かみてんせい

あゆみのり

文字の大きさ
上 下
49 / 89

高速移動。

しおりを挟む
 私は今――爆速で水上を移動している。
 海の波などものともせず、ただまっすぐ。
 
 風の大陸を目指し「水の化身」と「ユニコーン」二人の水適正最強生物に抱えられながら……。 
 




「ちょ……ちょっと待って!休憩!そろそろ休憩はさもう!」
「わらわはまだまだ大丈夫じゃよ?」
「ユニも!」
 騎馬きば役の二人は元気いっぱい、でも上に乗っているだけの私が疲労困憊《ひろうこんぱい》。

「私が……もたないです…!」
「ナナぽんは、乗ってるだけユニなのに?」
 アルケー湖をでて川を下り、海に出てタチの元へと向かう道中。
 今のところほぼ水上移動なので、確かに私は運ばれてるだけなんだけど……。

「風圧とかっ……!水飛沫とかっ……!もの凄いんだよ――!!」
 一応ズーミちゃんが、防御用で水のヴェールを張ってくれている。
 しかし、速度が速度。
 海に出てからは特に手加減無しで、水をえぐるように進み、通り抜けた後は、身長の二倍以上の水柱が立ち上る。

 そんな速さで爆進していると、水のヴェールを突き抜けて水飛沫が私にぶつかるのだ。
 
「仕方あるまい。ちと休むか」
 ズーミちゃんが手を振ると、水のヴェールが形を変えてぷよぷよの絨毯状じゅうたんじょうに足元に広がった。

「この上で休憩するがよい」
「ふぃ~。……ありがとうズーミちゃん」
 水の絨毯じゅうたんに体を投げると、私の体重に合わせ波を打つ。
 ひんやりとした感触と、ぷにぷにの触感が心地いい。
 まるで、でっかいズーミちゃんに寝転がっている感覚だ。

「息抜きするなら、ゆったりした服に着替えるユニよ!」

「いいけど……体が強張こわばって、動かないから少し待って…」
 ユニちゃんとの約束は、一日一回だったはずなのに、何かと理由をつけて着せ替えさせようとしてくる。

 実害もないし、色んなお洋服を着るのも楽しいので好きにさせているが、今は着替える体力すらない。
 ずっと同じ体勢で力を入れていたから、体がバキバキに固まっている。

「良いユニ!良いユニ!ここはズーぽんが、お着替えさせてあげるユニ!」
 うきうきピョンピョン跳ねるユニちゃんに合わせて、水の絨毯がぶにょぶにょ動き、寝転がってる私の体も揺れる。

ゴロン。ゴロン。
 なんだろう体に伝わる負荷が、とっても心地よい。

「なんでわらわが面倒を押し付けられるのじゃ!?着せ替えたいのはユニなんじゃから、お主がすればいいじゃろう!」
「ユニがやるのもご褒美だけど~。ズーぽんがナナぽん着替えさせたほうが、いっぱい嬉しいユニ!」
「しらんしらん。お主の趣味に付き合う義理は、わらわに無い!」
「うぅ~~体がカチコチで動かない…。この服体に張り付いて気持ち悪いぃ~」

 ユニちゃんが水上移動用にと私に着せてくれた服は、ゴムのような布のような不思議な素材の物で、体部分を全部覆う形をしていた、おへその部分だけ私の事情でくりぬいてもらっている。

 前世で着ていたインナーの薄手版という感じだ。同じ物の色違いを並べられ「どれが良いユニ?」と言われ、白を選んだ。
 ユニちゃんいわく、基本は紺色らしい。

「ズーぽん!ナナぽんが苦しんでるユニ!お着替えさせて、体もほぐしてあげるユニよ!」
「ごめん……ちょっとしてもらえると嬉しいかも…」
 ユニちゃんの欲望と、私の気だるさが調和した。
 しかし……ユニちゃんはタチのことがとっても嫌いだけど、共に旅をしている私の感覚としては「ちょっと綺麗なタチ」
 
 似てる部分が多いと思うんだけどな…。仲良くできればいいんだけど……むしろだから無理なのかな?
 
 決定的に違うのは「参加」か「見学」かぐらいなもので。
 そんなこと言ったら、怒られるだろうけど。

「えぇ~い!面倒じゃ!脱がせばいいのじゃろう!!」

しゅるしゅる!
 ズーミちゃんの指が伸び、ぴっちり貼り付いた私と服の隙間に入り込む。
 そのまま、すぽん。と器用に服を抜き取ってくれる。

「らく~……便利~~」
 うつ伏せに倒れたまま、裸でぐったりの私。
 恥ずかしさはあるけど、体を休めたとたん疲れが一気に体を覆い、動く気になれない。

 まぁ、周りは海だし、いるのはズーミちゃんとユニちゃんだけだし。
 誰かに見られる心配もない。
 
 ――恥じらいもなくなっちゃったけど。

「むむむ!もっとゆっくりじっくり脱がして欲しかったユニだけど……着せる方で味わうユニ!」
 少し残念そうに唇をかんでから、ユニちゃんは角を輝かせ、新しい服をズーミちゃんに渡す。
 白くてふわふわでひらひらのカワイイ奴を。

 ユニちゃんの服の種類は様々だけど、今回みたいな淡くて可愛らしいお洋服を出すことが多い。
 これが子供服を最上位の「神聖」に位置付ける、ユニちゃんの好みらしい。

「ほら。着せるぞナナ」
「まかせた~~…」
 しゅるしゅるのびたズーミちゃんの両腕が、私に巻き付き体を宙に浮かす。腕を上げ、足を広げ、次々着衣を進めてくれた。
「あぁ~。もう毎日お着替えさせて欲しい……」
「なにいっとるんじゃ怠け者め、今日だけ特別じゃ」
 ズーミちゃんが触れる部分がひんやりして気持ちがいい。

「うぅ…。もっと抱きしめて、片足ずつあんよを上げたりして欲しかったユニ……」
「お主が自分でやれ!!」
 なんだかんだ言いながらも、ズーミちゃんは私の体調を心配し、結局マッサージまでしてくれた。
 ありがとうママ。実際母親がいたらこんな感じなんだろうか?
 
 ママ……というとタチママを思い起こす。
 全然こんな感じじゃなかったな……。タチママが私のママだったら、きっと今頃蹴り殺されてる。

 とっても失礼な妄想だけど。
 

 小一時間お休みした後。
 「もう大丈夫出発しよう」と私は言ったが、ズーミちゃんから「大事を取ろう」とストップがかかり、今日の移動はここまで。
 海上で夜を迎える。

「夜は寝間着に着替えるユニ!今度こそゆっくりじっくり恋文を開くように丁寧に脱がすユニ!」
「やらんよ!」
「私は歓迎だよ?」
「なんで二対一になるんじゃ!?肌を触らせるのじゃぞ!?少しは恥ずかしがれ!」
 完全に横着おうちゃくを覚えた私が、ユニちゃんの提案に乗っかる。
 
「だって……ズーミちゃんならいいかなって。私のママだし」
「だれがママじゃ!!!っというかお手伝いさんの扱いじゃろう!!」
「その関係も素敵ユニね!」

 今度はズル(?)できないように、ボタンの多い服を用意したユニちゃん。
 彼女の望み通り、一つ一つ丁寧にボタンをとめて、服を着替えさせてくれるズーミちゃん。
 お着替え中に、既に口を開けて寝ている私。
 

 こんな感じの水上移動を数日続けたら、あっという間に風の大陸にたどり着いた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。

window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。 式の大事な場面で何が起こったのか? 二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。 王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。 「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」 幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

処理中です...