かみてんせい

あゆみのり

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転生者

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 俺が目覚めた時、そこは星の無い宇宙のような場所だった。

「こちらの不手際だ」
 神と名乗る男がしゃべった時、最初に思ったのは「マジかよ!」

 神様なんて存在、今時誰が信じる?
 いや、世界のどっかでは今でも信じてるやつが沢山いるのは知ってるし、ウチの地域にだって教会がある。
 でも俺にとって、身近なもんじゃない。

 神のような曲、神のような絵、神のような強さ。 
 「神」なんて「とっても凄い」の代わりの言葉だ。

 日常で口にしようもんなら、ただの変わり者。
 壺でも売りつけられるか、一家ぐるみで勧誘されるのか「うさんくさい」の代わりが「神様」だ。

 でも、望むべからず。
 目の前に現れれば話は別。

 食いつなぐためだけの生活を30年。家に帰っても女房も子供も存在しない。
 楽しみと言えば酒に酔って、歪んでいる時だけ。
 ただすり減らしてくだけの毎日じゃ「なんのタメに……」とつぶやく回数が増えて当然だろう。

 いつ死んでもかまわない。
 そんな思いで日々を過ごしてれば、不意の事故すら自分の責任だと因果に感じちまう。

「あんたが……神様?」
 別に、文句もへったくれもない。これは夢か幻か。
「えぇ。名はイトラ。あなたを選び奇跡を与えるものです」

 そいつが言うには、今世界は無数に存在し、増え続けているそうだ。
 絶対の者を失ったつじつま合わせとして。

 何をいってるのかさっぱりだが、どうでもいい。
 自分の身に起こっている事態に、興奮していた。久しぶりだ。この感覚。

 昔、小さい頃、明日発売のゲームを、今か今かと待っているような感覚。
 
 夢なら覚めて欲しくはない。覚めるにしても、美味しい所までいってからが良い。
 こんなつまらない導入部分で起きた日には、虚しさで二度寝もできやしない。
 
 どうか、このまま――。

 切実な思いだった。じゃなきゃ痛みもないまま死なせてくれればそれでも良い。
 
 
 幸運なことに、俺が夢からさめることはなかった。
 
 新しい世界で、新しい人生を授かったオレは、まさに奇跡を体感した。
 神様バンザイ。

 圧倒的な身体能力。凄まじい魔力。なにより整った顔。
 十歳は若返り、生まれ変わったオレは喜びに満ちていた。
 
 こんなに恵まれていいのか?

「人生ってこんなにも明るく感じるものだったのか……」
 自然と口角があがるってもんだ。

「まず、することと言えば女だよな」
 奴隷市に寄り、金に糸目をつけず厳選を始める。
 若くて、綺麗で、胸の大きな女が良い。
 
 大枚たいまいはたいて手に入れた女は、オレに感謝してなつく予定だったが、そう上手くはいかなかった。
 
 おどおど怯えるばかりで、会話が進まない。
 どんなに変わってもオレはオレ。会話の弾ませ方なんて知らないし、誰かと一緒にいるだけでも難易度が高い。
 始めは遊女でも手に入れとくべきだったか?

 ついでに、会話能力も与えてくれれば良かったのに……。そうも思ったが、そこまで弄られたらオレじゃない。
 明るく、爽やかで、前向き……そんな内面持ち合わせてたら前の人生だってもうちょっとマシだったはずだ。

 買ったはいいが、顔色伺うだけの奴隷に、いい加減腹が立つ。
 体に触ろうとするとすぐ泣くし、ヤル気も起きない。

「もういい。次だ次」
 娼婦小屋で女を買ってみる。
 わかっていた通り。楽しいのは初めだけ。虚しさが胸に穴をあける。

 経験さえできれば、自信がつくと思ったのだが、ムカツキばっかり増え続けた。

「こんなことに、いくら払ってんだ……」
 金がいくらでも沸く小袋を持っていても、もったいないもんはもったいない。
 地続きの俺の記憶が「稼ぐのだって楽じゃねーんだぞ!」っと囁くのだ。

 ただただ過ごすタメに働いた日々なんて忘れちまいたいが、忘れちまったら有難みも消える。
 そしてなにより、俺じゃなくなる。

 金を持っても、顔を持っても、力を持っても、「俺」な自分――腹が立つ。

 その日の夜。イラつき浮かないオレにそっと奴隷が寄り添ってきた。
 ――なめられてんのか?
 
 でも悪い気はしなかった。
 一人で寝るのは寂しい。それは十分知っていたから。

「お前は……オレを選んでくれるか?神様に選ばれた男だぞ?」
「…」 
 こんなに恵まれてまで、俺は何を……自慢しているのか。
 自分の自信の無さが嫌になる。

 明日からちゃんと変わろう。新しいオレとして。
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