かみてんせい

あゆみのり

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それぞれの想い。

贈り物。

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「まじか……イトラの奴負けやがった……!?」
 火の化身アチャは、輝く空を見て事態を察した。
 元神達の手によって、現統治者が敗れたのだと。

 もはや目の前の男の事などどうでも良い、まさかこんな結果になると思ってはいなかったが、彼にとってはただの好機。
 影の化身ヤウが生きていたとしても、必ず痛手を負っているはず。
 今世界で一番力を持っているのは誰なのか、アチャに疑いなどなかった。

「影が残っていようが、今すぐに飛べば――」
 巡ってきた、またとない機会にアチャは心踊らせこの場を離れようとした――が、同時にストレの情けない声がする。

「えっと……どちら様でしょうか?」
 ストレの横に、いつのまにか人が居た。

 灰色で肩にかかる位の髪。
 整った顔とスラリとした体は中性的で一見性別がわからない。
 色味の薄い肌と、くすんだ表情が不気味さをかもしだす、ナニ者かが。

「怪我をなされてまスネ。治療をしましょう。止血効果のある植物が近くに存在しマス。」
 灰色の人が抑揚よくようのない声で、岩陰へと直進していく。

「???いったい誰だ??……ポチ助!ポチ助はどこに行ったのだ!?」
 空が輝いた一瞬のうちに、灰色の人が現れ、ポチが消えていた。
 状況把握ができていないストレは、周りを何度も見渡すが、人影はどこにもない。

 人影は。
 
「わん!」
 ストレの足元には犬がいた。
 普通の犬が。
 耳は尖っていて、黒毛の犬だ。

「えっ…?いや???ポチ助がどこにいるか知っているか?」
 混乱に混乱を重ねたストレは膝を付き、犬にたずねる。
 
「わん!」
「え??いや???え???」
 犬の元気な一吠えと、なぜか見覚えを感じる瞳に、混乱が加速するストレ。
 犬は楽しげに尻尾を振っている。
 
「人を探しておられるのでスカ?」
 赤色の棘がある葉を持って帰った灰色の人が、ストレの傷口にそっと葉を当てた。
 緑の葉が血を吸い赤く染まり、変わりにフチの赤い棘が緑色になる。

 すると、傷口の血はぬぐわれ、あふれるはずの新たな血は葉の液で固まりせき止められた。

「うん???そうなんだが……だから君はだれなんだ??ポチ助は何処に行ったんだ???」
「わん!!」
「染みまスカ?痛みはあると思いまスガ――」
 幾枚も用意された葉を使い、手際よく傷口の血を吸い固める灰色の人。
 状況が理解できていないのはストレだけ。
 嫌な汗が一筋、彼女の背中を伝って落ちる。
 

「なんなんだこれは!?!?」
「女ァ!!」
 叫ぶしかやることのないストレに、この場でとどまり、様子を見ていたアチャが声をかける。
 意気揚々と飛び出そうとする気配は既に消えていた。

「火の化身……!助けてくれ!?なんか置いてかれている!!なんで私はいつもこうなんだ!?!?」
「あの犬野郎は転生者だよな?イトラが呼び込み力を与えた失意の者」
 アチャは自らの考えを確認するように、うつむき顎に手を当てストレの返事を待つ。
 
「そ……そうだ、神様と世界を恨み、かつてはチビ様の敵だった。今更そんな事を聞くな!――ポチ助!無事か!?何処にいる!!」
「……なら、そいつがポチ助だ」
 何度も何度も当たりを見回すストレに、アチャはあごで示す。
 
 ストレの横に舌を出し座っている犬を。

「嘘だぁああああ!?!?」
「さっきの光を見ただろう?イトラが消えた。ポチコロは誰に呼ばれて力を得た?」
「わん!」
 なんとなく感じていたであろう予感に、ストレは言葉を探せず呆然と座り込む。
 その横では灰色の人が、変わらずストレの手当を進めていた。

「だが……なんで残ってやがるんだ?なぜお前も消えない?信仰を受けているわけでも、支えがあるわけでもない犬コロが…」
 黒犬を見つめ更に考え込むアチャの後ろで、小さく土が盛り上がった。
 柔らかく、ゆっくりと。

「ワレワ、マネブモノ」
 形取られたのはポチに斬られ、アチャに焼かれたはずの土の化身ダッド。
 大きさは手のひらサイズの、小さな分身。

「ダッド!てめー、向こうの方にも体があるんだろう?情報をよこせ!」
 イトラとナナ達の戦いの方にも立ち会っているはずのダッドに、状況説明を求めるアチャ。
 これで状況がわかるのかと、ストレもダッドの出現に嫌悪より喜びを隠せない。

 混乱が渦巻くこの場には、敵味方より整理が必要とされていた。
 
「チクセキとは、タカラナリ。光とはツナガリなり……地水火風のタイリクとツナガリ、積ミ上ゲラレタ、土地のケイケンを今ツナゲタ」
「何を言ってんだ?ヤウの野郎は生きてんのか?誰がイトラをヤッたんだよ!」
 噛み合わない会話を少し交え、欲しい答えは置いてゆかずに、小さなダットは砂とほどけ風にながれた。
 
「種は蒔かれたのデス」
 消えたダットの代わりに言葉を続けたのは、灰色の人だった。
 感情のなく、一定な声。
 周りには、ストレの血を吸った赤い葉が均一に並べられている。

「各地に繋がり――種を…?イトラとダッドの奴まさか!…俺と喧嘩した300年前のあの時から……!!」
(300年前……?確か、火と土が争い、津波が各大陸を襲ったのが――)
 ダッドからの解説はなかったものの、状況を理解し始めたとおぼしきアチャの言葉に、ストレは知っている情報を1つ確認する。

 目の前にいる二人――火と土の化身が大ゲンカをし、ズーミが水の化身になったのが確か300年前。

「クソが!俺様の大陸には手を出させねーぞ!!!」

ドバァ!!!
 荒れた言葉を残し、爆音をかなで火の化身アチャは空へと消えていく。
 彼が去った後もしばらく、空気が空へと巻き込まれ、風は天へと流れ続けた。
 
「わ……私は一人でどうすればいいのだ?」
「わん!」
 取り残されたのは一人と一匹。
 戦うべき相手は、火も土も居なくなってしまった。

「まずは、ちゃんとした手当をしましょウ主様。近くの村にご案内しマス。土地の情報ナラ既に持ち合わせていますノデ」 
 そして、どう数えていいのかわからない「灰色の者」が戸惑うストレに手を差し伸べる。
 次の目的地に向かおうと。

「わ、わたしは君のあるじじゃない……!いったい君は何なんだ!」
「祝福デス。全てのヒトへ偉大なモノからの贈り物。ヒトビトを支え幸福へと導くタメの存在」
 灰色の瞳がれることなくストレを見つめ、黒犬がへっへと舌をだす。

「……」
「主様。まずは体を整えませント。存在がデキなくなりマス」
 ストレはゆっくりと立ち上がる。
 それに合わせて灰色の者も立ち、犬も立つ。
 
 ストレが右を向くと、2人も右を向き。
 ストレが左を向くと、2人も左を向いた。
 
 ストレがもう一度座ると、当然2人も座る。

「怖い!!!怖いですチビ様!!!もう嫌です!理解不能です!!助けてください!!!」
 ストレは泣き叫び走り出した。
 口から出た言葉通りの理由――恐怖に駆られ。

「主様。傷口が開きマス、まだ応急処置にすぎまセン。」
「わん!わん!」
 冷静に静かな雰囲気でストレを追いかける灰色の者と、何もかもが楽しそうにベロを出して駆ける犬。
 2人は全てを受け入れていた。
 
 世界はこういうものなのだと。

「ついて来るなぁあああああ!!!」
 先頭を走るストレだけが、何もかもを受け入れられずにい泣いていた。


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