かみてんせい

あゆみのり

文字の大きさ
上 下
45 / 89

水面になりたい。

しおりを挟む
「ん~~?なんか知ってる気がするユニね~??」
 角の生えたお姉さんが、私のおでこにグリグリと鼻をあて匂いを嗅ぐ。

「ど、どちら様でしょうか?」
「この角みてわからないユニか~?ユニコーン、ユニ!」
 ユニコーン……?確かにユニユニ言ってるし、立派な角も額に生えてるけど……。
 私が一度見たユニコーンは、もっとちんまりとした可愛らしい生き物だった。

「ユニはね~。毎日願ってたユニよ!川で出会ったとっても清らかで、美しい乙女……。あの子みたいな乙女がユニも欲しいって!」
 川で出会った――もしかして?私のしってるあの三頭身ぐらいのあの子?

「ずっと見守り、支えたくなるような乙女……あの穢れが皮をかぶったような女さえいなければ、ユニだって……!」
「あの時私にしがみついてた、あのユニちゃん?」
 私の唯一知るユニコーンと、外見は一致しないけど、話を聞く限り同一なような?
 穢れって、たぶんタチのことだよね?「処女を湖に投げ込めば会えたのか!」って言った外道の。

「あぁ~!ユニの狙ってた乙女ユニか!?やっぱり神様のご褒美ユニ!!でもでも見た目が違うユニね?」
「色々と事情が…それに見た目で言えばあなただって、全然ちがうよ?」
 どうやら本当に、風の大陸へと向かう道中で出会ったユニコーンらしい。
 始めて会った時は三頭身ぐらいで、今の私より小さな体をしていた。
 シルエットは、こんなほっそりとした縦長じゃなくて真ん丸の。

「ユニは、月に数日大きくなるユニよ。常識ユニ。」
 …そうなんだ。どこの世界での常識かしらないけど――。
 
 まった!あの時のユニちゃんなんだとすると……。

「ここは水の大陸!!」
 口元を両手で覆い、一つ大事な情報を手に入れたことに喜び驚く。
 前いた地点からだいぶ離れてしまった。

「もちろんユニ?……んー?それにしても不思議ユニ??清らかなのに淫らな香りが――」
 上半身をかがめて、私の胸元に鼻を付けクンクン匂いをかぐユニちゃん。
 まるで犬みたいだ。

「えっと……それは、まー。…まー色々とそれは――」
 タチに会いたい。今すぐあってくっつきたい。現在地はわかった。
 一歩近づけたと思うと、余計に気持ちがはやる。

 でも彼女の事を思い出すと、どうしても甘い思い出より、強烈な場面が前に出て、不安と恐怖が湧き出てしまう。
 最後に見たあの光景が……。

「あの女ユニか?」
 タチへの想いが伝播でんぱしたのか、胸に顔を埋めていたユニちゃんが、真顔でこちらを見上げる。
 
「あの、淫らが服着て歩いてるみたいな黒髪の……!」
 ユニちゃんとあった時は全裸だったけどね。言いたいことはわかるけど。

「やっぱり刺し殺しておくべきだったユニね……」
「そんな物騒な――でも希望が見えたよありがとう!それとアルケー湖の方角教えてもらえないかな?」
 図々しいお願いだけど、なりふり構っていられない。
 まずはわが友、水の化身ズーミちゃんの所に向かい、助けを得なければ。

「いいユニよ!あとお洋服あげるユニ!裸じゃ可哀想ユニ!ユニは可愛いのたくさん持ってるユニ!!」
「本当?ありがとう!やった!」
 居ないタチには敵意満載だけど、私には優しいユニちゃん。
 彼女の真っ白な手をとり、感謝する。

 順調順調。このまま一刻も早くタチの元へ――。

「でも私サイズの服なんて持ってるの?」
「あるユニ!少女大好きだからユニね!ちびっ子お洋服大好きユニ!」
 可愛らしい見た目と、種族の問題で聞き捨てられるが、怖い発言な気がする。
 今の私にとって大変都合がよろしいので、とやかく言ったりしないけど。

「……やっぱりアルケー湖の方角は教えないユニ!ユニの着せ替え人形として、生涯可愛らしく過ごすユニ!」
「…えっ?」
 あれ?物騒な発言をスルーしたせいだろうか?より問題ある発言が続いた気がする。
 因果応報、自業自得その手の文字が脳に浮かんだ。

「どっか行っちゃ嫌ユニ!ユニと二人じゃ寂しいなら、もう一人可愛い~乙女を捕まえるユニ!それで、二人はウフフな生活をするユニ!一生!ずっと!!」
「いや、ちょっと待ってもらって――」
 あれれ?なんかこの強引な感じ、ユニちゃんの憎む、真反対の存在なはずな誰かさんと似ているぞ?

 私の大好きな、おてんばさん、一刻も安否を確認したい想い人と……。

「ユニはずっと見守ってるだけでい良いユニ!!木陰からそっと――でもでも!たまに二人の浴びた水をゴクゴクしたいユニ…!!」
 勝手にしゃべって、勝手に高ぶっていくこの感じ……似ているあの人に。

 始めて出会った時、タチはユニちゃんの事をなんて読んでただろうか……。
 そう――「厄介やっかい処女狂い」だ。

「ごめんなさい!あの!お洋服いらないから、アルケー湖の場所を……」
「……にがさないユニよ?」
 この際素っ裸でも走り出そう。そう思った私に向かい、無垢で、美しく、可愛らしい笑顔で、ユニちゃんが微笑む。
 私の掴まれた両腕から、確固たる意志を感じさせながら。

「お願い、私…タチに会いたいの!あの黒髪の人よ――あんなお別れじゃ絶対やなの!」
 まともな言葉も交わさず、覚悟もないまま、突然の出来事で……。

 最後に目にした血塗られた光景を、私は認めていない。
 タチは――タチならば。必ず生きてるはずだ。

 そうじゃなきゃダメなんだ。
 
「こんなに乙女を求めるユニが……理想の乙女を目の前にして、憎き恋敵の元へお見送りすると思うユニか…?」
「…違うの――違うんだよ。」
「ずっと、ず~っと清らかなまま、美しく生涯をユニの前で過ごすユニ!幸せで美しく……。必要なものは、全部ユニがみつぐから安心するユニ!」
「無理なの!私はタチにベタぼれだもん!なんでもしてくれるなら、今すぐタチに会わせて!!」
 タチの二文字を口にするたび、こぼれそうになる涙をグッと堪える。
 だって今は、涙を拭ってくれる彼女の前じゃないんだから。


「ぬぬぬ~……。乙女には笑顔でいて欲しいユニ…。そんな顔いやユニよ……」
「お願い!!タチに会えたら、なんでもするから」
 うつ向き考え込むユニちゃんに懇願こんがんする。
 持ち合わせは何もないが、想いと願いは本心だ。
 
 差し出せるものは全てさしだしても、タチに会いたい。
 
「……わかったユニよ。あの女と会うまで、ユニの着せ替え人形になってくれるなら良いユニ」
「そんな事でいいの?」
「だから悲しい顔しないで欲しいユニ。それと、あの女と会ったら乙女を賭けて決闘するユニからね?」
「いいよ!全然いい!……でもタチはもの凄く強いよ?」
 根は優しいのだろう。乙女に対して限定だけど。

 願いが通った喜びで、軽く返事を重ねたが、実際二人が対決することを想像すると、ユニちゃんに申し訳なくなる。
 酷い目にあわされそうだ。

「乙女を前にしたユニは最強ユニ!乙女を見守るためなら、どんな汚い手段でもとる覚悟があるユニ……!」
「そ……そっか。できれば二人とも仲良くしてくれると嬉しいけど……」
「それはないユニ」
 ユニちゃんのキラキラ光る瞳から、輝きが一瞬消えたような気もするが、見なかったことにしよう。
 ともかく一歩でも先に進まないと。

 早く行動をおこしたくて、体がソワソワする。

「じゃ~。まずはお洋服ユニね!」
 ユニちゃんの角が、ピカーっと光り輝いた。
 真っ白な光の中から、綺麗に折りたたまれた、お洋服が一式現れる。

「凄い!!」
「でしょ?でしょ?ユニの角は神聖な物を分解して、保存できるユニ!生命は無理なのが残念ユニだけど……」
 もし、できたらしたんだろうな。…乙女を。
 寂し気に洋服を見つめるユニちゃん。中身ではなく服だけを集めた彼女の背中には、味わい深いものが漂っている。

「神聖な物――これ、ただの子供服だよね?もしかして、凄い効果があったりするの?」
「は?何を言ってるユニ?小さい服は、神の着る衣の次――いやそれに肩を並べるぐらい神聖な服ユニよ!めちゃくちゃ尊いユニ!」
 うん。再びわかった。これがユニコーン。
 乙女にただならぬ執着心を持つ生き物。

 非常に厄介だ。
 
「……そっか。なら私にぴったりだね。それとごめん。できればおへその出る服お願いしてもいいかな?」
 私がその、子供服と肩を並べてる神だよ!の説明は面倒だし、おしゃべりが長くなりそうなので伏せておく。
 必要な事。へそをださないと調子が悪くなる事だけは、ちゃんと言っておこう。

「あ゛ぁ゛~いいユニね!!ならこっちにするユニ!」
(……けっこうキタナイ声もだすんだね)
 ユニちゃんは手にしたお洋服を輝く角にしまうと、違うお洋服を引っ張り出してくれた。
 大変便利な能力だ。

 過ちの香りが漂うのは気になるけど。


 陸に上がり、じっくり見られながら着替えを終える。

「うん。ぴったり。ありがとうユニちゃん。それじゃあ、アルケー湖に出発しよう!」
「行くユニ!どこまでも見守るユニよ!まかせるユニ!」
 見守るというか、至近距離でじっくり観察してたけどね。
 それがお返しになるなら安いものだ。

 まずは、アルケー湖。ユニちゃんが言うには、ユニちゃんの背に乗って川をいくつか下れば、三日で着くそうだ。

 着いたらズーミちゃんに会って事情を説明し、力を貸してもらおう。
 力が無理でも、風の大陸まで戻る資金をせびらないと。

(タチ……必ず無事でいてくれてるよね。タチは最強だもん)
 ニコニコ笑顔で、おんぶの形のまま私を待つユニちゃんに、私は逃げることなく立ち向かうのであった。
 
 立ち止まってしまわぬよう、焼き付いた光景から、目を背けて。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。

window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。 式の大事な場面で何が起こったのか? 二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。 王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。 「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」 幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

処理中です...