異世界 王室料理番

葉月彩香

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21 休養は…退屈で我慢のできないもの

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仕事にならない。

調理場では気を張っていて、頭痛もだるさも感じないのだが、身体は正直で、作業中に突然目の前が真っ暗になったり、立っていられなくなり、気力と集中力では対処できないくらい、身体がままならなかった。
結果、翌日から魔素から慣れるまで、仕事は休むことになった。
刃物や火を取り扱っているので危険だと判断した。
そして、満足のいかない料理を客に提供するのも俺の矜持が許さない。

少しでも早く魔素に慣れ、仕事復帰できるようにと、マリッサの作ってくれるお茶を飲み、横になりながら、回復を待つ…ただそれだけのことに、俺は一日でギブアップした。

何もしないぼーっとした一日は、俺には無理だった。
メニューを考えるのも、俺は机上ではなく、食材を目の前にして、手を動かしながらだったから、何もしないという苦痛が我慢ならない。

早く、早く、包丁を握りたい。そして、料理が作りたい…。いつにそれができるのか、わからないのが一番嫌だ。
ああ、お茶は効率が悪すぎて、せっかちな俺にはまどろっこしい。
仕事に行くアリシェルとマリッサを送り出した2日目の朝、限界を迎えた。

つまりは、このお茶のように魔素をできるだけ排出してしまえば、楽になる…はず…と結論付けた。
お茶は基本的に、ピーレという柑橘を乾燥したものを湯で煮出して作られていた。
このピーレというのは、生のものは、酸味があまりにも強く、果汁が利用されることなく、乾燥した皮だけを使っているのだという。
山の中に自然に生えているらしく、手入れなどするのを嫌い、人の手が加えられるとすぐに枯れてしまうらしい。
だが、この辺りでは意外と沢山あって、だからこそ、魔石工場として、この地が選ばれていた。

手っ取り早く魔素が無くなれば、すぐにでも仕事に取りかかれるだろうな。
生のものを手に入れて、自分でどうにかしてみたい。

思い立ったらすぐ行動。
俺は、飛び起きるとナディアに、自生している場所を教えてもらって自分で、その実を取りに行くことにした。
街から少し離れれば大量の魔素から少しは避けられるから、悪化も防げる。
これ以上休んでたまるもんか…。

休み休みという感じで、時間を掛けながら、グランデール村とは反対の方角にある山に向かう。
俺は、山登りの趣味はなかったのだが、思いがけずにやるはめになっている。
一時間ほどだろうか、少し街から離れるとまとわりつく空気が和らいでくる。それでも、体調はまずは、身体の中からなんとかしないと、回復もしない。


この木か。
魔素の空気が薄れたような気になってきたところで、いくつか背丈の低い、柑橘の実がなっている木が増えた。形やサイズ的にはみかんのようだ。
皮は固く、手で剥くことは難しいため、持ってきていた果物ナイフでふたつにカットすると、果実部分にそのままかじってみた。
「うわっ」
少しだけなのに、柑橘の皮の苦味のようなものと共に、舌に痺れるくらいの衝撃的な酸っぱさが、ぐわんっと脳天に広がる。一気に目が覚める。
レモンやライムを超える酸味。

「これは、粘膜やられるくらい…強すぎる酸味だな。このまま飲むと、胃が傷むだろうな」
とりあえず、6個ほど収穫すると、腰をおろし、地面に寝転がった。
身体が本調子じゃないから、いろいろと長くは活動できないようで、身体を横たえるとそれだけで、ほっとする。
何か方法はないかと考えを巡らせながら、陽だまりの中、いつの間にかピーレの実を抱え、寝入ってしまっていた。

……カサッ…。

枯れ葉を踏みしめる音がして、俺は目を覚ました。
「…ん」
目の前に、頭と胸当てだけの簡易的な防具を着けた騎士のような青年がいた。
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