53 / 89
心
ポチ物語。
しおりを挟む
「すまん。加減がきかなかった」
窓から差し込む光と、小鳥のさえずりが朝をお知らせする。
離れ離れだった二人の再会、それも相手がタチとくればそれはもう――それはもうである。
「……でも、体がすごくしっくりきてるよ。…力は抜けてるけど」
ふかふかベッドと久しぶりのタチ枕の上で、ぐったり横たわる。
私が変わっても、タチはずっと強烈にタチのままなので、彼女に触れられ教え込まれるとそこを起点に体がなじむ。
不思議な事である、ずっと同一主体をもった私が、外部を基準に推し量るなんて。
「まだまだだがな。もっともっと感じさせんと気が済まん……がさすがに休憩だ。その体では心配だ」
「遅すぎる気遣いだと思うけど……」
「ナナも望んではないだろう?手加減など。体がもてばだが」
「……うん」
まったく力の筋が入らなくなるまで負かされ、やっと意識を取り戻したばかりな私。
さすがに口ぐらい閉じていたいけど、それもかなわない。
なつかしい。この目覚めると微笑みながら見つめられてる朝。
またこんな朝が迎えられるなんて……
(良かった――本当に良かった…)
確かにタチがここにいる事を噛み締めたくて、抱き着たいのだけど腕に力が入らない。
私の瞳の動きと、微かな体の揺れで察したのか、タチが覆いかぶさるように抱きしめてくれる。
「大丈夫だ…。本当に良く戻ったぞ」
「……うん」
私も何か言いたいけど、今この瞬間に満足しちゃって言葉が見つからない。
声を探すのも|《おっくう》で、今。今この時をただ味わってたくて……
「余計なことは考えるな?散々教え込んだだろう?私が上だ」
「うん。」
そうだった。「それでいいや」で居れるんだった。タチと一緒の時は。
「しかし、ひとつ謝らないといけないな。」
「なに?タチが謝ることなんて何一つないよ」
「あの犬を一度抱いてしまった」
「あの黒服の彼…?そういえば様子がおかしかったけど……」
素直な感想は「なんだそんなことか」だった。
別段その程度のことで今更怒ったりしない、タチが誰かを抱くなんて今更ね。
今更怒ったりしないよね?たぶん。
考えだすとモヤモヤするが、あの黒衣の男の変貌ぶりの方が気になる。
「なんでもポチはポチで昔、女を囲っていたらしいんだが……簡単にまとめると、持て余して皆殺しにしたそうだ」
「色々簡潔にしちゃいけない気がするけど――なかなか壮絶な…、というかあの人ポチって名前なの?」
「知らん。今となっては名乗る気力も失っていてな。不便だから名前を付けてやった」
「うん。まったく流れが理解できない」
私のしってる黒衣の者、現ポチ君(仮)は。
始めはイトラが差し向けた追手で、次にタチを傷つけた敵で、最後タチの剣で真っ二つになる。
結果、謝りたい人がいると言って去っていった。
それが今や犬になりきっている。名付け親はタチ。
変化が急すぎて、事情に追いつけるわけがない。
「ポチを最後まで心配した女だけは、手にかけず捨て置いたそうでな。その女に謝罪しに戻ったのが私達と別れた時だ」
「なるほど。ポチさんにも心残りがあったわけだね」
「あぁ。だが拒絶された」
「……あらら」
「当然だろう。その女にとってポチを優しく受け入れる道理などない。待つ必要もな。新たなパートナーと幸せに暮らしてたんだそうだ。「もう忘れたい思い出だ」とな」
詳しい事情をしらないので、なんともだけど。まぁ、タチの言う通り。
ポチ君が無策で戻って許されるものでもなさそうだ。
自業自得と言うやつかもだけど、ちょっと可哀想。
「ボロ雑巾の様子で帰ってきてな。ずっとブツブツ呟いていた……。その崩れ腐った姿が余りに美味そうでな――、一発思い知らせてしまった。器の違いというものをな」
うむ。
ようはしょぼくれたポチさんをみて、タチの攻めっ気が疼き、抱いちゃった。と!
「いいよ。タチがこの世に存在してくれてるだけで、私はとっても嬉しいもん」
「すまんな。ナナの居ない時に夜遊びなどしたくなかったんだが、余りにも哀れでな。上に立つ資質がどういう物か、徹底的に焼きこんでしまった」
「許してあげる。……でも他にも言う事あるでしょ?女の子達と沢山キスした事とか。」
「それは「本人確認」のキスだけだ。一人も抱いてないぞ?ちゃんと我慢した」
タチの中の謝る線引きが分からないが。抱くかどうかが一応ラインらしい。
「性欲を押さえるのが大変だった……。ナナと離れてから干からびた昆布駄犬しかしゃぶらずに、だが味は濃く――」
「待った!詳しい話はいりません」
私の頭をなでながら、ポチを食べた時の話を始めるタチにストップをかける。
二人で居た船の上で散々聞いた覚えがある……。
タチの猥談!しかも今回相手は知り合い (一応)
「嫌か?ナナには全て話しておきたいのだが……」
「そう言われると知っておきたい気もするけど――焼いちゃいそうだから。聞いても絶対嫌いになったりしないけど……」
なんだろう?独占欲?私にとっては至極当然な嫉妬心と敬愛。
ちょっとだけ食い違った思いがあるのです。
「可愛いなナナは…そう言われるとポチが泣き散らかした話を――」
「きらいになるよ!」
「わかった。わかった。この話はよそう」
いつの間にか動くようになった手で、タチの頬をつねりひっぱる。
どんなことを聞かされたって、嫌うわけない。
嬉しそうに頬を伸ばされるタチの顔を見ているだけで、私は幸せなんだから。
でも、だから、やきもちも焼くんだよ。
そんな甘噛みをしあって、まったりとお互いを感じる。
夜のぶつかり溶けあう確認も好きだけど、こういうのも大好きだ。
「私の人生で、あれほど恐怖を感じたのは初めてだった……」
唐突に、真面目な顔で言葉を口にするタチ。
ゆるやかな流れの中、フッと恐れを思い出す感覚は私にもわかる。
今日この日までそうだったから、ズーミちゃんやユニちゃんと仲良くワイワイ過ごしていても、突然不安に襲われる感じ。
タチに再び出会えるのかと……
「……タチ」
体の力を取り戻した私は、タチの体を抱きしめる。
体が縮んだ分大きく感じるけど、ちゃんと心の底から全力で。
「生き延びた後、ナナを迎えに行かねばと取り乱し、ストレやナビにも迷惑をかけた……」
「…」
そう。わかっていた。私が失う恐怖に怯えていた日々と同じ……いや、それ以上タチだって怖かったはずなのだ。
タチには私を確認する手段がなかったのだから。
「駆けずり回って探し出したかったが、声を上げ、待つのが一番だと頭で判断した……。必至に我慢したのだ。ほめてくれ」
「本当にありがとう。タチは良い子だよ。」
私が地上から完全に離れていた三か月も合わせて、ここ数ヶ月。
タチはずっと我慢してたのだ、性欲もさることながら、恐怖から来る無策な行動も。
あのタチが体を動かすことを、抑えていた。
私と再会するために……
「大好き。ありがとう」
「……うむ。こういうのも最高だ。待っていた」
タチの頭を抱えるような形で抱きしめ、ゆっくり撫でる。
ホントは全身を包み込んであげたいけど、体が小さいからね。
タチは甘えるような声を小さくもらし、グリグリと頭をこすり付けた。
こんなタチ。私以外に見た人はいるのだろうか?
安堵にひたり、身を任せるタチなんて……
可愛くない?
「……痛む?」
昨日から目に入っていた、タチの首元の痕。
ゆっくりゆったりタチの頭を撫でながらも、うっすら残るその線が気になった。
胴と頭が切り離された証拠の痕だ。
「ん?……あぁ大丈夫だ心配ない。」
「どうやって無事でいられたの?」
「ナビが手助けに来た。自らの土地を護るついでだがな」
アルケー湖にダッドが現れた時、ズーミちゃんがした判断と同じだ。
自らの大地。自らの領土の自衛。
「……いや。素直に言うべきだな。一番の要因は「舐められた」からだ。」
タチが私の首元に頭をグリリと、ひと擦りして言葉を続ける。
「私の首を飛ばしたあと、ナナも崩れて消え去った。イトラの力なら私を消し飛ばすなど容易だったろう、だがしなかった。ナビとストレが駆け付けるの許し、頭を繋げるのをただ見ていた――」
「どうして?」
神殺しを望んでいた頃のタチならともかく、今のタチはイトラにとって邪魔者でしかないはずだ。
わざわざ殺すこともないかもしれないが、見過ごす理由にもならない。
「理由はひとつだ……。ナナの前でまた私を殺す」
「!」
「それが一番ナナに効く。それをあの時奴は知った」
背骨がぞくりと凍り付いた。
確かにイトラは言っていた。早く私に諦めて欲しいと。
私は何度も転生する。今の私は時の化身だ…と。
世界が乱れ、醜く広がる前に、私に止まって欲しいのだ…と。
「今回……目が覚めるまで三カ月開いたの。また能力も、才能も、何にも無しで生まれたし……体も小さくなってる」
「イトラの奴は私が殺す。安心しろ」
タチが私を抱き寄せて、私もタチを抱きしめた。
2人の胸の中は一緒。大切な者を失う恐怖――あの別れの時に味わった、やりきれない思い出。
「ところで。ナナはナナでいいのか?名前……というか呼び方は。いつも変えていたのだろう?」
「うん!ナナが良い!私はいつまでもタチのナナでいたいから」
「わかった。お前はナナだ。私の良い子のナナだ」
思えば、同じ名前を語るのは初めてだ。
一つの肉体を終える時、そこを切り取り線に、名も、関係性も捨てて来た。
そもそも深い関係を持つことが少ないのもある。
特に転生した最初の方は、肉体は持ったものの、どう人間と付き合うかわからなかった。
そんな言葉下手、伝達下手、共感下手の自分に寄って来る者は、能力目当ての人ばかり。それも少し嫌だった。
回を重ねるごとに、色んな考え、色んな性格の人もいると知ったが、それでもまだ他者との接触を避けてた傾向がある。
人とは違う存在とバレるのが嫌だったのか、自覚するのが嫌だったのか……。
何時まで経っても踊れず、歌えず、調和できずにいた。人に興味があるクセに。
だからそのつど、私は私を使い捨て、生きて来た――縁やしがらみを面倒がって。
今は裸で愛する人と抱き合ってるけどね……!
「次は、私の首が落ちたぐらいで離れるなよ?その程度で負けはしない」
「うん。ずっとず~っと一緒にいる。もう離れない。」
タチの言葉とぬくもりが、私にまで自信を分け与えてくれる。
たかたが首が落とされたぐらい、なんだというのだ。
だってタチだよ?
「私を射止めたのだから、ずっと相手をするのが義務だ。沢山抱かれ。沢山そばにいろ」
「うん……!私がタチを独占する!」
こんな甘く愛しい朝が、何度だって続けばいいと心の底から願うのだった。
窓から差し込む光と、小鳥のさえずりが朝をお知らせする。
離れ離れだった二人の再会、それも相手がタチとくればそれはもう――それはもうである。
「……でも、体がすごくしっくりきてるよ。…力は抜けてるけど」
ふかふかベッドと久しぶりのタチ枕の上で、ぐったり横たわる。
私が変わっても、タチはずっと強烈にタチのままなので、彼女に触れられ教え込まれるとそこを起点に体がなじむ。
不思議な事である、ずっと同一主体をもった私が、外部を基準に推し量るなんて。
「まだまだだがな。もっともっと感じさせんと気が済まん……がさすがに休憩だ。その体では心配だ」
「遅すぎる気遣いだと思うけど……」
「ナナも望んではないだろう?手加減など。体がもてばだが」
「……うん」
まったく力の筋が入らなくなるまで負かされ、やっと意識を取り戻したばかりな私。
さすがに口ぐらい閉じていたいけど、それもかなわない。
なつかしい。この目覚めると微笑みながら見つめられてる朝。
またこんな朝が迎えられるなんて……
(良かった――本当に良かった…)
確かにタチがここにいる事を噛み締めたくて、抱き着たいのだけど腕に力が入らない。
私の瞳の動きと、微かな体の揺れで察したのか、タチが覆いかぶさるように抱きしめてくれる。
「大丈夫だ…。本当に良く戻ったぞ」
「……うん」
私も何か言いたいけど、今この瞬間に満足しちゃって言葉が見つからない。
声を探すのも|《おっくう》で、今。今この時をただ味わってたくて……
「余計なことは考えるな?散々教え込んだだろう?私が上だ」
「うん。」
そうだった。「それでいいや」で居れるんだった。タチと一緒の時は。
「しかし、ひとつ謝らないといけないな。」
「なに?タチが謝ることなんて何一つないよ」
「あの犬を一度抱いてしまった」
「あの黒服の彼…?そういえば様子がおかしかったけど……」
素直な感想は「なんだそんなことか」だった。
別段その程度のことで今更怒ったりしない、タチが誰かを抱くなんて今更ね。
今更怒ったりしないよね?たぶん。
考えだすとモヤモヤするが、あの黒衣の男の変貌ぶりの方が気になる。
「なんでもポチはポチで昔、女を囲っていたらしいんだが……簡単にまとめると、持て余して皆殺しにしたそうだ」
「色々簡潔にしちゃいけない気がするけど――なかなか壮絶な…、というかあの人ポチって名前なの?」
「知らん。今となっては名乗る気力も失っていてな。不便だから名前を付けてやった」
「うん。まったく流れが理解できない」
私のしってる黒衣の者、現ポチ君(仮)は。
始めはイトラが差し向けた追手で、次にタチを傷つけた敵で、最後タチの剣で真っ二つになる。
結果、謝りたい人がいると言って去っていった。
それが今や犬になりきっている。名付け親はタチ。
変化が急すぎて、事情に追いつけるわけがない。
「ポチを最後まで心配した女だけは、手にかけず捨て置いたそうでな。その女に謝罪しに戻ったのが私達と別れた時だ」
「なるほど。ポチさんにも心残りがあったわけだね」
「あぁ。だが拒絶された」
「……あらら」
「当然だろう。その女にとってポチを優しく受け入れる道理などない。待つ必要もな。新たなパートナーと幸せに暮らしてたんだそうだ。「もう忘れたい思い出だ」とな」
詳しい事情をしらないので、なんともだけど。まぁ、タチの言う通り。
ポチ君が無策で戻って許されるものでもなさそうだ。
自業自得と言うやつかもだけど、ちょっと可哀想。
「ボロ雑巾の様子で帰ってきてな。ずっとブツブツ呟いていた……。その崩れ腐った姿が余りに美味そうでな――、一発思い知らせてしまった。器の違いというものをな」
うむ。
ようはしょぼくれたポチさんをみて、タチの攻めっ気が疼き、抱いちゃった。と!
「いいよ。タチがこの世に存在してくれてるだけで、私はとっても嬉しいもん」
「すまんな。ナナの居ない時に夜遊びなどしたくなかったんだが、余りにも哀れでな。上に立つ資質がどういう物か、徹底的に焼きこんでしまった」
「許してあげる。……でも他にも言う事あるでしょ?女の子達と沢山キスした事とか。」
「それは「本人確認」のキスだけだ。一人も抱いてないぞ?ちゃんと我慢した」
タチの中の謝る線引きが分からないが。抱くかどうかが一応ラインらしい。
「性欲を押さえるのが大変だった……。ナナと離れてから干からびた昆布駄犬しかしゃぶらずに、だが味は濃く――」
「待った!詳しい話はいりません」
私の頭をなでながら、ポチを食べた時の話を始めるタチにストップをかける。
二人で居た船の上で散々聞いた覚えがある……。
タチの猥談!しかも今回相手は知り合い (一応)
「嫌か?ナナには全て話しておきたいのだが……」
「そう言われると知っておきたい気もするけど――焼いちゃいそうだから。聞いても絶対嫌いになったりしないけど……」
なんだろう?独占欲?私にとっては至極当然な嫉妬心と敬愛。
ちょっとだけ食い違った思いがあるのです。
「可愛いなナナは…そう言われるとポチが泣き散らかした話を――」
「きらいになるよ!」
「わかった。わかった。この話はよそう」
いつの間にか動くようになった手で、タチの頬をつねりひっぱる。
どんなことを聞かされたって、嫌うわけない。
嬉しそうに頬を伸ばされるタチの顔を見ているだけで、私は幸せなんだから。
でも、だから、やきもちも焼くんだよ。
そんな甘噛みをしあって、まったりとお互いを感じる。
夜のぶつかり溶けあう確認も好きだけど、こういうのも大好きだ。
「私の人生で、あれほど恐怖を感じたのは初めてだった……」
唐突に、真面目な顔で言葉を口にするタチ。
ゆるやかな流れの中、フッと恐れを思い出す感覚は私にもわかる。
今日この日までそうだったから、ズーミちゃんやユニちゃんと仲良くワイワイ過ごしていても、突然不安に襲われる感じ。
タチに再び出会えるのかと……
「……タチ」
体の力を取り戻した私は、タチの体を抱きしめる。
体が縮んだ分大きく感じるけど、ちゃんと心の底から全力で。
「生き延びた後、ナナを迎えに行かねばと取り乱し、ストレやナビにも迷惑をかけた……」
「…」
そう。わかっていた。私が失う恐怖に怯えていた日々と同じ……いや、それ以上タチだって怖かったはずなのだ。
タチには私を確認する手段がなかったのだから。
「駆けずり回って探し出したかったが、声を上げ、待つのが一番だと頭で判断した……。必至に我慢したのだ。ほめてくれ」
「本当にありがとう。タチは良い子だよ。」
私が地上から完全に離れていた三か月も合わせて、ここ数ヶ月。
タチはずっと我慢してたのだ、性欲もさることながら、恐怖から来る無策な行動も。
あのタチが体を動かすことを、抑えていた。
私と再会するために……
「大好き。ありがとう」
「……うむ。こういうのも最高だ。待っていた」
タチの頭を抱えるような形で抱きしめ、ゆっくり撫でる。
ホントは全身を包み込んであげたいけど、体が小さいからね。
タチは甘えるような声を小さくもらし、グリグリと頭をこすり付けた。
こんなタチ。私以外に見た人はいるのだろうか?
安堵にひたり、身を任せるタチなんて……
可愛くない?
「……痛む?」
昨日から目に入っていた、タチの首元の痕。
ゆっくりゆったりタチの頭を撫でながらも、うっすら残るその線が気になった。
胴と頭が切り離された証拠の痕だ。
「ん?……あぁ大丈夫だ心配ない。」
「どうやって無事でいられたの?」
「ナビが手助けに来た。自らの土地を護るついでだがな」
アルケー湖にダッドが現れた時、ズーミちゃんがした判断と同じだ。
自らの大地。自らの領土の自衛。
「……いや。素直に言うべきだな。一番の要因は「舐められた」からだ。」
タチが私の首元に頭をグリリと、ひと擦りして言葉を続ける。
「私の首を飛ばしたあと、ナナも崩れて消え去った。イトラの力なら私を消し飛ばすなど容易だったろう、だがしなかった。ナビとストレが駆け付けるの許し、頭を繋げるのをただ見ていた――」
「どうして?」
神殺しを望んでいた頃のタチならともかく、今のタチはイトラにとって邪魔者でしかないはずだ。
わざわざ殺すこともないかもしれないが、見過ごす理由にもならない。
「理由はひとつだ……。ナナの前でまた私を殺す」
「!」
「それが一番ナナに効く。それをあの時奴は知った」
背骨がぞくりと凍り付いた。
確かにイトラは言っていた。早く私に諦めて欲しいと。
私は何度も転生する。今の私は時の化身だ…と。
世界が乱れ、醜く広がる前に、私に止まって欲しいのだ…と。
「今回……目が覚めるまで三カ月開いたの。また能力も、才能も、何にも無しで生まれたし……体も小さくなってる」
「イトラの奴は私が殺す。安心しろ」
タチが私を抱き寄せて、私もタチを抱きしめた。
2人の胸の中は一緒。大切な者を失う恐怖――あの別れの時に味わった、やりきれない思い出。
「ところで。ナナはナナでいいのか?名前……というか呼び方は。いつも変えていたのだろう?」
「うん!ナナが良い!私はいつまでもタチのナナでいたいから」
「わかった。お前はナナだ。私の良い子のナナだ」
思えば、同じ名前を語るのは初めてだ。
一つの肉体を終える時、そこを切り取り線に、名も、関係性も捨てて来た。
そもそも深い関係を持つことが少ないのもある。
特に転生した最初の方は、肉体は持ったものの、どう人間と付き合うかわからなかった。
そんな言葉下手、伝達下手、共感下手の自分に寄って来る者は、能力目当ての人ばかり。それも少し嫌だった。
回を重ねるごとに、色んな考え、色んな性格の人もいると知ったが、それでもまだ他者との接触を避けてた傾向がある。
人とは違う存在とバレるのが嫌だったのか、自覚するのが嫌だったのか……。
何時まで経っても踊れず、歌えず、調和できずにいた。人に興味があるクセに。
だからそのつど、私は私を使い捨て、生きて来た――縁やしがらみを面倒がって。
今は裸で愛する人と抱き合ってるけどね……!
「次は、私の首が落ちたぐらいで離れるなよ?その程度で負けはしない」
「うん。ずっとず~っと一緒にいる。もう離れない。」
タチの言葉とぬくもりが、私にまで自信を分け与えてくれる。
たかたが首が落とされたぐらい、なんだというのだ。
だってタチだよ?
「私を射止めたのだから、ずっと相手をするのが義務だ。沢山抱かれ。沢山そばにいろ」
「うん……!私がタチを独占する!」
こんな甘く愛しい朝が、何度だって続けばいいと心の底から願うのだった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる