の乗り物をスキャンしてそっくりに変形し擬態する。
映画と現実を一緒にするなと怒られそうなものだが、霧島には確信があった。
レーザーもどきの、艦全体を丁寧になぞるような動きは、”ながと”の構造をトレースしているように見えたのだ。
『対水上レーダーにコンタクト。
北東、距離約4キロです。水上艦艇のようですが…。
我々の僚艦でも、この時代の船でもありません!』
CICからの報告に、ぎょっとした霧島と梅沢が顔を見合わせる。
「総員、対空、対水上戦闘よーい!」
梅沢が命令を下す。
「CICに下ります」
「うむ、戦闘の指揮は副長に任せる」
霧島の言葉に、梅沢が短く応じる。
「シーホーク2番機より、アンノウンの光学映像来ます」
CICのスクリーンに、あらかじめ発艦させて周囲を警戒させておいたSH-60Kから、正体不明のレーダー反応の映像が送られて来る。
「うそだろおい…!」
霧島は、そんな言葉が口をついて出ていた。
CICの他のクルーたちも同じ気持ちだった。
”ながと”に危機が訪れようとしていた。
窮地に陥っているのは、山城の織田勢だけではなかった。
「じえいたいの鉄の鳥が攻撃してきます!」
「ばかな!やつらの弾は切れているはずだ!」
「現に攻撃されているでしょうが!」
堺を出港し、毛利勢の畿内の拠点である兵庫の湊を制圧する予定だった織田隷下の九鬼水軍は、自衛隊のヘリと戦闘機の攻撃を受けていた。
500隻以上の大船団と言えども、所詮は木製モノコックの帆船。
本気になった自衛隊にかなう道理がなかった。
「作戦は失敗だ!堺に…いや、伊勢まで引き返すぞ!」
緑の長い髪が特徴の美少女が叫ぶ。
九鬼水軍の統領、九鬼嘉隆である。
「だめです!後続が邪魔になって転進できません。
座礁してしまいます」
船頭の返答に、嘉隆は自分たちが致命的なミスを犯していたことを悟る。
大船団は小回りが利かない。情勢不利と見て引き返そうにも、味方が邪魔になって動きが取れないのだ。
「なんてことだ…。じえいたいが弾が切れたという噂は嘘だったということか…」
嘉隆は歯噛みした。
自分たちは、偽情報に踊らされ、蟻地獄にまんまとはまった蟻だったのだ。
そのことに気づいたからだ。
だが、自衛隊が弾切れの状態にあるという情報は必ずしも嘘ではなかった。
確かに、自衛隊が21世紀の日本から持ち込んだ弾薬は底をつきつつあったのだ。
だが、現地調達した資材で製造した弾薬は唸るほどあった。
試行錯誤したものの、電子機器を必要としない銃弾や砲弾であれば、再現し製造することも可能だったのだ。
毛利勢と自衛隊は、織田勢に巧妙に情報を流した。
自衛隊が21世紀から持ち込んだ弾薬は枯渇しつつある。
これは嘘ではない。毛利勢の中にもこのことを懸念している者は多くいた。
この情報をそのまま織田勢に漏洩したのだ。
現地調達した資材で製造した弾薬のことは伏せたままで。
結果は大成功と言えた。
織田勢は、弾薬が尽きたという情報を都合よく解釈してしまった。つまり、自衛隊の経戦能力そのものが失われたと誤解してしまったのである。
「こちらキングバード。関船、小早船は始末した。
が、鉄甲船がまだだ」
『無理はしなくていいぞ。こちらの砲撃の射程内だからな』
SH-60Kのコ・パイロットが司令塔であるミサイル護衛艦”ながと”に報告する。
現地調達した資材で、50口径重機関銃や70ミリロケット弾は大量に製造されている。
純粋な木造船に過ぎない関船や小早船であればそれで十分だ。
だが、船体に鉄板を張って、なおかつ沈みにくいように設計がなされている鉄甲船は、今だ浮いていた。ヘリのクルーたちは舌を巻く。タフな戦闘艦とは聞いていたが、これほどとは。
「いえ、やらせてください。新兵器の実戦テストと行きたい」
『わかった。無理はするな』
通信が切られる。
九鬼水軍を兵庫の湊まで近づけず、航空戦力によって殲滅するのが所期の予定だ。
ここで”ながと”の手を煩わせては、航空隊の名折れだ。
「機長、おろしたてのMAT(対戦車ミサイル)を使います」
「わかった。これより鉄甲船を正面に捉える」
コ・パイロットの言葉に機長が応じる。
「目標正面、いいぞ!」
「MAT発射!誘導始め!」
SH-60Kのハードポイントに装着された円筒から飛翔体が発射され、鉄甲船へと向かっていく。
自衛隊は、単純な砲弾だけでなく、第一世代対戦車ミサイルに相当する兵装の開発にも成功していたのだ。
銅線と永久磁石によってモーターやサーボを再現することに成功したことで、めどがついたのだ。
ヘルファイアはもちろん、すでに旧式のTOWに比べてもさらに原始的。
有線誘導によっておおまかな操作が可能なだけのミサイルだ。
ミサイルそれ自体に目標を補足する装置がついていない。そのため、弾薬手であるコ・パイロットがミサイルと目標双方を見ながらジョイスティックで誘導するという発狂ものの複雑な操作が要求される。
だが、陸自と海自が第一世代対戦車ミサイルの使用マニュアルを保存していたことが幸いした。
難しいが、訓練を重ねれば不可能な作業ではなかったのである。
「進路修正、右に二度!」
コ・パイロットがダッシュボードに増設された原始的な照準器をにらみながらミサイルの進路を修正する。
照準と進路修正の難しさは、ミサイルの発射機にCCDカメラを装備することでかなり改善された。
HMDに投影されるカメラの映像と、目視で確認できるミサイルの進路を一致させることで、かなり正確な照準が可能となったのだ。
「MAT目標に命中!」
ミサイルは鉄甲船の喫水に命中する。成形炸薬弾の炸裂が船体の奥まで届き、さしもの鉄甲船もなすすべもなく沈んでいく。
「よし、次だ!」
機長は別の鉄甲船を捕捉するべく機体を遷移させる。
ミサイルの誘導の間はホバリングしなければならないのは問題だな。と彼は思う。
いくらこの時代の軍勢が原始的な火器しか持っていないといっても、ホバリング中のヘリは無防備であることには変わりない。
旋回して移動しながらでも撃てるミサイルが必要だ。そう思うのだった。
かくして、九鬼水軍は兵庫の湊の陸地を見ることもないまま壊滅することとなる。
京都盆地での織田勢の敗北とあわせて、織田勢の畿内における軍事的優位は完全に消失することとなるのである。
和泉の国、堺。
「九鬼水軍が壊滅したやと!」
「あほな!あれほどの大船団が一日にして?なにかの間違いや!」
「いや、織田勢は偽情報に踊らされとった言う噂もある」
「ど…どないするんや…。織田に協力しとったわしらも毛利の敵いうことになるやないか…?」
織田の勝利を信じて疑わなかった堺の町衆は戦々恐々となっていた。
堺は商業によって発展した自治都市であり、いかなる権力の言いなりにもならない。
それが今まで不文律として通用してきた。
一方で、朝廷や幕府、大名たちも堺の経済力をあてにしなければならない部分が多かったから、堺の自治を認めて来たのだ。
堺を叩き潰してしまえば、自分たちの首も締まるのだから。
「しかし、毛利勢は博多を押さえとる」
町衆の中でも実力者の色白の美少女、千利休が困惑しながら口を開く。
町衆の間に緊張が走る。
毛利は特に現状は堺の経済力をあてにしているわけではない。
交易や流通の拠点、大きな港としては博多があれば十分だからだ。
ついでに言えば、堺と博多は昔から仲が悪かった。
交易の利権をめぐって争いを繰り返して来たのだ。
つまりどういうことか。
毛利と自衛隊は堺を不可侵の治外法権の町と考えることはない。
むしろ、目障りな不穏分子、織田に与する敵と判断して殲滅を企図する可能性さえあった。
「も…申し上げます!
沖合に巨大な戦船が!じ…じえいたいと思われます!」
町衆の不安を裏付けるように、会議に伝令が駆け込んでくる。
その場にいる皆が理解した。
自治都市として半世紀以上に渡り、いかなる権力の介入もはねつけて来た堺の歴史が今日で閉じることを。
AH-64D攻撃ヘリの30ミリチェーンガンと、UH-60JAのドアガンである50口径重機関銃の威嚇射撃を露払いとして、揚陸作戦が開始される。
輸送艦”おおすみ”から飛び立ったCH-47J輸送ヘリによって先遣隊が送り込まれ、砂浜を実効制圧する。
そうしたら海路での陸揚げの開始だ。
エアクッション揚陸艇によって各種の車両と、自衛隊と毛利勢の混成部隊の陸上戦力が揚陸されていく。
別動隊は水陸両用車両であるAAV7によって堺の南部に上陸。完全に包囲する体勢を敷く。
堺はその地形と立地条件から天然の要塞とみなされてきた。
応永の乱において、室町幕府に背いた大内義弘が、幕府方の三分の一の兵力で三か月もの間籠城できたのがその証左だ。
だが、空と海から強襲揚陸をかけられてはひとたまりもなかった。
堺の青年団も私兵たちも、戦わずして降伏して行った。
「堺は今後、毛利さまに絶対の服従を誓います。
なんでも差し上げますよって、乱暴はお控えいただきたく」
「その言葉、信じてよろしいか?」
砂浜の橋頭保まで出張ってきて地面に頭を擦りつける堺州を、陸自指揮官である杉原一尉は見下ろす。
まるで汚いものでも見るような目で。
堺衆の一番前にいる利休は戦慄した。
敗者に尊厳などない。財産を全て奪われた挙句、男たちの慰み者にされる可能性もあり得るのだ。
だが、杉原の要求は彼女の予測とは全く違った。
「では、そちらで保管している帳簿や文書を全て提出していただく。
織田家との取引に関するものは、特にどんなささいなものでも」
利休は一瞬返答に窮する。
杉原の言う通りにすることは、織田を売ることだ。今まで築いてきた信頼関係をご和算にして、自分たちだけ助かろうとすることだ。
いや、それだけではない。商売上の秘密を漏らしたとして、堺は今後どこからも信頼されなくなる危険もある。
「承知いたしました。なんでも提出いたします」
だが、利休は平伏して要求を受け入れる。
織田はすでに敗れた。自分たちを守るものはなにもない。
今や、他人のことより、自分のことを心配する段階なのだ。
(信長様、すんまへん)
利休は胸の中で詫びた。
織田信長は一応山城から脱出したようだが、織田勢は壊滅状態と聞く。
信長が本拠地である岐阜に帰りつける可能性は万に一つもないだろう。
堺が毛利の恭順してしまったらなおのこと。
利休は商売とは別に、個人的に織田信長という女が好きであった。
堺を守るために、友と呼べる人間を売り渡す。
業腹なものを感じて、利休は静かに涙を流した。
「なんと…いうことだ…」
孤立無援、着の身着のままでようやく境にたどり着いた信長は、がっくりと膝をつく。
京都盆地での織田の壊滅が合図であったかのように、今まで従っていた者たちが一斉に離反してしまった。
近江の浅井長政、大和の松永久秀といった勢力が裏切ったために、陸路で山城から脱出することは不可能になってしまった。
堺に密かにたどり着き、船で紀伊半島を回って尾張から岐阜へ渡ればまだ機会はある。
そう考えた信長の希望は打ち砕かれた。
自衛隊の巨大な戦船から兵たちが次々と揚陸され、堺を制圧して行く。
(やはり、じえいたいが弾切れという情報は偽情報であったか…)
信長は自分たちが見事に罠にはめられ、決定的な敗北を喫したことを悟る。
堺が制圧されているということは、九鬼水軍が壊滅したという噂も本当なのだろう。
堺は最後まで抵抗することはないだろう。
彼らは武家ではなく商人だ。割に合わないことは絶対にしない。
織田に協力していては儲からないし、自分たちが危険だと判断すれば、あっさり毛利に鞍替えすることだろう。
「さて…どうするか…」
脚に力が入らずに座り込んでしまった信長は、ものを考えることさえできずにいた。
どう考えても手詰まり。降伏か死かの選択しか思いつかない。
(なんだ…?)
その時、信長は異様な気配を感じた。
「これは…?」
いつの間にか、自分の周囲にどす黒い靄とも陰ともつかないものが立ち込めていることに、信長は戦慄する。
それは肌を、口を、目を、耳を通して彼女の中に入り込んできた。
「私に力を貸す…?
よせ…やめてくれ!私は物の怪になどなりとうない…!」
必死で抵抗する信長だが、頭の中にキーンと嫌な金属音がして、強制的に冷静にされるのを感じた。
(自分はもはやこのどす黒い何かに取り込まれてしまう。感情を高ぶらせることさえできない)
それを悟った信長は、静かに涙を流した。
どす黒いものは完全に信長を内部に取り込んでしまう。
そして、離れた沖合で陸地の様子をうかがうもう一隻の戦船に注意を向けた。
堺から西に5キロの沖合。
ミサイル護衛艦”ながと”艦内。
「な…なんだこれは…!」
ブリッジの副長席で堺制圧の状況を見極めていた霧島一尉は、突然艦に向けられ始めたレーザーのような光を見た。
クルーたちも驚愕する。
厳密に言ってそれはレーザーではない。いや、光の類と言えるかどうかさえ問題だった。
収束したまばゆい複数の光の帯は、ガラスだろうと船体だろうとお構いなしに透過して内部まで照らす。
「各区、損害知らせ!」
何かの攻撃である可能性を勘ぐった霧島は、各区に報告を求める。
『操舵室損害なし!』
『CIC、損害認められず!』
『機関室、損害ありません』
艦の各所から損害がない旨の報告が上がって来る。
「副長、これは攻撃ではないな」
「ええ、これ自体は攻撃ではありません。だが、俺の直感が告げています。
これはやばい。今までの”邪気”による現象がかわいく思えるくらいに、と」
艦長である梅沢一佐の言葉に、霧島は渋面で応じる。
霧島には、なんとなくだが照射されたレーザーもどきの意味が分かった気がした。
前に映画で同じような光景を見たことがある。
その映画とは”トランスフォーマー”だ。
宇宙から飛来した金属生命体たちが、地球の乗り物をスキャンしてそっくりに変形し擬態する。
映画と現実を一緒にするなと怒られそうなものだが、霧島には確信があった。
レーザーもどきの、艦全体を丁寧になぞるような動きは、”ながと”の構造をトレースしているように見えたのだ。
『対水上レーダーにコンタクト。
北東、距離約4キロです。水上艦艇のようですが…。
我々の僚艦でも、この時代の船でもありません!』
CICからの報告に、ぎょっとした霧島と梅沢が顔を見合わせる。
「総員、対空、対水上戦闘よーい!」
梅沢が命令を下す。
「CICに下ります」
「うむ、戦闘の指揮は副長に任せる」
霧島の言葉に、梅沢が短く応じる。
「シーホーク2番機より、アンノウンの光学映像来ます」
CICのスクリーンに、あらかじめ発艦させて周囲を警戒させておいたSH-60Kから、正体不明のレーダー反応の映像が送られて来る。
「うそだろおい…!」
霧島は、そんな言葉が口をついて出ていた。
CICの他のクルーたちも同じ気持ちだった。
”ながと”に危機が訪れようとしていた。
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※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
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