74 / 89
肉我
新もちもち殺し改。
しおりを挟む
日の高いうちに地表に出ると、この一年でアルケー湖の景観が変わったのがよくわかる。
一言で表すと「整う」
とても、整理された感じ。綺麗とはちょっと違う。
かつて訪れた時のような、わいわいガヤガヤ、ごちゃついた「お祭り感」はない。
道も、店も、人並みもとても整っている。
でも、これはアルケーに限った話じゃない。
この一年。私たちが見てきたどんな場所でも、そう変わり始めていた。
人にとって都合のいいように整理整頓されていく土地。
人の体に良い範囲でのバリエーションある食事。
人に危険の及ばない街づくり。
そんな中でも私の思い出のお店は、素敵な香りを漂わせてまだ残っていた。
新・もちもち殺し改。
一見、変わったのは店名ぐらい。
「もちもち殺し」→「新・もちもち殺し」→「新・もちもち殺し改」と、また文字が追加された。
「メインの「もちもち殺し」より、装飾文字が多くなる日も近そうですね」
私は、久しぶりにあった店主が、元気に営業していることに喜びを覚え声をかける。
「そこまで続けられりゃー、いいんだけどな」
二つもオマケのもちもちを追加してくれた店主ギルガさんが肩を落とす。
「……繁盛してるじゃないですか!また来ますし、寂しいこと言わないでよ!」
「ありがとな、じょーちゃん。ズーミもな」
ギルガさんの言いたいことはわかる。
私とズーミちゃんが並んだ「もちもちの列」は灰色に染まっていた。
前も後ろも。
私たち以外は全員「祝福」
もう、誰も待機のために時間は使わない。
「…あいよ」
「ありがとうゴザイマス」
私の次にもちもちを受け取った祝福が、規則正しくこの場を離れる。
きっと、主人の所に運んでいくのだろう。
「客の顔が見えなきゃ、商売する気もなえちまうぜ……」
ギルガさんのため息を背中に受け、あたりを見回す。
まだいくつか残っている出店の列は、どれも整って灰色だった。
割り込みもなく。よそ見をして前進忘れもない。
会話に夢中でぶつかってしまい、ケンカするものだって当然いない。
それはきっと、良いことに違いない……
怒号も、いざこざも起こらない。
もちろん、無駄話も笑い声も聞こえない。
「いつまで気力がもつかね」
愚痴りつつも手を止めないギルガさんの後ろにも、祝福はいた。
主人の汗をぬぐっている。
「アナタにとって、作業ヲ続けルほうが、精神に健康テキと判断しまス」
水分補給を促す祝福をギルガさんは存在しないかのように無視していた。
お店を離れた私は思い出す。
祝福は人の幸福を目的に行動する。
主の怒りや苛立ちで「あたられる」ことも容認する。
ギルガさんはそんなことしないだろうけど、前に見たことがある。
祝福に当たる人々を。
もっといい暮らしを、もっと旨いものを、と浅ましい姿で訴える人を。
祝福は再生する。土と光さえあれば、主の中が空になるまで受け止める。
あの時怒っていた人たちも、今はもう大人しく享受していることだろう、新しい生活を。
「怒りを消すことは良いことなのかな……?」
無意識に言葉が口から出た。
なんとなくの疑問。
「いわゆる負の感情じゃからな――怒り、憎しみ、わらわは好かん感情じゃが……おぬしの言いたいことはわかる」
ズーミちゃんと並んで、もちもちをかじる。
甘い。美味しい。
私だって今感じてるような、嬉しい気持ちだけでずっと居れたら、どんなに幸せだろう――と、思っちゃう。
でも、なんでだろう?確かにアルケーからは活気が失われていた。
一言で表すと「整う」
とても、整理された感じ。綺麗とはちょっと違う。
かつて訪れた時のような、わいわいガヤガヤ、ごちゃついた「お祭り感」はない。
道も、店も、人並みもとても整っている。
でも、これはアルケーに限った話じゃない。
この一年。私たちが見てきたどんな場所でも、そう変わり始めていた。
人にとって都合のいいように整理整頓されていく土地。
人の体に良い範囲でのバリエーションある食事。
人に危険の及ばない街づくり。
そんな中でも私の思い出のお店は、素敵な香りを漂わせてまだ残っていた。
新・もちもち殺し改。
一見、変わったのは店名ぐらい。
「もちもち殺し」→「新・もちもち殺し」→「新・もちもち殺し改」と、また文字が追加された。
「メインの「もちもち殺し」より、装飾文字が多くなる日も近そうですね」
私は、久しぶりにあった店主が、元気に営業していることに喜びを覚え声をかける。
「そこまで続けられりゃー、いいんだけどな」
二つもオマケのもちもちを追加してくれた店主ギルガさんが肩を落とす。
「……繁盛してるじゃないですか!また来ますし、寂しいこと言わないでよ!」
「ありがとな、じょーちゃん。ズーミもな」
ギルガさんの言いたいことはわかる。
私とズーミちゃんが並んだ「もちもちの列」は灰色に染まっていた。
前も後ろも。
私たち以外は全員「祝福」
もう、誰も待機のために時間は使わない。
「…あいよ」
「ありがとうゴザイマス」
私の次にもちもちを受け取った祝福が、規則正しくこの場を離れる。
きっと、主人の所に運んでいくのだろう。
「客の顔が見えなきゃ、商売する気もなえちまうぜ……」
ギルガさんのため息を背中に受け、あたりを見回す。
まだいくつか残っている出店の列は、どれも整って灰色だった。
割り込みもなく。よそ見をして前進忘れもない。
会話に夢中でぶつかってしまい、ケンカするものだって当然いない。
それはきっと、良いことに違いない……
怒号も、いざこざも起こらない。
もちろん、無駄話も笑い声も聞こえない。
「いつまで気力がもつかね」
愚痴りつつも手を止めないギルガさんの後ろにも、祝福はいた。
主人の汗をぬぐっている。
「アナタにとって、作業ヲ続けルほうが、精神に健康テキと判断しまス」
水分補給を促す祝福をギルガさんは存在しないかのように無視していた。
お店を離れた私は思い出す。
祝福は人の幸福を目的に行動する。
主の怒りや苛立ちで「あたられる」ことも容認する。
ギルガさんはそんなことしないだろうけど、前に見たことがある。
祝福に当たる人々を。
もっといい暮らしを、もっと旨いものを、と浅ましい姿で訴える人を。
祝福は再生する。土と光さえあれば、主の中が空になるまで受け止める。
あの時怒っていた人たちも、今はもう大人しく享受していることだろう、新しい生活を。
「怒りを消すことは良いことなのかな……?」
無意識に言葉が口から出た。
なんとなくの疑問。
「いわゆる負の感情じゃからな――怒り、憎しみ、わらわは好かん感情じゃが……おぬしの言いたいことはわかる」
ズーミちゃんと並んで、もちもちをかじる。
甘い。美味しい。
私だって今感じてるような、嬉しい気持ちだけでずっと居れたら、どんなに幸せだろう――と、思っちゃう。
でも、なんでだろう?確かにアルケーからは活気が失われていた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる