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涙。
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「クソッ……うっとうしいぜ」
片膝をついて、男が苦しそうに息を吐いた。
当然だ、お腹が半分ぐらい消し飛んでる。
「ただの平野だ。その体では逃げることもかなうまい」
ストレがジリと間合いを詰めた。
さすがに大きな損傷だ、まだしゃべれているのも驚きだけど、回復に時間がかかるだろう。
「想定外だ……」
黒衣の男が指をパチンと鳴らした。
突然、激しい光と破裂音と共に稲妻が男の横に落ち、取り囲んでいた私たち三人は風圧で押し流される。
「馬鹿な!?」
ストレが驚愕の声を上げた。
一秒にも満たない間で、男は黒馬にまたがり、私たちを見下ろしていた。
風から顔を覆い隠した私だけじゃなく、身構えたままの二人でさえ、黒馬の出現は確認できなかったようだ。
「今日は挨拶だ。何度だって殺してやるぞ。時の化身」
馬に跨った黒衣の男は、そのまま南の方へと駆け出し消えていく。
当然ながら、私たちには追いかける気力も、体力も残ってはないかった。
「無事か?」
タチが私に近寄り確認する。体の無事とか、胸の触り心地とか。
こんな時でも。
「タチこそ……大丈夫なの?」
タチのお腹には、まだふさがり切ってない大きな切り傷。
見るだけで痛々しいし、なぜか私が泣きたくなる。
「私にはコレがあるからな」
ズボンをずり降ろして、契約の印を見せるタチ。
改めて見ても、卑猥な形で厭らしい場所に印されている。
……どうやら平気そうだけど、やっぱり心配。
「あの…私も――、一応攻撃を受けまして……」
「あっ!ごめん!!忘れてた……!」
「チビ様……」
タチの心配ばっかりで、少しばかり存在が消えかけてたストレに慌てて駆け寄る。
ごめんね。涙目にさせちゃって。
「本当にありがとう。身を挺して守ってくれて」
「主人を護るのは当然の務めです」
エヘンと胸を張り、自慢げな顔をするストレ。
良い人だ……ひどく蔑ろな扱いをされたというのに。
「時間稼ぎ程度だったが、いい心持ちだった、私は好きだぞストレ」
ぐりぐりとタチがストレの頭を撫でる。
「お前に褒められる覚えはない!!」
二人のやり取りを見ると、心に安堵が広がり、体が疲れを覚え始めた。
ドサ。
「ナナ!?」
膝からくずれる私を、地面に着く前にタチが受け止めてくれた。
「力を使ったからかな……?」
源の力。それは誰にでも使えるものではない。
神から授かった化身。または化身から引き継いだ相応しいモノだけの特別な力。
強力な分、負担も大きい……。人間の私では――
「……少し休むか?」
抱きかかえた私に。優しく言葉をかけるタチ。
何も聞くことをせず。
「あのね……男の言ってた化身って言うのは――」
一難はさった、けれどタチに言いたいことがいっぱいあった。
話すべきだ――こんなに迷惑をかけてるのに、隠すべきじゃない。
いっぱい言葉を重ねたくてたまらない。
タチに嫌われないように言い訳を……
「無理に話さなくてもいい。お前がなにであろうと、どうであろうと好きだ」
言われたとたん。涙が目からこぼれた。
私じゃない。体が勝手に反応した。
「私…私ね――。ずっと話そうと、思ってたんだけど……」
体がおかしい。私の制御を離れている。
言葉が上手く発せないし、喉もお顔もジンジンする。
「わかってる。心の機微なら感じていたさ」
タチが涙で濡れる私の目元を拭う。
でも、次から次から涙がこぼれて止まらない。
「……わかってるの?」
「お前とズーミが隠しごとをしてたのなら知ってる。何かを打ち明けようとして、何度もソワソワしてるのもな」
「なんで?なんでわかるの?」
私は神で。あなたはただの人なのに。
「隠し事が下手すぎるし、私はお前を見ている。寝顔も裸もずっとだ」
「ずっと……?」
私だって一緒にいた。でもタチが何を考えてるかなんてわからない。
「好きだからな。見ていると楽しいし嬉しい。なにより抱きたくなる」
私……私はタチを見ていただろうか?
はじめは避けてたし逃げてた、それ以降もそうだ。
だって相手は神殺しで、私は神。
ズーミちゃんと三人旅をしている時には、仲良しになり、船の上では沢山お話をして……キスもした。
思い出すとまた、記憶と共に涙が溢れる。
「私は……。私は……。」
言葉が見つからない。神様なのにこんなにも、申し訳なさで胸がいっぱいだ。
隠し事をして、自分の事ばかりで、何度も助けられて――。
「私にはわかるぞ。ナナがどんどん私に惚れてるのが。恐れる必要はない大丈夫だ」
「う…うぅ……」
どうして自信に満ち溢れているのだろう。
なさけない私は、嗚咽を上げて泣くことしかできないのに。
「ゆっくりだ。ゆっくりでいい。どうせ私のモノになる」
「うぅ――…」
やだ。大げさに泣き散らかしたくなんてない。
でも、タチが私の流れを誘導してる。意地悪じゃなく……優しさで。
「愛してるぞナナ」
涙を抑えることに全力だった私の体に。タチの唇がふれる。
二度目のキス。
体の抵抗は全て崩れ、唇と目からツラく切ない気持ちが流れ出す。
私にもこんな感情があったんだ……
あふれ出る思いを、全部。全部。タチが受け止めてくれる。
脱力した私の口に、タチの舌が入り込み、確かめ始めた。
私を。
唇と唇が重なって、タチの動きに従うように私の舌も動く。
胸がきゅぅぅううっと締め付けられる、その苦しさもタチには読まれてて、強く優しくタチの舌が――
ガシャン!
「ふぁっ!?」
突然おこった金属音に私の体がビクリと反応し、意識が鮮明になる。
音のした方をみると、ストレが凄く凄く申し訳なさそうに頭をさげていた。
「す…すまない!あまりにもその――色っぽすぎて槍を持つ握力が……!」
……忘れてた!ついさっき思い出したのにまた忘れてた!!
ストレちゃんの存在!
私たちのやり取りをずっと見られてた事実に気づき、頭が沸騰する。
「お前な……せっかく見学させてやっていたのにどうして大人しくしてられない?それではスライムと一緒だぞ?」
あきれ顔でタチが私を抱きしめる。
お気に入りのぬいぐるみが逃げない様にするみたいに。ギュっと強めに。
「し……しかしだな!?突然チビ様は泣くし、話しかけにくい空気が流れるし…その――始まってしまうし…!お前たちの事情が分からぬ私からすれば呆然もするだろう!?」
その通り。ストレは何一つ悪くない。
彼女が涙目で弁明する必要なんてないのだけど、なにぶんタチの圧がすごい。
「まぁいい今度だ。今度にしよう」
タチが私の頭を優しく撫でて、ゆっくり起こす。
「……今度でいいの?」
「今度でいい。それより体は大丈夫か?」
「…うん。馬に乗るぐらいはできそう」
私はタチに支えられて立ち上がる。
体も心も頼もしい。安定感があって力強い。
「また馬は二頭になってしまたが……その二人が相乗りでいいのだろうか?」
ストレが申し訳なさそうに口を開いた。
そうか。そういえば黒衣の者の襲撃で、私のお馬さんはとんずらしたんだ。
「当然だ。な?ナナ」
「……うん」
タチが私の腰を抱いて寄せる。
顔を覗き込まれてつい、隠すようにそらしてしまう。
照れや、恥ずかしさもあるけど。なにより、泣きはらした顔を見られるのが嫌だったから。
「可愛いぞ」
クイ。
顎をすくわれて方向修正。優しく導かれ、キスされる。
軽めの。そんな厭らしくないのを一つ。
「…今度って、言ったのに」
「今度は今度だ。私の好きな時に今度は来るし。お前の好きな時に今度がくればいい」
本当――この人。本当……。
「……なにそれ」
「一緒にいれば、いつでも今度で良いという事だ」
通っているようないないような、理論。
でも凄くタチっぽい。
見つめ合い、まじ合う視線がくすぐったいけど、自分から離すことはできない。
「なんだ?もっとキスがしたいのか?」
「…」
言われると意識してしまう。タチの唇と舌の感触を……。
私は――
ガシャン!
「あっ!?」
「ストレ…お前なぁ……」
「違う!わざとじゃないのだぞ!?急に始まるからつい見入ってしまって…!」
両手を振って弁明を始めるストレ。先ほどと同じ涙目だ。
大泣きした私より全然ましな可愛い泣き顔だけど。
「ナナが大丈夫なら、一先ずこの場を離れるとしよう」
タチに付き添ってもらい、馬に跨る。
「そういえば……雨。あがってるね」
「そうだな」
どこまで行けば安全かもわからず、夜通し馬を走らせた。
星空の中、気高い蹄の音が鳴り響く。
後ろに座ったタチは、ただ温かく私が落ちない様に包んでくれる。
いつまで、こうしていられるのだろう。
私の「今度」は、聖地に着いたら訪れないというのに――。
片膝をついて、男が苦しそうに息を吐いた。
当然だ、お腹が半分ぐらい消し飛んでる。
「ただの平野だ。その体では逃げることもかなうまい」
ストレがジリと間合いを詰めた。
さすがに大きな損傷だ、まだしゃべれているのも驚きだけど、回復に時間がかかるだろう。
「想定外だ……」
黒衣の男が指をパチンと鳴らした。
突然、激しい光と破裂音と共に稲妻が男の横に落ち、取り囲んでいた私たち三人は風圧で押し流される。
「馬鹿な!?」
ストレが驚愕の声を上げた。
一秒にも満たない間で、男は黒馬にまたがり、私たちを見下ろしていた。
風から顔を覆い隠した私だけじゃなく、身構えたままの二人でさえ、黒馬の出現は確認できなかったようだ。
「今日は挨拶だ。何度だって殺してやるぞ。時の化身」
馬に跨った黒衣の男は、そのまま南の方へと駆け出し消えていく。
当然ながら、私たちには追いかける気力も、体力も残ってはないかった。
「無事か?」
タチが私に近寄り確認する。体の無事とか、胸の触り心地とか。
こんな時でも。
「タチこそ……大丈夫なの?」
タチのお腹には、まだふさがり切ってない大きな切り傷。
見るだけで痛々しいし、なぜか私が泣きたくなる。
「私にはコレがあるからな」
ズボンをずり降ろして、契約の印を見せるタチ。
改めて見ても、卑猥な形で厭らしい場所に印されている。
……どうやら平気そうだけど、やっぱり心配。
「あの…私も――、一応攻撃を受けまして……」
「あっ!ごめん!!忘れてた……!」
「チビ様……」
タチの心配ばっかりで、少しばかり存在が消えかけてたストレに慌てて駆け寄る。
ごめんね。涙目にさせちゃって。
「本当にありがとう。身を挺して守ってくれて」
「主人を護るのは当然の務めです」
エヘンと胸を張り、自慢げな顔をするストレ。
良い人だ……ひどく蔑ろな扱いをされたというのに。
「時間稼ぎ程度だったが、いい心持ちだった、私は好きだぞストレ」
ぐりぐりとタチがストレの頭を撫でる。
「お前に褒められる覚えはない!!」
二人のやり取りを見ると、心に安堵が広がり、体が疲れを覚え始めた。
ドサ。
「ナナ!?」
膝からくずれる私を、地面に着く前にタチが受け止めてくれた。
「力を使ったからかな……?」
源の力。それは誰にでも使えるものではない。
神から授かった化身。または化身から引き継いだ相応しいモノだけの特別な力。
強力な分、負担も大きい……。人間の私では――
「……少し休むか?」
抱きかかえた私に。優しく言葉をかけるタチ。
何も聞くことをせず。
「あのね……男の言ってた化身って言うのは――」
一難はさった、けれどタチに言いたいことがいっぱいあった。
話すべきだ――こんなに迷惑をかけてるのに、隠すべきじゃない。
いっぱい言葉を重ねたくてたまらない。
タチに嫌われないように言い訳を……
「無理に話さなくてもいい。お前がなにであろうと、どうであろうと好きだ」
言われたとたん。涙が目からこぼれた。
私じゃない。体が勝手に反応した。
「私…私ね――。ずっと話そうと、思ってたんだけど……」
体がおかしい。私の制御を離れている。
言葉が上手く発せないし、喉もお顔もジンジンする。
「わかってる。心の機微なら感じていたさ」
タチが涙で濡れる私の目元を拭う。
でも、次から次から涙がこぼれて止まらない。
「……わかってるの?」
「お前とズーミが隠しごとをしてたのなら知ってる。何かを打ち明けようとして、何度もソワソワしてるのもな」
「なんで?なんでわかるの?」
私は神で。あなたはただの人なのに。
「隠し事が下手すぎるし、私はお前を見ている。寝顔も裸もずっとだ」
「ずっと……?」
私だって一緒にいた。でもタチが何を考えてるかなんてわからない。
「好きだからな。見ていると楽しいし嬉しい。なにより抱きたくなる」
私……私はタチを見ていただろうか?
はじめは避けてたし逃げてた、それ以降もそうだ。
だって相手は神殺しで、私は神。
ズーミちゃんと三人旅をしている時には、仲良しになり、船の上では沢山お話をして……キスもした。
思い出すとまた、記憶と共に涙が溢れる。
「私は……。私は……。」
言葉が見つからない。神様なのにこんなにも、申し訳なさで胸がいっぱいだ。
隠し事をして、自分の事ばかりで、何度も助けられて――。
「私にはわかるぞ。ナナがどんどん私に惚れてるのが。恐れる必要はない大丈夫だ」
「う…うぅ……」
どうして自信に満ち溢れているのだろう。
なさけない私は、嗚咽を上げて泣くことしかできないのに。
「ゆっくりだ。ゆっくりでいい。どうせ私のモノになる」
「うぅ――…」
やだ。大げさに泣き散らかしたくなんてない。
でも、タチが私の流れを誘導してる。意地悪じゃなく……優しさで。
「愛してるぞナナ」
涙を抑えることに全力だった私の体に。タチの唇がふれる。
二度目のキス。
体の抵抗は全て崩れ、唇と目からツラく切ない気持ちが流れ出す。
私にもこんな感情があったんだ……
あふれ出る思いを、全部。全部。タチが受け止めてくれる。
脱力した私の口に、タチの舌が入り込み、確かめ始めた。
私を。
唇と唇が重なって、タチの動きに従うように私の舌も動く。
胸がきゅぅぅううっと締め付けられる、その苦しさもタチには読まれてて、強く優しくタチの舌が――
ガシャン!
「ふぁっ!?」
突然おこった金属音に私の体がビクリと反応し、意識が鮮明になる。
音のした方をみると、ストレが凄く凄く申し訳なさそうに頭をさげていた。
「す…すまない!あまりにもその――色っぽすぎて槍を持つ握力が……!」
……忘れてた!ついさっき思い出したのにまた忘れてた!!
ストレちゃんの存在!
私たちのやり取りをずっと見られてた事実に気づき、頭が沸騰する。
「お前な……せっかく見学させてやっていたのにどうして大人しくしてられない?それではスライムと一緒だぞ?」
あきれ顔でタチが私を抱きしめる。
お気に入りのぬいぐるみが逃げない様にするみたいに。ギュっと強めに。
「し……しかしだな!?突然チビ様は泣くし、話しかけにくい空気が流れるし…その――始まってしまうし…!お前たちの事情が分からぬ私からすれば呆然もするだろう!?」
その通り。ストレは何一つ悪くない。
彼女が涙目で弁明する必要なんてないのだけど、なにぶんタチの圧がすごい。
「まぁいい今度だ。今度にしよう」
タチが私の頭を優しく撫でて、ゆっくり起こす。
「……今度でいいの?」
「今度でいい。それより体は大丈夫か?」
「…うん。馬に乗るぐらいはできそう」
私はタチに支えられて立ち上がる。
体も心も頼もしい。安定感があって力強い。
「また馬は二頭になってしまたが……その二人が相乗りでいいのだろうか?」
ストレが申し訳なさそうに口を開いた。
そうか。そういえば黒衣の者の襲撃で、私のお馬さんはとんずらしたんだ。
「当然だ。な?ナナ」
「……うん」
タチが私の腰を抱いて寄せる。
顔を覗き込まれてつい、隠すようにそらしてしまう。
照れや、恥ずかしさもあるけど。なにより、泣きはらした顔を見られるのが嫌だったから。
「可愛いぞ」
クイ。
顎をすくわれて方向修正。優しく導かれ、キスされる。
軽めの。そんな厭らしくないのを一つ。
「…今度って、言ったのに」
「今度は今度だ。私の好きな時に今度は来るし。お前の好きな時に今度がくればいい」
本当――この人。本当……。
「……なにそれ」
「一緒にいれば、いつでも今度で良いという事だ」
通っているようないないような、理論。
でも凄くタチっぽい。
見つめ合い、まじ合う視線がくすぐったいけど、自分から離すことはできない。
「なんだ?もっとキスがしたいのか?」
「…」
言われると意識してしまう。タチの唇と舌の感触を……。
私は――
ガシャン!
「あっ!?」
「ストレ…お前なぁ……」
「違う!わざとじゃないのだぞ!?急に始まるからつい見入ってしまって…!」
両手を振って弁明を始めるストレ。先ほどと同じ涙目だ。
大泣きした私より全然ましな可愛い泣き顔だけど。
「ナナが大丈夫なら、一先ずこの場を離れるとしよう」
タチに付き添ってもらい、馬に跨る。
「そういえば……雨。あがってるね」
「そうだな」
どこまで行けば安全かもわからず、夜通し馬を走らせた。
星空の中、気高い蹄の音が鳴り響く。
後ろに座ったタチは、ただ温かく私が落ちない様に包んでくれる。
いつまで、こうしていられるのだろう。
私の「今度」は、聖地に着いたら訪れないというのに――。
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