かみてんせい

あゆみのり

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タコの日。

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 相変わらず私たちはピチョンの港を満喫していた――やらなきゃならない事を差し置いて…。

「本当にすまぬ…何もできずに……」
 宿屋の一室。
 頭にタコのお面をかぶったズーミちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。

 今日は船が出る前日――つまりズミナナ同盟最後の日。

「ズーミちゃんがあやまることなんてなんにもないよ!剣は奪えなかったけど、イトラより私を信じてくれたじゃない」
 同じくタコのお面をかぶった私は、ズーミちゃんに「タコタコ焼き」を一つ差し出す。

 パン生地の中に大きなタコの足が一粒入った、一口サイズの焼きパンだ。

 昨日今日とピチョンは海祭り。
 ズーミちゃんの家、アルケー湖みたいに色んな出店が広がっていた。

 私も楽しんでるけど、特にズーミちゃんはお祭りが大好きみたいで、ここ二日子供みたいにはしゃいで楽しんでいる。 

 タチは年中一人お祭り状態だから、特に様子は変わらない。

「わらわの地にいる間に、どうにかなればよかったのじゃが……」
 光の化身の命に背き、その上なお私の事を心配してくれてる優しいスライムの友達。
 短い間の付き合いとはいえ、私はすっかりズーミちゃんのことを好きになっていた。

「でも、とっても楽しかったよ」
 二人と出会ってから今日までを思い出す。
 ろくでもない記憶も沢山あるけど、ここ数日の楽しい毎日が良い方向へと補正をかける。
 それもまた、よかったと。

「楽しかったのじゃ……けど、神様はそれでよろしいのかの?」
「ん~。いいんじゃないかな?」
 ズーミちゃんが神様にとっても敬意を抱いてくれてるのはわかる。
 けど、申し訳ないが今の私は一応人間。たいしたもんじゃない。

「なにがどうなってるのか、今の私じゃ全然わからないし……楽しければ良いってことで!」
「良いのかの?」
「例えばね。ズーミちゃんのそれ、意識して動かしてる?」
 ズーミちゃんのお腹の中にある小さな気泡を指さす私。
 彼女の青色の体にはキラキラと光る光の粒がいくつもある。

「してないの……勝手に動いとるが…」
「私の体もそう。うごけーって思ってないのに、心臓は寝ても覚めても脈打ってくれてるし、息しよう!って意識しなくても呼吸してるし」
「うむ?」
「自分の体一つとっても統制できてないし、制御してる感ないもん。今の私じゃ「光の化身」が何を考えているのか?とか、なんで「聖地」が変わったのか?なんて無理無理、理解不能」
 狭く短い世界。
 それこそを望んで人になったのだけど、全体を把握し理解しようと思うと限界がある。

 なにせただの食いしん坊なもので。

「だから、聖地に戻るまでは楽しむ事にしたの。最後の人生として」
 剣を奪おうとして失敗し、落ち込む。
 イトラの行動に疑問を持ち、不安になる。

 そんな時間の使い方はもったいないと思ったのだ。
 ズーミちゃんやタチと過ごす楽しい毎日を味わうべきだと。

 どうせ神に戻ったら、今感じていることなど拡散するのだろうから。

「……わかったのじゃ」
 小さく笑顔をみせ、ズーミちゃんが右手を差し出した。
 その手のひらには綺麗な水色の宝石みたいなものが、ちょこんと置いてある。

「これは?」
「わらわからの贈り物じゃ。無事聖地まで、楽しく過ごせるようにの」
 ズーミちゃんの体と同じ色にキラキラきらめく宝石だ。
 人差し指と親指でつまんでロウソクの光に見透かす。

 とらえようのない深い青が、私の視線を飲み込む――
 懐かしいような、不思議な感覚。

「綺麗……ありがとう」
 神と化身。二人の微妙な関係は、今や友と呼べる関係になっていた。
 一緒に寝て、一緒に食べて、たくさん話すことによって。

 少なくとも私は、そう思っている。
 私の大切な大親友。ズーミちゃん。

「おーい。あけてくれ」
 ドンドンと部屋の扉を叩く、太い音がした。
 声の主はタチ。どうやら軽く体当たり?しているようだ。

 他人がいるとまずいので、ズーミちゃんはベッドの脇に身を隠し、私が扉を開く。

「早かったね――ってなにそれ?」
 扉の向こうには、真っ赤なタコのぬいぐるみ。
 しかもタチが見えないほど大きい。

「喧嘩小屋で勝った商品だ。いい運動になった」
 また物騒な所に……。
 私の横を抜け、ぬいぐるみをベッドに放り投げるタチ。
 
むぎゅ。
 
「なにするんじゃ!」
 投げられたタコぬいぐるみは、ベッドでひと跳ねし、潜んでいたズーミちゃんを押しつぶした。

「それはお前にだ。今日でお別れだからな」
「むぅ……わらわにか…?」
 こんなもの――と続けて言うが、ズーミちゃんが喜んでいるのは表情と体内のコポコポでわかる。




「元は敵だったがな、この旅で友となった。受け取れ」
 タチが親指を立て、ズーミちゃんにウインクをする。
 気の良い奴だ――変態だけど。

「あぁ~!私もなにか用意しとけばよかった…!タコ!タコもう一粒だべる?」
「いらんいらん!…一緒に過ごした日々が贈り物じゃ」
 恥ずかしそうに、貰ったタコぬいぐるみを抱きしめ顔を埋めるズーミちゃん。

 可愛すぎる――ッ!!小さい体でそれは反則だ…!!友よ!

「ズーミちゃん!」
 別れを惜しみつつ、愛しい友の頭を撫でる。
 勢いあまって、タコの頭も撫でてしまう、なんか勢いで。
 

「やめい!というかタチ!お主その格好で戦ったのか?」
「ん?」
 二本の剣を壁に立てかけ、ブーツを脱ぐタチ。
 その頭には、私たちとおそろいのタコお面。

「友情の証として、かぶって戦ったぞ?呼び名はタコ女だ。下着はもちろんえっちなヤツを着てな!」
 朝から夕まで三人一緒に祭りを練り歩き、お面はその時ノリで買ったのだ。
 日が落ちる頃には「体を動かしたい」と、いつも通りタチは単独行動していた。


「かぶって戦ったの?」
 私はズーミちゃんの横に座り、二人仲良くタコお面をかぶる。
 タチがズボンを脱いで、エッチな下着を見せてくるがもちろん触れない。

「当然だ。友情を見せびらかしてきたぞ、変態的な強さのタコ女とみな驚いていた」
 ジャラリ――と、革袋が机に置かれた。
 お金が沢山入っている音がする。

「友情じゃなく、変態アピールにしかなっとらんだろう……」
 タコぬいぐるみの口をツンツン突くズーミちゃん。

「良かったね。可愛いの貰って――でも、三人でいるの今日が最後なんだね」
 タコを抱くズーミちゃんをもう一度ぎゅっと抱きしめる。
 改めて実感してしまった。今日が三人でいる最後の夜なんだって。

「やめい!やめい!泣いてしまう……!」
 ぷるぷるふるえるズーミちゃん。
 お面の奥には、今にも泣きそうな顔が見え隠れしている。
 そんな顔みせられたら、私まで貰いそうになっちゃう。

「よし!最後は友として裸で寝るか!なッ!!なッ!!!」
 いつの間にやら全裸で仁王立ちのタチ。
 いつも通り隠すつもりが無い…というより、引き締まった体を見せびらかしてくる。
 
 
「しません!今日は私と隣で寝よ!おそろいのタコお面かぶってさ!」
「それもそれで間抜けじゃろう」
 同意を求める私に、タコぬいぐるみの足でポコリと一撃入れてくるズーミちゃん。

「わかった!全裸でタコをかぶろう!より友情が深まる…!!」
 妙な提案をするタチ。

「深まらない!どこの誰がそんな事で深めるのよ!」
「誰もやらんから、こそだろう!私たち3人だけの全裸タコ寝だ!!!」
「まぁ、わらわは元から全裸だから、別に構わんがの……」
「ズーミちゃん!?」

 お別れの夜。最後の時までいつも通り。
 この時間――この時間だ。
 この時が杞憂きゆうや、あらがいより、楽しむ事を大切にしようと思わせた。

 ――結局最後の夜は、全裸二人と寝間着の私。
 仲良く三人タコをかぶって寝た。最強のタチの腕枕で。


 起きたら、なぜか、私も全裸タコだったけど……。
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