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「危ない!」
悲鳴じみた女性の声が聞こえたかと思うと俺の目の前でプランターが落下し音を立てて壊れた。驚いて尻もちをつき呆然としてしまう。
「おぉ・・・」
不動産屋の2階から女性が真っ青になりながら涙まじりに謝り続けている。周囲の人も気づき近づいてきた。
「大丈夫か、君!」
「びっくりしましたけど大丈夫です」
不動産屋からも事態を把握したのか年配の男性が飛び出してきた。その後を追って先程の女性が駆け寄ってくる。
「ごめんなさい、手を滑らせてしまって!怪我はない?」
「平気です。声が聞こえたので立ち止まれましたので当たってません」
「奥さん気をつけないといけないよ」
「えぇ本当に申し訳ないわ」
「それにしても君。当たっていてもおかしくなかったのに、ラッキーだったね」
「ラッキー?」
俺は目をぱちくりさせる。確かに・・・。
「本当に幸運なことです」
初めて言われたその言葉が嬉しくて俺は笑った。
「「全然ラッキーじゃない!」」
拓斗と千雪から息の合ったツッコミが入る。俺は熱の入る二人にまぁまぁと酒を注ぐ。
「いままでなら絶対当たってたと思うとめちゃくちゃラッキーじゃん」
「最底辺からの幸運なんだよそれ。そもそもプランターが落ちてくることが異常」
「でもその出会いのおかげで職にありつけたんだぞ!」
俺はプランターを落下させた夫婦が営む不動産屋に雇われる事になったのだ。ちなみに今日は俺の家で、拓斗と千雪と祝杯をあげている。
「天に怪我がなかった事は本当に喜ばしい事だが」
千雪は納得いかなそうにビールを飲み干す。良い呑みっぷり。
「お前はこれから頭上にも注意して歩け」
「無茶ぶりするな」
拓斗は作ってきたおつまみを口に放り込みながら難しい顔をする。
「それにしてもまさか三人で呑む日がくるなんて思わなかったな~」
男たちが固く手を握り合っていたのは二週間前。
いわゆる握手というはず・・・はずだが、なんか腕相撲でも始めそうじゃない、こいつら。俺はぼんやりとその様子をベンチに座りながら白と黒の犬と一緒に眺めていた。
「どうも初めまして天の従兄弟の拓斗です」
「こちらこそ初めまして、千雪です」
二人ともあんなだっけ?
拓斗は普段不愛想な顔ばかりだが今日は穏やかに微笑んでいる。客商売してるし仕事してる時はあんな感じなんだっけ?千雪はと言えばこちらも微笑みを絶やさない、悠然とする様はどちらかと妖艶でこちらをどきりとさせた。
あれから千雪は急速に外の世界に馴染み始めた。
知らぬ間に母とも挨拶を済ませていた時には流石に驚いた。皆千雪の事をそういえばそこにいたみたいな認識のようで神様のそういう力本当に便利だと思うけど外堀を埋められる感じに少し慄いている。
千雪は俺の思った通り神様ではない。それに近いらしいけど今は龍神様の御使いらしい。
何故嘘付いていたのかと尋ねれば、過去に俺から「神様になって」と言われたのを気にして見栄を張ってしまったらしい。正直御使いですって言われてもなんの事だかわからなかったけど。
本当はそこら辺の話ちゃんと理解してあげた方が良い気もするが深入りするのも危ない気がして有耶無耶にしてる。
俺の愛してるのは千雪だけなんだしそれでいいじゃないか。
それにしても拓斗と千雪は何の話をしているんだ?なんか仲良さそう。悪い事じゃないけどちょっと妬ける。
「すごいな・・・もう意気投合したの?」
「「はぁ?!」」
二人の息の合った返事。邪魔してごめんってば。
「あはは、本当にお前ら仲良くて俺嬉しい」
「弱いとは拓斗君から聞いていたけど本当に天、酒弱いんだな。それさっきから何回言ってるか教えてあげようか?」
よく覚えてないが缶チューハイ2本と拓斗から奪った日本酒を呑んで俺はほろ酔い気分だ。千雪はといえば、かなり吞んでいるはずだが、まだ今から一杯目ですみたいな顔でケロリとしてる。拓斗も顔は赤いが言動に出ていない。
「だからお前に日本酒は早いって言ったんだ」
「でも美味しかった」
「それは良かったな、千雪さんは全然酔わないな」
「俺はかなり強い。今の所潰れた事はないな。あと二日酔いもない」
千雪は俺を見てふふっと笑いながらお猪口に口をつける。
「へぇーそれはいいな。おい、天ちょっと水飲め」
「天、ずっと横に揺れてるぞ」
「まだ酔ってないです~。水も要りません!」
拓斗が水を持ってきてくれたがNOと押し返す。「千雪さん水飲ませて」と拓斗がコップを机に置く。
「拓斗お兄ちゃんは気が利くな~」
「誰がお兄ちゃんだ。お前営業マンになるのに酒が弱いって致命的だぞ。酒は飲んでも飲まれるなって知ってるか?」
「じゃあ二人が練習してくれたらいいよ」
楽しくて笑っていると拓斗はまた立ち上がろうとする。服の裾を掴むと拓斗は困った顔をしている。
「どこ行くの?」
「片付け。なんだかんだで三時間も呑んでたしそろそろ帰る」
「俺がやるから置いておいて」
「わかったわかった。水に付けておくから」
そういうと掴んだ手が千雪の手と重なって落ちた。それを確認して拓斗はキッチンに消えていく。
「天、水飲もう」
こくりと素直に応じる。・・・応じたいけどコップは二つに見えますね。おもしれー。あははと笑っていると千雪の唇が触れて水が入って来た。冷たくておいしい。ちゅっと最後に唇にキスしてくれる。
「俺以外とこういう事するなよ」
釘を刺された。しないよお前と以外しても気持ち悪い。
「千雪冷たい」
「天が熱いんだ」
そっかーと言いながら千雪が俺を引き寄せてくれた。肩に頭のせる、フワフワしてる、ダメだ眠い・・・。
「寝るなら布団行け天。いや、それで二階行くの危ないから布団下ろすか?」
「大丈夫。ソファーに寝かせて起きたら連れて行く」
「千雪さん今日泊まるんだっけ。じゃあ頼みます」
頭上で拓斗の帰るからって声がする。見送らなきゃって思ったけど手を振るだけしかできなかった、無念。
「目覚めたか?」
布団の上で丸くなる俺に千雪の体重が重なってきた。先程揺れたなと思っていたが千雪が二階に運んでくれたみたいだ。それよりも、
「恥ずい・・・」
「可愛かったじゃないか。いつもよりかなり素直に話してくれるんだな。でもあれを拓斗君にも見せてしまったのは惜しかった。酒を呑むのは俺とだけにしろ」
「こんな醜態誰にも見せたくなかった。酒好きだけど全然飲めない、父さんも駄目だもんな~。なんで千雪そんなに強いんだよ~?」
まだふにゃふにゃしてる俺を見て笑ってる。
「性質?」
こればっかりは血に抗えないか。目の前で銀糸が揺れる。千雪の髪サラサラでキラキラで見てて飽きない。
「千雪」
何?と振り返った。
「幸せ」
「うん?」
「お前が愛してくれてるのが分かる。これからどんな不幸が訪れても千雪が隣で笑ってくれてるだけで幸せ。ありがとう」
「天が離れたいって言っても俺はもう手放す気はないから。何があっても変わらぬ愛し続けるよ」
あぁ暖かい。俺の神様は陽だまりの様に笑い返してくれた。
悲鳴じみた女性の声が聞こえたかと思うと俺の目の前でプランターが落下し音を立てて壊れた。驚いて尻もちをつき呆然としてしまう。
「おぉ・・・」
不動産屋の2階から女性が真っ青になりながら涙まじりに謝り続けている。周囲の人も気づき近づいてきた。
「大丈夫か、君!」
「びっくりしましたけど大丈夫です」
不動産屋からも事態を把握したのか年配の男性が飛び出してきた。その後を追って先程の女性が駆け寄ってくる。
「ごめんなさい、手を滑らせてしまって!怪我はない?」
「平気です。声が聞こえたので立ち止まれましたので当たってません」
「奥さん気をつけないといけないよ」
「えぇ本当に申し訳ないわ」
「それにしても君。当たっていてもおかしくなかったのに、ラッキーだったね」
「ラッキー?」
俺は目をぱちくりさせる。確かに・・・。
「本当に幸運なことです」
初めて言われたその言葉が嬉しくて俺は笑った。
「「全然ラッキーじゃない!」」
拓斗と千雪から息の合ったツッコミが入る。俺は熱の入る二人にまぁまぁと酒を注ぐ。
「いままでなら絶対当たってたと思うとめちゃくちゃラッキーじゃん」
「最底辺からの幸運なんだよそれ。そもそもプランターが落ちてくることが異常」
「でもその出会いのおかげで職にありつけたんだぞ!」
俺はプランターを落下させた夫婦が営む不動産屋に雇われる事になったのだ。ちなみに今日は俺の家で、拓斗と千雪と祝杯をあげている。
「天に怪我がなかった事は本当に喜ばしい事だが」
千雪は納得いかなそうにビールを飲み干す。良い呑みっぷり。
「お前はこれから頭上にも注意して歩け」
「無茶ぶりするな」
拓斗は作ってきたおつまみを口に放り込みながら難しい顔をする。
「それにしてもまさか三人で呑む日がくるなんて思わなかったな~」
男たちが固く手を握り合っていたのは二週間前。
いわゆる握手というはず・・・はずだが、なんか腕相撲でも始めそうじゃない、こいつら。俺はぼんやりとその様子をベンチに座りながら白と黒の犬と一緒に眺めていた。
「どうも初めまして天の従兄弟の拓斗です」
「こちらこそ初めまして、千雪です」
二人ともあんなだっけ?
拓斗は普段不愛想な顔ばかりだが今日は穏やかに微笑んでいる。客商売してるし仕事してる時はあんな感じなんだっけ?千雪はと言えばこちらも微笑みを絶やさない、悠然とする様はどちらかと妖艶でこちらをどきりとさせた。
あれから千雪は急速に外の世界に馴染み始めた。
知らぬ間に母とも挨拶を済ませていた時には流石に驚いた。皆千雪の事をそういえばそこにいたみたいな認識のようで神様のそういう力本当に便利だと思うけど外堀を埋められる感じに少し慄いている。
千雪は俺の思った通り神様ではない。それに近いらしいけど今は龍神様の御使いらしい。
何故嘘付いていたのかと尋ねれば、過去に俺から「神様になって」と言われたのを気にして見栄を張ってしまったらしい。正直御使いですって言われてもなんの事だかわからなかったけど。
本当はそこら辺の話ちゃんと理解してあげた方が良い気もするが深入りするのも危ない気がして有耶無耶にしてる。
俺の愛してるのは千雪だけなんだしそれでいいじゃないか。
それにしても拓斗と千雪は何の話をしているんだ?なんか仲良さそう。悪い事じゃないけどちょっと妬ける。
「すごいな・・・もう意気投合したの?」
「「はぁ?!」」
二人の息の合った返事。邪魔してごめんってば。
「あはは、本当にお前ら仲良くて俺嬉しい」
「弱いとは拓斗君から聞いていたけど本当に天、酒弱いんだな。それさっきから何回言ってるか教えてあげようか?」
よく覚えてないが缶チューハイ2本と拓斗から奪った日本酒を呑んで俺はほろ酔い気分だ。千雪はといえば、かなり吞んでいるはずだが、まだ今から一杯目ですみたいな顔でケロリとしてる。拓斗も顔は赤いが言動に出ていない。
「だからお前に日本酒は早いって言ったんだ」
「でも美味しかった」
「それは良かったな、千雪さんは全然酔わないな」
「俺はかなり強い。今の所潰れた事はないな。あと二日酔いもない」
千雪は俺を見てふふっと笑いながらお猪口に口をつける。
「へぇーそれはいいな。おい、天ちょっと水飲め」
「天、ずっと横に揺れてるぞ」
「まだ酔ってないです~。水も要りません!」
拓斗が水を持ってきてくれたがNOと押し返す。「千雪さん水飲ませて」と拓斗がコップを机に置く。
「拓斗お兄ちゃんは気が利くな~」
「誰がお兄ちゃんだ。お前営業マンになるのに酒が弱いって致命的だぞ。酒は飲んでも飲まれるなって知ってるか?」
「じゃあ二人が練習してくれたらいいよ」
楽しくて笑っていると拓斗はまた立ち上がろうとする。服の裾を掴むと拓斗は困った顔をしている。
「どこ行くの?」
「片付け。なんだかんだで三時間も呑んでたしそろそろ帰る」
「俺がやるから置いておいて」
「わかったわかった。水に付けておくから」
そういうと掴んだ手が千雪の手と重なって落ちた。それを確認して拓斗はキッチンに消えていく。
「天、水飲もう」
こくりと素直に応じる。・・・応じたいけどコップは二つに見えますね。おもしれー。あははと笑っていると千雪の唇が触れて水が入って来た。冷たくておいしい。ちゅっと最後に唇にキスしてくれる。
「俺以外とこういう事するなよ」
釘を刺された。しないよお前と以外しても気持ち悪い。
「千雪冷たい」
「天が熱いんだ」
そっかーと言いながら千雪が俺を引き寄せてくれた。肩に頭のせる、フワフワしてる、ダメだ眠い・・・。
「寝るなら布団行け天。いや、それで二階行くの危ないから布団下ろすか?」
「大丈夫。ソファーに寝かせて起きたら連れて行く」
「千雪さん今日泊まるんだっけ。じゃあ頼みます」
頭上で拓斗の帰るからって声がする。見送らなきゃって思ったけど手を振るだけしかできなかった、無念。
「目覚めたか?」
布団の上で丸くなる俺に千雪の体重が重なってきた。先程揺れたなと思っていたが千雪が二階に運んでくれたみたいだ。それよりも、
「恥ずい・・・」
「可愛かったじゃないか。いつもよりかなり素直に話してくれるんだな。でもあれを拓斗君にも見せてしまったのは惜しかった。酒を呑むのは俺とだけにしろ」
「こんな醜態誰にも見せたくなかった。酒好きだけど全然飲めない、父さんも駄目だもんな~。なんで千雪そんなに強いんだよ~?」
まだふにゃふにゃしてる俺を見て笑ってる。
「性質?」
こればっかりは血に抗えないか。目の前で銀糸が揺れる。千雪の髪サラサラでキラキラで見てて飽きない。
「千雪」
何?と振り返った。
「幸せ」
「うん?」
「お前が愛してくれてるのが分かる。これからどんな不幸が訪れても千雪が隣で笑ってくれてるだけで幸せ。ありがとう」
「天が離れたいって言っても俺はもう手放す気はないから。何があっても変わらぬ愛し続けるよ」
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