かみてんせい

あゆみのり

文字の大きさ
上 下
41 / 89

すまん。やりすぎた。

しおりを挟む
「私が神なの!!」
 私の一言で、つばぜり合っていた二人が、弾けるように距離をとる。

「えっ!?」
 一際は大きなリアクションをとったのはタチだった。
 黒衣の男の方はジロリと私に視線を向けるだけ。

「……えっ?」
 もう一度、目を丸々と広げたタチが私を見つめる。

「ご…ごめん。ちゃんと言わなきゃって思ってたんだけど…その――!」
「……え?」
 タチが混乱している…!珍しい一面を見られてちょっと可愛――だめだ!
 今はそういう時じゃない!

「タチの優しさに甘えてた…といいますか、うすうす気づいてるのかな?とか思ったり、してたりしたり……」
「い…いや。言いにくい事や、隠し事があるのはもちろんわかっていたが…」 
 顔から緊張が抜け、開いた口がふさがってないタチさん。

「ごめんなさい!!嫌われたくなくて隠してました!!」
 瓦礫の上、土下座するしかない私。本当に申し訳ない。

「実は好きな男がいる――夜のプレイに不満がある――。。。本命は「ズーミとデキていた」だと思ってたのだが…」
「ないよ!?そんなわけ!?」
 色恋……というか、性の方向でしか思考をもたないのだろうか?
 なんかもっと深~いところで、読み解かれていると思っていたんだけど……。

「しかし…!水の力を使っているし、コソコソ二人で密談していたしだな……私より先にスライムとネンゴロ――」
「ありません!!ズーミちゃんは親友!神殺しを奪おうとして作戦会議してたの!痛いのイヤだから!!」
 友というか眷属《けんぞく》にあたるんだけど。
 今の私にその実感はないし、彼女も同じ気持ちだろう。

 ただの親友ってやつだ。

「悔しい気持ちをバネにして、嫉妬心を胸に燃え上がっていた夜もあるのだぞ!?」
「知りません!勝手な思い込み!」
「私の湧き上がる嫉妬心はなんだったのいうのだ!?たぶん初めてだぞ!!」
「勘違いだってば!っていうかタチだって「全部知ってるぞ。」みたいな雰囲気だしてたのに何それ!!私が神様なの!」

 やっと言えた。ずっと隠してきた事実を。
 それでもタチはタチのまま、私と話をしてくれることに感謝しちゃう。

「あ……あれ?こういう雰囲気なんですか?」
 息を切らせて、駆け付けてくれたストレが、想像したであろう場の空気との落差に戸惑う。

 あなたが正しいけど。

「どうだっていいんだよ!!」
 もう一人、正しい空気のままを保っていた男が声を荒げた。
「奴が神だろうが、あんたが神だろうが、俺は思い知らされてんだよ、何を与えられても、クズはクズだって」
 男が苛立たし気に剣を一振りすると、どうにか形を成していた小屋は、完全に瓦礫《がれき》の山となった。

「なぜ、それほどの魂の叫びを発せているのに、誰かのいいなりでいる?」
「役割を果たす以外に、オレに何がある……」 
 黒衣の男は、明確にタチを狙って攻撃をしかける。
 今までは私が目的で、タチもストレも障害でしかない扱いだったのに。
 
「変えようのないほど、お前はお前だ心配するな」
「煽ってるんだよなぁ!?恵まれて産まれ直そうが、変わらなかったオレを――!!」
「いったい誰の基準で苦しんでいる?魂のおもむくままにさせてやれ」
 会話……というより、口論をしながら剣がぶつかり合う。
 私にはもちろん、ストレにも入り込む隙がない。

 二人の戦闘力が違い過ぎて。

「魂なんてあるわきゃねーだろ!」
 ドン!男の縦ぶりで、瓦礫が吹き飛び、大地が割れた。

「それほど、苦しんでおいて魂を疑うのか?」
「苦しみだ?快楽だ?――ただの神経の信号だ。くだらねぇ。おくれた奴らがッ…ムカツクぜ!!」
 攻めているのは黒衣の男なのに、剣を振れば振るほど、苦しんでいるのは彼に見える。

「やはりお前はいい。私の好物だ。正直、今はそれどころじゃないがな」
 男の動きが荒くなるのにつれて、生じた隙をタチは容赦なくついた。
 水の剣が一太刀。男の腹を掠める。

ブシュ!

 前回のお返しとばかりに、繰り出したタチの反撃で、男のわき腹から血が噴き出す。

「決めた。まずはてめぇーをぶっ殺す!」
 血走った目がタチを睨みつけた。

「それだ、私の魅力に引き寄せられて、激怒する。そこにお前がいるじゃないか。お前の魂が」
「ちげーな!果たすべき役割の邪魔を消すってだけだ。時の化身と違って、一度しかころせねーのが残念だがな!!」
 吹き出る血もお構いなしで、乱暴に剣を振る男。
 一撃一撃の隙をつき、刃を体に切り込ませるタチ。

「何度も味わいたいと感じているのだろう!この瞬間を!!」
「そんな攻撃で、倒れる体じゃねーんだよ!!」
 幾度もタチの剣撃を受けながらも、衰えない男の猛攻。
 斬られた傷は、次の一刀を受ける前に塞がってしまっている。

「あんたも無力を思い知れ!焦りも、憎しみも、何一つ自分のモノなどこの世にないんだってな!!」
「くだらん!私の喜びは私だけのものだ!!」

キィィン。
 
 突然。
 タチの腰で神殺しが震えだした。

「そうだろう!神殺し!貴様らの憎しみも!お前だけの尊きモノだ!!」
「物とおしゃべりまでして、煽るんじゃねーよ!!」
 抜き出された神殺しの刀身は、この場の誰よりも黒かった。

 交錯した二人の黒い斬撃は、一つは空を切り、一つは男を両断した。
 上下二つに。

ボタリ
 斬り落ちた、男の上半身にタチが話しかける。

「……すまん。やりすぎた」




「…どういう脳みそしてたら……そんな言葉がでるんだよ?」
「殺すつもりはなかったのだが――盛り上がり過ぎた」 
 タチは膝をつき、男の上半身をかかえる。

「胸…でけぇな。…色々と思い出しちまうぜ……」
「自慢の体だ。せめて一度抱きたかった――わからせてやれたのに……」
 口からゴポゴポ血を溢れだし喋る、上半身だけの男。
 まっぷたつに切り分けた、相手を抱きたいという女。

 会話の内容と、見た目の状態に差がありすぎる。

「くっつけたら、治ったりしないのか?」
「…」
 死にかけの人に言うには、余りにも無神経な言葉に男が目を反らす。

「ナナ!下半身持ってきてくれ!」
「えぇっ…!?」
 見守るだけだった私達に、急に矢が飛んできた。
 ストレは見た目のグロテスクさで、背を向けて、涙目でオエオエしている。

「人の命がかかっているのだぞ!」
「うぅ……」
 でましたよ。タチの断りずらい理不尽!

 斬った張本人が何をまっとうそうに――
 でも、とりあえず、やれることをやろうの精神で、ボッテリ崩れ落ちてる下半身をタチのほうに引きずろうとする。

「ダメだ!抱えてもってこい!中身がこぼれ落ちる!」
「えぇ!!…気持ち悪いよ……」
 言いつつも、太もものあたりを抱えて、切り口を上にしタチのもとへ運ぶ。
 もちろん顔はそむけて。

「うぅうぐッ――!!!」
 そんな私の勇気ある行動を見て(見れてない)、ストレちゃんはただひたすらに自らをおさえていた。(抑えられていない)
 可哀想に……助けに駆けつけてくれたのに、見せ場の一つもなく、ただただゲロゲロしている。
 
 でも戦士ならこんな場面いくらでも――ないか。
 真っ二つになった人間を繋げ直そうとする場面なんて。
 
「うぅっ――…血の匂いが……」
 直視してないとは言え香りが凄い。なんかブシュブシュ空気の潰れる音もするし……。
 足元は瓦礫だらけ、転びでもしたら内臓が飛び散ってしまう…。気を付けないと……。

「……おい。やめろ。いいから、遺言とかを聞けよ」
 極めてまっとうな意見が、極めて異常な姿の男から吐き出される。
 ゴポゴポ、胸下の輪切りと、口から血を吐きながら。

「だめだ。隠してもわかるぞ。お前、くっつくだろう?」
「……チッ。」
「……そうなの?」
 ため息ひとつ、あと内臓のナニカを上半身からボテリと落としながら、面倒くさい表情の男。

「たぶんな。……だから首を落とせ。たぶんそれで死ねる」
「だめだ。くっつけろナナ」
「うん」
 男の言葉はおいといて、とりあえず断面を重ねてみる。
 内臓一つ落っこちたままだけど。

「まてよ!何がしたいんだお前ら!」
「抱きたい」
  明確な答えがない私と違い、タチは完結だった。

「下半身だけくれてやる……勝手にヤればいいだろ!」
「えっ…そんな所見たくない……」
「だったら目を閉じてろよ!!つーかなんで立ち会う前提なんだボケ!」

 思った以上に元気な上半身さんが、私にどなりつけた。
 正直、そもそも、タチが他の人と「仲良く」している所なんて見たくない。
 でも、まぁ。タチだから仕方がない気もするから悩みどころだ。

 でもでも、さすがに、下半身だけと仲良くしてるとこは……想像したくもない。

「面白そうだが、私の興味があるのはお前自身だ。……おおかた自殺を試みて、自分の再生力は知っているのだろう?」
「……死に切る根性はなかったけどな」
「魂を信じぬお前がか。笑えるな」
 戦闘中と変わらず、会話を続ける二人。
 私には理解できない感覚だ。

 とりあえず、言われた通り上半身につながる様に、下半身を持つ。

「あの……いつまで?」
「……五分もすれば、つながる。」
 五分……かかえてなきゃいけないのか…。
 重ねた切れ目部分からピチピチ音がするのが怖い。

「意味がわからない。あんた達を殺すのが俺の役割だぞ?」
「お前は、まだ私を殺したいのか?その意志があるのか?そう言われたからといって」
 男とタチが視線を交えていた。
 私はただの支え役。ちょっぴり寂しい。

 あと、私も吐きそう。

「……わからない」
「私は神を殺そうと思っていたが今日やめた。なにせ、ナナが神らしいのでな。そんなものだ」
 タチが私の方に顔を向ける。

「…そんなに簡単にいいの?」
「いけない理由がどこにある?私の気持ちは変わらない。ナナがなにで、どうあろうとも」
 変わらず支え役のままだけど、だいぶん嬉しい。
 でも神を殺すため、長い旅をしてきただろうにいいのだろうか?
 ……良くないと困るけど。

「力も才も金も女も……手にして生まれてこれなんだ……。――オレはどうしたらまともになれる?」 
「一度私にかしずき、犬となれ。まともになる必要などない」
 傲慢で、上からで、偉そうな、いつものタチ。

バタリ。
 向こうの方でストレが倒れた音がした。
 ごめんね。いっつも放っておいて。背中の一つでもさすってあげたかったんだけど、それどころじゃなくってさ……。

「……いいかもな。少し時間をくれないか?謝らなきゃならないヤツがいるんだ。」
「思い人か?」
「ずっと傍にいてくれたのに、ほっぽり出したどんくさい奴が……」
「好きにしろ」
 黒衣の男は。泣いていた。
 たぶん、今までしたきた色々な事をおもいだして。

「沢山…殺しちまったな……オレはどうやったって……」
「今はゆっくり休め。何をどうでも私に抱かれてからにしろ」
 タチは優しく男の頭を撫でた。ゆっくりゆっくり。
 その姿をみても、私に嫉妬の心や、寂しさは生まれない。
 
 不思議だけど、当然だと感じる。なにせタチだから。


 許されていいわけがない…。
 繰り返しつぶやく光の化身が送り込んだ刺客は、普通に悩み後悔するただの人間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

私って何者なの

根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。 そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。 とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...