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肉我
ヤウ。
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「きっと、あんたが人に落ちた時、こうなることはきっと決まっていたのさ。」
突然ひらけた世界には、先ほどまでと変わらない星空と、アルケー湖が広がっていた。
真っ暗な世界に居たせいか、少し見通しが良く感じる。
「腑抜けたあんたに、もう興味はないさ。唯一の遊び相手だったイトラも消えちまったし、火の野郎じゃ力不足。イトラの残した「祝福」を潰して回ったりもしてみたが、なんの歯ごたえもありゃしねぇしな……」
その場にへたり込み荒く息をする私に、上から言葉を投げるヤウ。
「奴はずっと前から企んでいたわけだ――、あんたへの当てつけを。あんたが大好きな「人間」に。不条理や理不尽の中を懸命に生きる「人間」から大事な「生きるタメ」を奪うことを」
「……」
人としての体に、どうにか空気を取り入れ、彼を見上げる。
真っ黒な影は嫉妬していた。黒く、羨み、渦巻いていた。
イトラの残した「祝福」に。
「「生きるタメ」に考え、「生きるタメ」に行動し、「生きるタメ」に奪い、「生きるタメ」に殺し、「生きるタメ」に嘆くことを……奪った!!奴らはもう「生きるタメ」を超えて行動することすらできない」
「生きるタメ……」
死のない私が、一番最初に理解でき叶った感覚。
生きるタメ。
死がなければ、当然生もない。
前にイトラに言われた言葉を思い出す。
私には、死という区切りがない。ただ、一人ずっと、繋がり続いている。
私の生まれ変わりは「転生」なんかじゃないのだ……と。
「そうさ。我が子のタメ、他者のタメに命をなげうつことすらできなくなった。なにせイトラの祝福によって「生」を保証されちまったからな!」
そうか、そういう事か。
ヤウの言葉で私はやっと理解した。
もうこれから先。「人」は「人」であるかぎり、「生きるタメ」の葛藤も、「生きるタメ」の選択もする必要はない。
イトラのせいで。
「あんたが惹かれた人間のありかたは、もうどこにもないんだよ。姿かたちは変わらず「人間」だろうが、奴らしい、回りくどい、見せつけた「祝福」のおかげでな。……しかし、こうなってみると、確かに効果的だ。俺の好物の嘆きも、恨みも激減している。じきにそんな感情があったことすら忘れられるだろう。もちろん、祈りや願いもな。――なにせ、ほっといても生きられるんだ」
良いことなはずだ、ヤウが口にしたすべての事が、人にとって有益なはずなのに、私は動揺していた。
私は人に苦しんで欲しいわけじゃない。理不尽な事故も、不条理な病もなければいい。苦労だってしなければその方が良い。そう心から願っている……願っている筈なのに。
「イトラはあんたに、してヤったよ。――ムカつくが、流石だ。だから俺も負けてられないだろう?あいにくアイツみたいな手の込んだ事はできないけどよ、この世で俺しか知らない情報があるんだ」
ヤウが私と目を合わせた。
嫌な感じがする。嫉妬に身を打ち震わせていた先ほどまでと違い、その瞳には明らかに希望の光がやどっていたから。
「タチはあと三年で死ぬぞ」
影の化身か何かを言った。
何か、私にとって、とても大切な情報を。
「……えっ?」
「それがヤツの終わりだ。嘘はつかない。お前らの残り時間を邪魔するつもりもない。タチもあんたも手に掛けたりしない。ただ事実を伝えただけだ」
情報は耳から脳に届いてはいた。
ただ理解ができなかった。
ヤウの話す言葉が、言葉として認識できない。
でも、体から力が抜けた。
「「人間」全体を壊した奴と、「あんた」の余生を壊した俺……どちらの贈り物が、あんたの思い出に残るんだろうな?」
「まってよ!!!」
「その顔が見れただけで、俺は満足だ。互いに、残り短い時間を、楽しむとしようぜ」
ヤウはそう言うと、影となって姿を消す。
どこに向けて良いかわからない、私の言葉の先には、二人の出会いなどなかったかのような、変わらぬ景色だけが残っていた。
突然ひらけた世界には、先ほどまでと変わらない星空と、アルケー湖が広がっていた。
真っ暗な世界に居たせいか、少し見通しが良く感じる。
「腑抜けたあんたに、もう興味はないさ。唯一の遊び相手だったイトラも消えちまったし、火の野郎じゃ力不足。イトラの残した「祝福」を潰して回ったりもしてみたが、なんの歯ごたえもありゃしねぇしな……」
その場にへたり込み荒く息をする私に、上から言葉を投げるヤウ。
「奴はずっと前から企んでいたわけだ――、あんたへの当てつけを。あんたが大好きな「人間」に。不条理や理不尽の中を懸命に生きる「人間」から大事な「生きるタメ」を奪うことを」
「……」
人としての体に、どうにか空気を取り入れ、彼を見上げる。
真っ黒な影は嫉妬していた。黒く、羨み、渦巻いていた。
イトラの残した「祝福」に。
「「生きるタメ」に考え、「生きるタメ」に行動し、「生きるタメ」に奪い、「生きるタメ」に殺し、「生きるタメ」に嘆くことを……奪った!!奴らはもう「生きるタメ」を超えて行動することすらできない」
「生きるタメ……」
死のない私が、一番最初に理解でき叶った感覚。
生きるタメ。
死がなければ、当然生もない。
前にイトラに言われた言葉を思い出す。
私には、死という区切りがない。ただ、一人ずっと、繋がり続いている。
私の生まれ変わりは「転生」なんかじゃないのだ……と。
「そうさ。我が子のタメ、他者のタメに命をなげうつことすらできなくなった。なにせイトラの祝福によって「生」を保証されちまったからな!」
そうか、そういう事か。
ヤウの言葉で私はやっと理解した。
もうこれから先。「人」は「人」であるかぎり、「生きるタメ」の葛藤も、「生きるタメ」の選択もする必要はない。
イトラのせいで。
「あんたが惹かれた人間のありかたは、もうどこにもないんだよ。姿かたちは変わらず「人間」だろうが、奴らしい、回りくどい、見せつけた「祝福」のおかげでな。……しかし、こうなってみると、確かに効果的だ。俺の好物の嘆きも、恨みも激減している。じきにそんな感情があったことすら忘れられるだろう。もちろん、祈りや願いもな。――なにせ、ほっといても生きられるんだ」
良いことなはずだ、ヤウが口にしたすべての事が、人にとって有益なはずなのに、私は動揺していた。
私は人に苦しんで欲しいわけじゃない。理不尽な事故も、不条理な病もなければいい。苦労だってしなければその方が良い。そう心から願っている……願っている筈なのに。
「イトラはあんたに、してヤったよ。――ムカつくが、流石だ。だから俺も負けてられないだろう?あいにくアイツみたいな手の込んだ事はできないけどよ、この世で俺しか知らない情報があるんだ」
ヤウが私と目を合わせた。
嫌な感じがする。嫉妬に身を打ち震わせていた先ほどまでと違い、その瞳には明らかに希望の光がやどっていたから。
「タチはあと三年で死ぬぞ」
影の化身か何かを言った。
何か、私にとって、とても大切な情報を。
「……えっ?」
「それがヤツの終わりだ。嘘はつかない。お前らの残り時間を邪魔するつもりもない。タチもあんたも手に掛けたりしない。ただ事実を伝えただけだ」
情報は耳から脳に届いてはいた。
ただ理解ができなかった。
ヤウの話す言葉が、言葉として認識できない。
でも、体から力が抜けた。
「「人間」全体を壊した奴と、「あんた」の余生を壊した俺……どちらの贈り物が、あんたの思い出に残るんだろうな?」
「まってよ!!!」
「その顔が見れただけで、俺は満足だ。互いに、残り短い時間を、楽しむとしようぜ」
ヤウはそう言うと、影となって姿を消す。
どこに向けて良いかわからない、私の言葉の先には、二人の出会いなどなかったかのような、変わらぬ景色だけが残っていた。
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