33 / 89
抱かれるべき。
しおりを挟む
空が泣き、私達を濡らす。
「貴様の目的はなんだ!!」
私を護るように立つストレが、黒衣の男に槍を向けた。
敵わないとわかっていても、彼女は義理を通す。
今までの生き様を貫いて。
「……こっちが聞きたいね。恵まれたとしても、オレに価値なんてない――そう痛感させるためか?そんなのあんまりだろ?」
私たちじゃなく、天に向かって男は答えた。
「神の命だ。あんたを殺すのはオレがふさわしい、何度だって何度だって殺してやる。時の化身」
「時の……化身?」
剣で指し示されたのは私。
なんのことだ?時の化身?そんな化身、聞いたことが無い。
だけど彼がイトラの命令で動いているのは間違いなさそうだ。
「恨みや憎しみでは、救いはおとずれんぞ!」
ストレが槍を突き出し、突進する。
「つごうのいいもん全部手に入れたって、救われなかったんだ。それでも前を向けってか?」
男は攻撃を造作もなく受け流し、払いのける。
「逃げてください!チビ様!」
ストレは叫び、追撃をかけるが、男の歩みは止まらない。
「チビか……いいな。神様がいる役割しかない世界じゃ、相応しい呼び名だ。さしずめ俺はクズって所か」
男がストレの槍を叩き落とし、無造作に剣を振った。
どうにか胸当てで受けられたが、ストレは吹っ飛び地面を転がる。
「何度でも生まれ変わるんだろう?今日から追いかけっこの始まりだ。俺の気が済むまで、殺させてくれ」
ゆっくり男が剣を振り上げる。
私の首に狙いを定めて。
抵抗のしようがない――今の私では。
能力も才もない……それだけではなく、体に気力が湧いてこないから。
男の剣につく、赤い血のせいで。
「……?」
男は首を傾げた。
剣を振り下ろしたはずなのに、私の首がついている。
そして、男の腕が吹き飛ばされたから。
「気に入ったぞ――抱いてやろう。強い我を感じる」
わき腹を押さえたタチが、片手に水の剣を伸ばし立っていた。
「タチ!!」
やっぱり……!やっぱりだ!タチが負けるわけない。
「……あんたも人外か。その傷で動ける人間いないだろ」
切り落とされた腕を拾い、何事もなかったかのようにくっつける男。
タチの回復能力をはるかに凌ぐ、凄まじい再生能力だ。
「貴様に必要なモノを教えてやろう……」
「面白い言ってみろよ?」
タチが、わき腹から流れる血を気にもせず男に駆ける。
「抱かれる覚悟だ!全てをさらけ出し、涙を流して喘げ!!」
「あんたも狂ってんな――悪いが俺は男だ。それに女なら死ぬほど抱いたさ」
バチィン!
普通の剣と違い、変化の大きな水の剣は不自然な軌道で男を襲う。
「お前程度の器量で、手に入れようとするから苦しむ!抱かれておけ!!」
「指導か?勘弁しろ。こちとら根っこから腐ってるんだ」
多少の斬り傷などお構いなしで、雑な防御をする黒衣の男。
水の剣が頬をかすめても、次の斬撃が襲う前に傷口はふさがっている。
「良いではないか!何物にも変えられぬ持ち合わせなら、誇れ!」
「その変えようのないものでオレは――!!」
バチ!バチ!
水色と黒の線が交錯する。
男のつけたばかりの右腕はまだ完全じゃないらしく、動きが鈍い。
おかげで、どうにか勝負になっているようだ。
「変わりたいなら私に抱かれろ!手っ取り早いぞ!!」
「説教してんのか、煽ってんのか、わかりにくいんだよ!」
男の動きが素早くなり、タチが押されている。
やだ。やだ……!さっきは大丈夫だったけど、もしも――万が一、あの一撃で死んでたら…私は……。
「ナナ!?」
後悔したくない。
後ろから黒衣の者に体当たりをした。今の私ができる最大の攻撃。
私を見つめるタチの顔が苦しそうに歪んでいる。
嫌だな、そんな顔でのお別れは……。
「うざってぇ。死ねよ!」
どうせ、私は生まれ変われる。
もしかしたら、またタチに会えるかもしれない。
なにより、彼女を失うのが嫌だ。
体は勝手に動いてくれて、男を離さないと決めていた。
死ぬまで、抱き着いて邪魔してやる――!!!
「タチ!お願い!倒して!!」
ブシャアア!
突然、水飛沫があがった。
血ではない、ただの水が。
男を掴んだ私の手から。
「あれ……?」
「ぐっ――いったい何が…!」
恐怖で閉じた目を開くと、男のわき腹に穴が開き、私の右手が青く光ってる。
「ナナ、いったいそれは……」
誰一人として状況がつかめていない、攻撃をした私ですら。
でも、懐かしい感じがする。
私の右手袋の内ポケットから……。
「これって――源?」
親友のくれた贈り物。
小さな青い宝石の中に隠されていたのは、神の力「源」だった。
(もしかして、ズーミちゃんが…!)
でも、そうするとズーミちゃんは大丈夫なのだろうか?色々ぐるっと回った頭の中で一つの答えが浮かぶ。
初代の水の化身は元々二体一対の存在――
そうか……この小さな源は…!
青い宝石は私の右手の中に溶け込んで、その輝きが薄れていく。
源の力。神である私が、化身達に分け与えた力。
私の体内に戻った源は、渡した時とは違う青い色身を帯びていた。
水の化身に同化し長い年月を共にした結果だろう。
テラロックとペタロック。そしてズーミへと受け継がれた源の力。
その一つが今私の元へ――
「……えい!」
力を込めて拳を握ってみる。
手が水の球に包まれ覆われた。
「なんだかわからんが、ズーミのおかげのようだな」
見覚えのある水の力を見て、タチが合点し黒衣の者に向き直る。
「抱かれるか。死ぬか。選ばせてやろう」
相変わらずの、変態的な決め台詞で啖呵を切るタチ。
さっきまでの緊迫感はどこへやら。
私の気持ちなんて置いてけぼりな口上だけど、それでも嬉しい。
タチにはずっとこうあって欲しいもん。
「そうよ!タチは強いんだからね!」
「あの――私もいますよ、チビ様……!」
泥だらけで、涙目のストレも加わり、三人で男を取り囲む。
「性か。死か。選べ」
「選べ!!」
タチが格好よく、自分勝手な言葉を重ね、それに私も続いた。
つい、勢いで。
「貴様の目的はなんだ!!」
私を護るように立つストレが、黒衣の男に槍を向けた。
敵わないとわかっていても、彼女は義理を通す。
今までの生き様を貫いて。
「……こっちが聞きたいね。恵まれたとしても、オレに価値なんてない――そう痛感させるためか?そんなのあんまりだろ?」
私たちじゃなく、天に向かって男は答えた。
「神の命だ。あんたを殺すのはオレがふさわしい、何度だって何度だって殺してやる。時の化身」
「時の……化身?」
剣で指し示されたのは私。
なんのことだ?時の化身?そんな化身、聞いたことが無い。
だけど彼がイトラの命令で動いているのは間違いなさそうだ。
「恨みや憎しみでは、救いはおとずれんぞ!」
ストレが槍を突き出し、突進する。
「つごうのいいもん全部手に入れたって、救われなかったんだ。それでも前を向けってか?」
男は攻撃を造作もなく受け流し、払いのける。
「逃げてください!チビ様!」
ストレは叫び、追撃をかけるが、男の歩みは止まらない。
「チビか……いいな。神様がいる役割しかない世界じゃ、相応しい呼び名だ。さしずめ俺はクズって所か」
男がストレの槍を叩き落とし、無造作に剣を振った。
どうにか胸当てで受けられたが、ストレは吹っ飛び地面を転がる。
「何度でも生まれ変わるんだろう?今日から追いかけっこの始まりだ。俺の気が済むまで、殺させてくれ」
ゆっくり男が剣を振り上げる。
私の首に狙いを定めて。
抵抗のしようがない――今の私では。
能力も才もない……それだけではなく、体に気力が湧いてこないから。
男の剣につく、赤い血のせいで。
「……?」
男は首を傾げた。
剣を振り下ろしたはずなのに、私の首がついている。
そして、男の腕が吹き飛ばされたから。
「気に入ったぞ――抱いてやろう。強い我を感じる」
わき腹を押さえたタチが、片手に水の剣を伸ばし立っていた。
「タチ!!」
やっぱり……!やっぱりだ!タチが負けるわけない。
「……あんたも人外か。その傷で動ける人間いないだろ」
切り落とされた腕を拾い、何事もなかったかのようにくっつける男。
タチの回復能力をはるかに凌ぐ、凄まじい再生能力だ。
「貴様に必要なモノを教えてやろう……」
「面白い言ってみろよ?」
タチが、わき腹から流れる血を気にもせず男に駆ける。
「抱かれる覚悟だ!全てをさらけ出し、涙を流して喘げ!!」
「あんたも狂ってんな――悪いが俺は男だ。それに女なら死ぬほど抱いたさ」
バチィン!
普通の剣と違い、変化の大きな水の剣は不自然な軌道で男を襲う。
「お前程度の器量で、手に入れようとするから苦しむ!抱かれておけ!!」
「指導か?勘弁しろ。こちとら根っこから腐ってるんだ」
多少の斬り傷などお構いなしで、雑な防御をする黒衣の男。
水の剣が頬をかすめても、次の斬撃が襲う前に傷口はふさがっている。
「良いではないか!何物にも変えられぬ持ち合わせなら、誇れ!」
「その変えようのないものでオレは――!!」
バチ!バチ!
水色と黒の線が交錯する。
男のつけたばかりの右腕はまだ完全じゃないらしく、動きが鈍い。
おかげで、どうにか勝負になっているようだ。
「変わりたいなら私に抱かれろ!手っ取り早いぞ!!」
「説教してんのか、煽ってんのか、わかりにくいんだよ!」
男の動きが素早くなり、タチが押されている。
やだ。やだ……!さっきは大丈夫だったけど、もしも――万が一、あの一撃で死んでたら…私は……。
「ナナ!?」
後悔したくない。
後ろから黒衣の者に体当たりをした。今の私ができる最大の攻撃。
私を見つめるタチの顔が苦しそうに歪んでいる。
嫌だな、そんな顔でのお別れは……。
「うざってぇ。死ねよ!」
どうせ、私は生まれ変われる。
もしかしたら、またタチに会えるかもしれない。
なにより、彼女を失うのが嫌だ。
体は勝手に動いてくれて、男を離さないと決めていた。
死ぬまで、抱き着いて邪魔してやる――!!!
「タチ!お願い!倒して!!」
ブシャアア!
突然、水飛沫があがった。
血ではない、ただの水が。
男を掴んだ私の手から。
「あれ……?」
「ぐっ――いったい何が…!」
恐怖で閉じた目を開くと、男のわき腹に穴が開き、私の右手が青く光ってる。
「ナナ、いったいそれは……」
誰一人として状況がつかめていない、攻撃をした私ですら。
でも、懐かしい感じがする。
私の右手袋の内ポケットから……。
「これって――源?」
親友のくれた贈り物。
小さな青い宝石の中に隠されていたのは、神の力「源」だった。
(もしかして、ズーミちゃんが…!)
でも、そうするとズーミちゃんは大丈夫なのだろうか?色々ぐるっと回った頭の中で一つの答えが浮かぶ。
初代の水の化身は元々二体一対の存在――
そうか……この小さな源は…!
青い宝石は私の右手の中に溶け込んで、その輝きが薄れていく。
源の力。神である私が、化身達に分け与えた力。
私の体内に戻った源は、渡した時とは違う青い色身を帯びていた。
水の化身に同化し長い年月を共にした結果だろう。
テラロックとペタロック。そしてズーミへと受け継がれた源の力。
その一つが今私の元へ――
「……えい!」
力を込めて拳を握ってみる。
手が水の球に包まれ覆われた。
「なんだかわからんが、ズーミのおかげのようだな」
見覚えのある水の力を見て、タチが合点し黒衣の者に向き直る。
「抱かれるか。死ぬか。選ばせてやろう」
相変わらずの、変態的な決め台詞で啖呵を切るタチ。
さっきまでの緊迫感はどこへやら。
私の気持ちなんて置いてけぼりな口上だけど、それでも嬉しい。
タチにはずっとこうあって欲しいもん。
「そうよ!タチは強いんだからね!」
「あの――私もいますよ、チビ様……!」
泥だらけで、涙目のストレも加わり、三人で男を取り囲む。
「性か。死か。選べ」
「選べ!!」
タチが格好よく、自分勝手な言葉を重ね、それに私も続いた。
つい、勢いで。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。
window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。
式の大事な場面で何が起こったのか?
二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。
王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。
「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」
幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
まほカン
jukaito
ファンタジー
ごく普通の女子中学生だった結城かなみはある日両親から借金を押し付けられた黒服の男にさらわれてしまう。一億もの借金を返済するためにかなみが選ばされた道は、魔法少女となって会社で働いていくことだった。
今日もかなみは愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミとなって悪の秘密結社と戦うのであった!新感覚マジカルアクションノベル!
※基本1話完結なのでアニメを見る感覚で読めると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる