かみてんせい

あゆみのり

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肉我

新もちもち殺し改。

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 日の高いうちに地表に出ると、この一年でアルケー湖の景観が変わったのがよくわかる。
 一言で表すと「整う」
 
 とても、整理された感じ。綺麗とはちょっと違う。

 かつて訪れた時のような、わいわいガヤガヤ、ごちゃついた「お祭り感」はない。
 道も、店も、人並みもとても整っている。
 
 でも、これはアルケーに限った話じゃない。
 この一年。私たちが見てきたどんな場所でも、そう変わり始めていた。
 
 人にとって都合のいいように整理整頓されていく土地。
 人の体に良い範囲でのバリエーションある食事。
 人に危険の及ばない街づくり。
 
 そんな中でも私の思い出のお店は、素敵な香りを漂わせてまだ残っていた。

 新・もちもち殺し改。
 
 一見、変わったのは店名ぐらい。
 「もちもち殺し」→「新・もちもち殺し」→「新・もちもち殺し改」と、また文字が追加された。
 
「メインの「もちもち殺し」より、装飾文字が多くなる日も近そうですね」
 私は、久しぶりにあった店主が、元気に営業していることに喜びを覚え声をかける。

「そこまで続けられりゃー、いいんだけどな」
 二つもオマケのもちもちを追加してくれた店主ギルガさんが肩を落とす。

「……繁盛してるじゃないですか!また来ますし、寂しいこと言わないでよ!」
「ありがとな、じょーちゃん。ズーミもな」
 ギルガさんの言いたいことはわかる。
 私とズーミちゃんが並んだ「もちもちの列」は灰色に染まっていた。
 前も後ろも。
 
 私たち以外は全員「祝福」
 もう、誰も待機のために時間は使わない。
 
「…あいよ」
「ありがとうゴザイマス」
 私の次にもちもちを受け取った祝福が、規則正しくこの場を離れる。
 きっと、主人の所に運んでいくのだろう。

「客の顔が見えなきゃ、商売する気もなえちまうぜ……」
 ギルガさんのため息を背中に受け、あたりを見回す。
 
 まだいくつか残っている出店の列は、どれも整って灰色だった。
 割り込みもなく。よそ見をして前進忘れもない。
 会話に夢中でぶつかってしまい、ケンカするものだって当然いない。

 それはきっと、良いことに違いない……

 怒号も、いざこざも起こらない。
 もちろん、無駄話も笑い声も聞こえない。

「いつまで気力がもつかね」
 愚痴りつつも手を止めないギルガさんの後ろにも、祝福はいた。
 主人の汗をぬぐっている。

「アナタにとって、作業ヲ続けルほうが、精神に健康テキと判断しまス」
 水分補給を促す祝福をギルガさんは存在しないかのように無視していた。

 お店を離れた私は思い出す。
 祝福は人の幸福を目的に行動する。
 
 主の怒りや苛立ちで「あたられる」ことも容認する。

 ギルガさんはそんなことしないだろうけど、前に見たことがある。
 祝福に当たる人々を。
 
 もっといい暮らしを、もっと旨いものを、と浅ましい姿で訴える人を。
 
 祝福は再生する。土と光さえあれば、主の中が空になるまで受け止める。
 あの時怒っていた人たちも、今はもう大人しく享受していることだろう、新しい生活を。

「怒りを消すことは良いことなのかな……?」
 無意識に言葉が口から出た。
 なんとなくの疑問。

「いわゆる負の感情じゃからな――怒り、憎しみ、わらわは好かん感情じゃが……おぬしの言いたいことはわかる」
 ズーミちゃんと並んで、もちもちをかじる。
 甘い。美味しい。

 私だって今感じてるような、嬉しい気持ちだけでずっと居れたら、どんなに幸せだろう――と、思っちゃう。

 でも、なんでだろう?確かにアルケーからは活気が失われていた。
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