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08 賛辞は…気恥ずかしくも誇らしいもの
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階段を登り、トレーに料理を載せて運ぶ。
ここの家に皿が少なかったために、ワンプレート料理になったが、それもご愛敬。
三人の待つテーブルにサーブしていく。
『わぁ、すごい。キレイ。美味しそう』
キャリーが声をあげ、シグとアリシェルが、目を見張った。驚いてもらえるとこちらとしては嬉しくなる。
スープは、ポタージュクレシー(いわゆる人参のポタージュ)
前菜は、カブのステーキと人参の葉のフリット、ほうれん草のサラダ。
メインは鹿肉のローストと木苺のソース添え。
パンもつけて、簡単ではあるが、本来のコース料理をひとまとめに。
いろいろと改良の余地が多いのは否めないが、それでも、出来る限りの料理になったという自負はある。
乳製品が使えたら、もっと広がったんだけどな。ワインもあれば、立派なソースもできたが、それでも自信作だ。
人参は黒ニンジンで、黒というより紫色っぽいポタージュだが、ビーツほどは赤くはなく、食欲をそそる。本当は、牛乳やバターを入れるとまろやかになるが、今回シンプルに。ブイヨンも作ってないので、本来の野菜の味そのまま。だか、ニンニクの香味野菜をいれてコクを出したから、素朴さだけではない深みを感じられることだろう。
カブは、ウイスキーでフランベしながら、ソテーして、人参の葉のフリットというか天ぷらをのせて、食感もアクセントに。揚げられて薄くなるが少し残る苦味がまた香草のような旨味をうむ。
ちなみに、ヨーロッパでは人参の葉はあまり食べない。日本でも最近は八百屋以外では人参の葉を見ないから同じだろうけど、新鮮さの象徴だけで終わっていることが多い。俺は、天ぷらで食べるのが好きなので、柔らかく新鮮なものが手に入った時は、軽く粉をつけて揚げて、洋食でも添えたりして取り入れるようにしている。
鹿肉がきちんと血抜きされていて、ほどよい感じだったので、ローストビーフならぬ、ローストベニソンに。表面を焼き、袋にいれて低温のお湯で肉の中まで火を入れ、最後にまた焦げ目をつけるよう表面だけ焼き直すと、薄くスライスした際に、柔らかくそしてキレイな色に。昨日パンに入れたのと同じ木の実でソースを作れば、ジビエの独特さもマッチして…自信作だ。
若いほうれん草と、かぶの葉の柔らかいところもサラダにすれば、オイルでシャキシャキして、うまいはず。
どうだ、と出したものを、キャリーがスープをまず一口、そして次々と口をつけていく。アリシェル、シグもも続く。
『美味しいわ、すごいわ、ユウ』
興奮したように目をキラキラさせて、キャリーが喜ぶ。
『美味しい』
そして三人がいろいろと、本当にいろいろと賛辞をくれた。
言葉の壁により、すべてを受け止めることができないのが残念だが、三人の満足そうな笑顔が俺には嬉しい。
アリシェルが増えただけでなく、俺の料理も加わって、いつもよりも賑やかな食卓となった。
夕食が終わり、洗い場でキャリーが言ったのだろう、一緒になったおばちゃん達に料理を聞かれた。
やはり、人参の葉や、カブの葉はスープにいれるくらいしかあまり食べないらしい。苦味や灰汁があるから仕方ないと思うが、貴重な青野菜を食べないのはもったいない。日本で出回っているのは、品種改良されて、苦味が薄くて甘いのが多い。
灰汁をとるには、茹でる、火をいれる、塩で揉む、オイルと馴染ませるなどがある。アメリカではほうれん草のバターソテーとか、茹でたほうれん草の缶詰めとが例だと思うのだが、灰汁を消すためにデロデロにするくらい火を入れてしまう…あれで嫌いになる子供が多いのは、本末転倒。
さて、頼まれた俺は、言葉では伝えられないので、家で軽く実演をすると、皆が喜んでくれた。
残っていたカブの葉と人参の葉を塩揉みして茹で、それを小麦の生地で丸めて…おやきを作った。野沢菜ではなくカブの葉のおやき。
それはそれは、好評だった。
皆には、大変感謝され、ここでも賛辞の嵐だったが、俺も彼女たちのおかげで、刻む、揉む、茹でる、焼く…というような調理の言葉を知ることができたので、ありがたいことだった。
ちなみに、おやきは夜食として…というかシグとアリシェルの大人たちのウイスキーのおつまみの一つとして大いに感激された。
ここの家に皿が少なかったために、ワンプレート料理になったが、それもご愛敬。
三人の待つテーブルにサーブしていく。
『わぁ、すごい。キレイ。美味しそう』
キャリーが声をあげ、シグとアリシェルが、目を見張った。驚いてもらえるとこちらとしては嬉しくなる。
スープは、ポタージュクレシー(いわゆる人参のポタージュ)
前菜は、カブのステーキと人参の葉のフリット、ほうれん草のサラダ。
メインは鹿肉のローストと木苺のソース添え。
パンもつけて、簡単ではあるが、本来のコース料理をひとまとめに。
いろいろと改良の余地が多いのは否めないが、それでも、出来る限りの料理になったという自負はある。
乳製品が使えたら、もっと広がったんだけどな。ワインもあれば、立派なソースもできたが、それでも自信作だ。
人参は黒ニンジンで、黒というより紫色っぽいポタージュだが、ビーツほどは赤くはなく、食欲をそそる。本当は、牛乳やバターを入れるとまろやかになるが、今回シンプルに。ブイヨンも作ってないので、本来の野菜の味そのまま。だか、ニンニクの香味野菜をいれてコクを出したから、素朴さだけではない深みを感じられることだろう。
カブは、ウイスキーでフランベしながら、ソテーして、人参の葉のフリットというか天ぷらをのせて、食感もアクセントに。揚げられて薄くなるが少し残る苦味がまた香草のような旨味をうむ。
ちなみに、ヨーロッパでは人参の葉はあまり食べない。日本でも最近は八百屋以外では人参の葉を見ないから同じだろうけど、新鮮さの象徴だけで終わっていることが多い。俺は、天ぷらで食べるのが好きなので、柔らかく新鮮なものが手に入った時は、軽く粉をつけて揚げて、洋食でも添えたりして取り入れるようにしている。
鹿肉がきちんと血抜きされていて、ほどよい感じだったので、ローストビーフならぬ、ローストベニソンに。表面を焼き、袋にいれて低温のお湯で肉の中まで火を入れ、最後にまた焦げ目をつけるよう表面だけ焼き直すと、薄くスライスした際に、柔らかくそしてキレイな色に。昨日パンに入れたのと同じ木の実でソースを作れば、ジビエの独特さもマッチして…自信作だ。
若いほうれん草と、かぶの葉の柔らかいところもサラダにすれば、オイルでシャキシャキして、うまいはず。
どうだ、と出したものを、キャリーがスープをまず一口、そして次々と口をつけていく。アリシェル、シグもも続く。
『美味しいわ、すごいわ、ユウ』
興奮したように目をキラキラさせて、キャリーが喜ぶ。
『美味しい』
そして三人がいろいろと、本当にいろいろと賛辞をくれた。
言葉の壁により、すべてを受け止めることができないのが残念だが、三人の満足そうな笑顔が俺には嬉しい。
アリシェルが増えただけでなく、俺の料理も加わって、いつもよりも賑やかな食卓となった。
夕食が終わり、洗い場でキャリーが言ったのだろう、一緒になったおばちゃん達に料理を聞かれた。
やはり、人参の葉や、カブの葉はスープにいれるくらいしかあまり食べないらしい。苦味や灰汁があるから仕方ないと思うが、貴重な青野菜を食べないのはもったいない。日本で出回っているのは、品種改良されて、苦味が薄くて甘いのが多い。
灰汁をとるには、茹でる、火をいれる、塩で揉む、オイルと馴染ませるなどがある。アメリカではほうれん草のバターソテーとか、茹でたほうれん草の缶詰めとが例だと思うのだが、灰汁を消すためにデロデロにするくらい火を入れてしまう…あれで嫌いになる子供が多いのは、本末転倒。
さて、頼まれた俺は、言葉では伝えられないので、家で軽く実演をすると、皆が喜んでくれた。
残っていたカブの葉と人参の葉を塩揉みして茹で、それを小麦の生地で丸めて…おやきを作った。野沢菜ではなくカブの葉のおやき。
それはそれは、好評だった。
皆には、大変感謝され、ここでも賛辞の嵐だったが、俺も彼女たちのおかげで、刻む、揉む、茹でる、焼く…というような調理の言葉を知ることができたので、ありがたいことだった。
ちなみに、おやきは夜食として…というかシグとアリシェルの大人たちのウイスキーのおつまみの一つとして大いに感激された。
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