かみてんせい

あゆみのり

文字の大きさ
上 下
71 / 89
それぞれの想い。

いったん合流。

しおりを挟む
 ポチ君とストレちゃんに合流するため、ナビのつくった雲で移動していたら不思議な光景が目に留まった。
 
 泣きじゃくりながら体中に葉っぱを付けて走る知人と、それを追う犬と子供。
 私達が声をかけると、ストレはその場で崩れ落ち、よりいっそう大声で泣いた。

「犬だよね……?」
 私の素直な感想である。

「犬じゃな」
 私の親友も同じ答え。

「犬ですね」
 私の後輩で、一番冷静な客観的判断ができるであろう風の化身も同じく。

「ポチ!!!」
 私の恋人だけが、迷わず全てを受け入れた。
 そんな、朝日輝く雲の上。
 
「えっ……今のストレちゃんの説明で納得したのタチ?」
「するほかあるまい!!ほら、ナナも撫でてみろ!きもちーぞ!!」
 完全なる犬のポチ君を抱きしめ、ご満悦のタチ。
 確かにフサフサの体を見ていると、撫でたくなる気持ちは湧くけれど……。
 

「あっ……確かにきもちー!ズーミちゃん!この子毛並みが凄く良いよ!」
 とりあえず、好きな人の促す行動には乗ってみた。
 心地よい手触りに、つい大声を出してしまう。
 私の膝枕で寝るユニちゃんが、微かに顔をゆらし、太ももに頬を擦る。
 
 前日の戦いで、ダッド相手に大立ち回りした反動だろう。
 輝く角から着替えを一着だした後、可愛らしい寝顔でスヤスヤと眠りに落ちたままだ。

「わらわは撫でん。抜け毛が体に入る」
 そう口にしたズーミちゃんだったが、体内の気泡は触りたそうにコポコポしていた。

「よしよし。お前のその笑顔を見ればわかるぞ。全力で戦ったのだな……いい子だ!!」
「わん!!!」
 飼い犬を褒める主人と、喜ぶ犬。
 事情を知らなければ、ただのほんわかな情景だけど、ちょっと嫉妬している自分がいる。
 
 相手は犬だ、もっと本命として腰を落とし待ち構えれば――
 と、言うか。人が犬になった事実にもっと突っ込まねば……!

「お~よしよし!しかし丸っ切り犬になるとはな……!見事な覚悟だ!好きな狂気だ!お前は駄犬などではないぞポチ!私の狂犬だ!!」
「わん!!」
「……」
 なにさ、なにさ、そりゃ~褒められてしかるべき頑張りをポチくんは見せたけど……!
 火の化身と土の化身相手に凄いと思うけどさ!

「主人として何か褒美をやらねばな…そ…うだ!首輪を用意してやろう!よくやったぞ」
 はち切れんばかりに尻尾を振るポチ君の頭をわしゃわしゃ撫でるタチ。
 そんな様子を見ていた私は、完全なる小物となった。

「私も!!私だってご褒美ほしい!首輪ほしいもん!!」
 膝の上で寝るユニちゃんをズーミちゃんにあずけ「たらし」のパートナーに言い寄る。
 ただの嫉妬、哀れで惨めな小物として。
 
 だって仕方がないじゃない。
 タチが撫でているのは犬だけど、中身はれっきとしたポチ君なんだもん。
 あれが本当にただの犬ならば……あれが本物の犬だとしても、同じ気持ちだったろうけどさ!

「待ってくださいチビ様!!こいつは……こいつだけはやはり、よくありません!!」
「そうじゃぞナナ。嬉しそうに首輪を付けるお主など見とーないぞ!」
 涙の筋が顔に残るストレと、さり気なくポチ君の体に触れるズーミちゃんが、私の懇願こんがんを真っ向否定。
 恋に落ちたことがないから、そんなことが言えるんだい!
 
「でも……タチガール代表として負けるわけにいかないよ!」
「おぬしはたっぷりご褒美貰っとったじゃろう!何かと2人でくっついて撫で回されおって……!」
 ズーミちゃんの言う通り。確かに私はタチに可愛がってもらいまくってる。
 しかし、そういうことではないのだ。

「それは……いつもの事だもん。特別感が足りないもん!!」
「すきアレばのろけるな!!」

ペチン。
 ズーミちゃんのプルプルおさげが、私の頬を軽くはたいた。
 立派な音はしたけれど、ひんやりと冷たくプルプルで気持ちがいい。

「素敵じゃないですか……。人の首輪を望む神――倒錯的とうさくてきで、ありえなくて」
「ナビ様は否定に回って貰わないと困るのですじゃ~!」
 大きな雲の上。
 合流を果たした仲間たちと今後の予定を立てるはずが、ごらんの有様である。
 
 実際問題、光の化身イトラは消えたけど、今後どうすれば良いのか、どうすることが正しいのかは誰にもわからなかった。

「はっはっは!!全部抱いて愛してやるぞ!!ほら来いナナ!!お前も撫で回してやる!!」
 いつも変わらず、余裕しゃくしゃくで偉そうなタチ。
 嫉妬の化身の私としては、この状態で呼ばれてなびくのは癪だけど、ポチ君に負けるわけにはいかない。

「こいつ……!こいつー!!」
 くっつくついでに、タチの脇腹をつねる。
 それでも、彼女は嬉しそうだった。以前ユニちゃんに腹を角で突かれても笑っていたし。


「ズーミも来い!裸タコした仲だろう!また仲良く寝ようじゃないか!」
「しるか!!ついてゆけんわ!!」
 懐かしの思い出。
 まだ一つ前の私の体で、水の大陸を出た最後の日。
 ピチョンの港で、楽しく過ごしたあの時間。
 
 たいして時間は立っていないはずなのに、はるか昔のように感じる。

「はだか……タコ?」
 珍妙な響きに、ストレちゃんが興味をしめす。
 なかなか聞かない言葉だろう。

 タコの踊り食いとかを想像しそうだが、実際は裸でタコのお面をつけて一夜を過ごすという言葉以上に意味不明な行動をさす。

「ふれんでよいわ!!」
「ご……ごめんなさい水の化身様!!――ところでもっと、ポチ助を戻す方法を考えるとかしなくていいのでしょうか?」
 この場の唯一の生人間が、とってもまともな意見をのべる。

「確かにそうだよね。ポチ君のことあっさり受け入れちゃ問題あるよね?」
 命をかけて戦ってくれた彼に、嫉妬とかしている場合じゃあるまい。
 どうしてこうなったのかの原因を突き止めて、戻せるなら元に戻してあげないと。
 
 パタパタ尻尾を振るポチ君の頭を、優しくゆっくり撫でる。

「戻す必要があるか?本人は楽しそうだぞ?」
「わん!」
 タチの言い分に、同意するかのように吠えるポチ。
 いや……いやいや?さすがにまずいんじゃないだろうか?
 
 好きな人の言うこととはいえ、同意しずらい。
 
「しかし、この状態での楽しそうは、あてにならないだろう?なにせ犬ですし」
 そう、ストレちゃんの言う通り。今彼は「犬」なのだ。
 本当に幸せそうにベロを出し尻尾を振っているけど、本心はわからない。

 しかし、この場合の本心ってなんなんだろう?

「何を言う。ポチは私にヤラれた時から、立派に犬だったぞ?人などとっくにやめて、ワンしか言ってなかっただろう」
「そう、それだ!私はポチ助がしゃべるのを聞いたのだ!けっこう長く、熱く話していたのだ!」
 なんと。
 2人でアチャと戦ったのは聞いたけど、ポチ君おしゃべりもしていたのか。
 再開してから鳴き声しか耳にしてない私としても、どんな話か聞いてみたかった。 

「それで、何を言っとったんじゃ?」
 ズーミちゃんがポチの顔を覗き込んでたずねる。
 完全に犬の背中を撫でながら。

「……タチへの想いを…」
 気まずそうに答えたのはストレだった。
 しょうがない、だって本人はしゃべれないのだから。 

「戦闘中に?」
「……はぃ」
 私の確認に、弱々しく小声で返事をするストレ。

「ほらな?私の良い子の犬だろう?」
「わん!!」
 まっすぐに、曇りなくストレを見つめる、満面の笑顔の1匹と1人が居た。


「何が「ほらな?」なのだ!!全部お前のせいでおかしくなるのだろう!タチ!!」
「私の「せい」じゃない「おかげ」だ。言葉の選択を間違えるな」
「わん!!」
 死線を越えても、2人の溝が埋まることもなく。
 言い合いをしながら、くっついた私の体をいじるのも欠かさないタチ。

 いつも通りだ。

「まぁなんにしろじゃ。色々と確認せんとならんことが多い。そいつの存在とかの」
 ズーミちゃんが目線を送った先には、こんなしょうもないやり取りを、じっと眺めている灰色の子。

 合流し、雲の上にのってからもずっと、彼女はストレちゃんの横で、大人しく私達を観察していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...