かみてんせい

あゆみのり

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二人乗り。

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「頼む!毎日おじいさんの愚痴を聞くだけの日々はもう嫌なんだ……!」
 貸し馬にくらをつけ、出発準備を始めるタチにストレが泣きついていた。
 この人、私が会ってから顔に涙を浮かべている時間の方が多い気がする。

「警備兵として働いているのだろう?」
 ストレさんは私たちの後ろをずっとついて回り、現状と事情は一人ぶつぶつしゃべっているので知ってしまった。

「のどかなのだ……!この槍も洗濯を干すのにしか使っていない…!」
 可哀想という言葉しか浮かんでこない。

「タチ……そのテッドの街って所までは連れて行ってあげない?」
 三時間ほど馬を走らせた所にある街、そこが今の私たちの目的地だ。
 山羊乳の料理を食べるために!

「それで私の好感度があがるなら構わんが」
「あぁ…!可愛らしいおチビさん…!あなたは女神だ!!」
 両手を握られ、感謝される。
 はい。確かに私神様です。

「しかし、馬は二匹しか借りてない――意味はわかるなナナ?」
「?」
 満面の笑顔のタチ。意図が読めない。

「相乗りだ」
「! もう一頭借りればいいでしょ!?」
「だめだ、手続きで時間をとる余裕はない。それともテッドをあきらめて今日はココに泊まるとするか?」
「うっぐ…!」
 確かに、三時間の移動ともなると着くのは夕方。
 お腹の空き具合的にも、宿がとれるかも心配だ。

「港泊まりはやめよう…!当然私が相乗りで構わない。チビちゃんとでも、この際タチとでも――」
「だまれ。ナナは私と相乗りだ」
 港脱出の日がずれるのを恐れたストレ。
 だが必死の提案は、もちろん一蹴される。
 浮かんだ涙は、港街への絶望か、タチの圧からきた恐怖か……。

 大丈夫だよストレさん。タチはここに居座るつもりなんてサラサラないから。

「うぐぐ…」
「良いのか?山羊乳を諦めて?」
 ずるいぞ……色んな種類の料理を教えておいて、それを人質に取るとは…!

 答えは分かっている。
 既に何度も私のお腹は鳴き声を上げている、だけど、ご褒美が予定されていたから我慢できていたのだ。

「……一緒に乗る」
「素晴らしい!」
 グッと親指を立てるタチ。
 この状況がよくわからず、頭に疑問符を浮かべるストレ。
 覚悟を決めた私。

 大きな胸を後ろから押し当てる変態と。
 たまに体をまさぐられる神。
 なぜか一人馬に乗る事となった物乞いは移動を始めた。

 三時間、おさわりされながら。



   *    *    *    *    *



「ん~!!美味しい!!」
 少し多めに口にしてしまったパンを噛み締め、ありがたく味わう。 

 テッドの街に着いたのはギリギリ夕方。
 手早く馬を返し、戻し金で宿を借りた。

「懐かしい味も、悪くない」
 鶏肉の上にたっぷりと山羊チーズが乗った肉にかぶり付くタチ。
 丸机を三人囲んで、お食事中。

「ストレさんも食べなよ!」
 山羊チーズをのせこんがり焼かれた硬いパン。
 上には輪切りのトマトにお肉が少々……
 そんな私とお揃いの食事が進んでない。

「わ…私も食べていいのか?」
「もちろん。みんなで食べよ!」
 席についても、かしこまったまま一向に注文が進まなかったストレさん。
 私の限界 (お腹の)が来て、勝手に同じものを二つ頼んだのだ。

「ありがとう…!ありがとう…!優しいチビちゃんだ…!」
 涙をこぼして、食を進めるストレさん。
 もう基本の顔が泣き顔なのだろう。




「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」
 減り切ったお腹が幸福で満たされていく。
「それはまだ、ナナが色を知らないからだ」
 はじまるいつも通りの会話。
 食と性。決して譲らない二人の論客。

「チビちゃんはどうしてタチと?」
 彼女にとっては当然の疑問だろう。
 頬にトマトの欠片をつけて不思議そうに私を見つめる。

「えっと……護衛かな?」
 ちゃんと説明するのが面倒くさくて、簡潔にまとめる。
 私は、今、ご飯を食べているのです。

「頼む相手を間違えすぎだろう……?」
 それは…おっしゃる通りなんですが、色々事情がありまして…。
 神とか神殺しとか……。

「私がナナを気に入ったのだ。早く抱きたい。やっとキスまでいった」
 もぐもぐ。お口にお肉を入れたままおしゃべりするタチ。

「はいはい。お行儀悪いよ。口の中空にしてからしゃべって」
 ストレは私たち二人の顔をキョロキョロ見比べ、何かに気付いて目を見開く。

「まさか…!?恋仲か!?」
「違います!」
「あと少しという所だな」
 ただの仲良しの友達ぐらいなはずだ。――他人から見ると違って見えるのだろうか?
 せっかくの至福の時間に邪魔が入る。

「どれ位一緒にいるのだ?」
「もう1ヶ月ちょっとか?わからんが」
 今を生きる女タチは、経過とか過去とか興味がなさそうだ。
 気になって仕方が無いようで、食事の手を止め質問を続けるストレさん。

「タチと1ヶ月だと!?」
 何ですか、その表情?口から火でも噴きましたか私?
 気まずい視線を受けながらも、タチの差し出したお肉を一つ頂く私。
 いつもの、交換っこ。
 
 ズーミちゃんが居ればもう一食多く味わえたのに。

「チビちゃん…君は何者だ……?」
 驚くべき正体は隠してるけど、彼女が気にしているのはそこじゃない。
 私が神だと知っても、今より動転してくれない可能性すらある。

「この話は終わり!それ以上続けるならご飯代を頂きます」
「ぬぐっ…!わかったチビちゃん」
 私は美味しくお食事したいのだ。
 みんなで会話は良いけど、話題がよろしくない。

「そういえば、チビちゃんチビちゃんって、ストレさんも殆ど変わらないですよね?」
 タチにお返しのパンを一切れ渡し、気になっていた事に突っ込む。
 私の身長は150ちょっと。
 彼女も2,3センチ高い程度で、タチより顔半分は低いのに、チビ呼びはないだろう。

「だが、私の方が確かに高い。もう確かめた」
 いつの間に?
 背比べをした記憶はないが、たぶん私の方が低いだろう。
 別に言い返す気はない。

「ほうっておけ、戦士として小柄な事を引け目を感じているだけだ」
「そ、そんなこと無い!!」
 なるほど。
 それで、ちょっとばかり低い私をチビチビ呼んでいるというわけか。

「戦闘も長い武器で上手い事補っているだろう?」
「違う!槍が格好いいからだ!」
 三人でわちゃわちゃ食事をしていると、青い友人の事を思い出す。
 もうアルケー湖に戻っているだろうか?
 
 右手袋の内ポケットにしまった、贈られた青い宝石を取り出して眺める。
 ――元気にしてるといいな。ズーミちゃん。

 ……ごめん。
 ちょっとチーズついちゃった。後でちゃんと洗うから許してね。
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