かみてんせい

あゆみのり

文字の大きさ
上 下
47 / 89

実質泣いてない。

しおりを挟む
 私が崩れ落ちてから三か月経ってる……?
 私が目覚めたのは三日前なのに?

 でも確かに変化が多すぎる。
 タチとイトラが争って、ダッドとナビ――土と風が参戦した。
 たぶんここで一区切り。

 次に風の大陸各地にに現れたダッドを倒しながら、タチは猥談を広め――どう考えても3日じゃ収まらない。

 ユニちゃんがくれた、、ミルクかき氷をパクパク無心で口に運びながら出した結論。

 やっぱり。タチと別れたあの日から三か月経ってる。

「わらわの耳にしたウワサ通りなら、ナビ様はタチ側についたのじゃろう。わらわの時と同じじゃ。自らの地で好き勝手されとる。ダッドはイトラ様側じゃろうな。前から繋がっておった動きじゃし」
 同じくパクパク頬張るズーミちゃん。
 とっても美味しそうに食べてる姿が、ミルク氷より私を癒してくれる。

「神犯しの女と黒衣の駄犬――あとなんじゃったかな?銀色のチビ?いやチビの泣き虫じゃったか、がウィンボスティー周辺でダッドと戦ってるはずじゃ」
 
 
 三か月…三か月も……。
 
 タチもずっと心配してくれただろう。
 私と同じように、恐怖におびえながら。
 
 しかもまだ、タチは私の無事はしらない。
 私が生まれ変わるのは承知してても、最後があんな別れ方だ。

 タチの気持ちを考えると、申し訳なくなる。
 しかし、なにせあのタチだ。私基準で考えちゃいけない。
 疑うこともなく信じてるかも。――私と再び会えるって。
 
 ぐるぐる考えは巡るけど、根元にある一本の芯。「タチに会いたい」という気持ちが補強される。

 だってタチは生きてる!

ぱくり。
 もう一口ミルクかき氷を口にした瞬間。広がった甘みを意識してしまい、せき止まらない感情が溢れでた。

「良かった……良かったよ~~」
 食べかけのかき氷を地面に落とし、ズーミちゃんの体に顔をうずめる。
 どこまでも自分本位で嫌になる感情だけど、ともかく安心した。





「ちょっ……ナナ!わらわの中で泣くな!」
 ゴポ!ゴポゴポ!……ゴポポポポ!
 周囲には漏れない言葉を、ズーミちゃんの中で発する。
(だって――タチに会うまで、涙は流したくないんだもん……!)

 タチにだけは見せていい弱さ。自分の情けなさ。彼女と一緒の時だけのものでありたい。
 タチと居ないときは、せめてちょっとぐらい気丈で強く振舞ってたいのだ。
 恰好だけでも。

 だから、泣かない。ズーミちゃんにくっついていれば、溢れた液体が、涙か、ズーミちゃんの体液かなんて誰にも分らないから。

 つまり、実質泣いてない!

「泣いたという事実は変わらん気もするが……よいよい。好きにするのじゃ」
 一人ゴポゴポと大泣き――瞳の潤いを見き散らす私を、ズーミちゃんは優しく受け止めてくれる。
 
「このままじゃ塩味になりそうじゃ……お通しも食べ終わったことじゃし、収まったらご飯にするとしよう。お主もよいじゃろう?」
 ズーミちゃんが私の背中をポンポン叩きつつ、ユニちゃんに話しかける。

「……てぇてぇユニ」
「ユニおぬし腹はへっておらぬのか?」
「えっ…えぇ!いただくユニ!既に胸いっぱいご馳走様ユニだけど……!もっと食べたいユニ!」
 この二人…どうにか隔離空間に閉じ込めたいユニ…。
 そんな言葉が聞こえたような気がするが、ズーミちゃんから頭を抜いた直後の聞き違えだろう。

「ナナは当然食べるじゃろう?」
「……うん。おなか減った」
 この3日間まともな食事をしてなかったし、そもそも喉を通らなかった。
 ズーミちゃんのお腹に顔をうすめながら、自分のお腹を鳴らす貴重な体験をするぐらい空いてる。

「新・もちもち殺し……食べたら元気が爆発するぞ?」
「しん!!もちもちごろし…!!!」
 自慢げに口にしたズーミちゃんの魅惑の商品名、恥ずかしながら心躍らずにはいられない。

 沢山泣いたし。おなかも減ったし。
 仕方がない。

 愛するタチのもとに向かうにも、まずはお腹ごしらえです。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...