かみてんせい

あゆみのり

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寝る!

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 オインの街に着いて半日。
 まずは宿の部屋とりをして、消耗品の補充と、馬車席の予約であっという間に時が過ぎた。
 宿に戻るころには、もう夜中。
 街の中だから真っ暗ではないけど、歩き旅していた時ならもう寝ている時間だ。

「明日の朝にズーミちゃんを呼んで、お昼には馬車に――」
「……わざわざ二つとらなくてもいいだろうに」
 今後の予定を確認する私の横で、荷造りをしているタチが頬を膨らませていた。
 二部屋取ったことにまだ不満みたで、ずっとブツブツ文句を言っている。
 
 いいじゃんね。今は私の部屋で一緒なんだし。
 
「タチと同じ部屋で寝るのは危ないからね。自己防衛」
 乾かした布を畳み終え、食料の整理を手伝う。
 不平たらたらだけど、ちゃんと手を動かしているタチをちょっと褒めてあげたくなる。

「金の無駄だ――いや、可愛い体の無駄使いだぞ!もったいない!口惜しい!」
「お金ならまだあるんでだいじょーぶです。ご心配どーも」

 そう、お金は多少あるのだ、前回の人生で稼いだ分が。
 前回、私は水の大陸南端、ウォタの村で調合師をやっていた。
 
 ずっと引きこもって、お肌に良い液体やら、栄養価の高い錠剤やらを調合して生活して。 
 作った品は大人気。みんなの喜ぶ姿やお礼の言葉が嬉しすぎて、ずっとずーーーーっとお家で作業していた。

 日に当たらない、運動しない毎日。結果、転生して十年たたずに不摂生で死んだ。
 
 幸い、徒歩数か月ほどの近い場所に生まれ落ちたので、その時貯めこんだお金を、今回最初に手に入れてある。
 人間の生活でお金って大事なの学んだからね!才も能も無いと特に。

「せっかく二人きりだというのに……初めてぐらいは純愛っぽくしてやれる最高の機会なのに――」
 まだブツブツと物騒な事を口づさむタチ。作業が進んでないですよ?
 最後まで荷造りを終えたら褒めてあげようと思ったのに。残念でした。

「いいでしょ。ここまで三人仲良く夜を過ごしてきたんだから」
 安眠、快眠、タチ腕枕に私とズーミちゃんはやられっぱなしだった。
 「神殺し」を奪うため色々策を打ったけど、毎回気づけばタチ枕の上……ズミナナ同盟敗北の歴史である。

「そういう和やかな幸せは私の本分ではない!刺激を!蹂躙じゅうりんを!!」
「私とズーミちゃんはすっごいタチのこと好きになったよ?枕として」
「快眠好感度があったところで、抱かせてくれないじゃないか!!」
 勢いよく立ち上がり、わなわなと震える拳を握るタチ。
 こんなやり取りも道中何度か繰り返している。ズーミちゃんが居ないのは少し寂しいけど。

「そういうのは愛する人とするの!」
「愛しているぞナナ!!大好きだ!!抱きたい!!!」
 ガシッと両肩を上から捕まれた。
 タチの体温は常に私より高く、元気も常に有り余っている。
 とても厄介だ。

「勢いは認めるけど、綿アメより軽い言葉じゃダメです」
 ちょっとタチの扱いにもなれてきた……気がする。
 あまり真剣に受け止めちゃいけないのだ。

 どうせ会う女、会う男に、同じように熱をぶつけ散らかしているんだから。
 真正面から受け止めるだけ損なのである。

「えぇーーーい!!」
 大音量と共に、床に座って荷物を詰めていた私を、タチが軽々と抱き上げた。
 俗にいう「お姫様抱っこ」だ。

「ちょっと!?なにするの!?」
「しらん!!ふて寝だ!!」
 ポンと私をベッドに投げ。タチもドカリと横に身を投げる。
 しっかりした作りのベッドが、二人分の重さで大きく弾んだ。
 当然掛け布団もお尻の下。

「ふて寝って一人でするものでしょ!?」
「嫌だ!今度はお前が枕になれ!」
 タチが横から包むように抱きついて、両腕が私の頭を、両足が私の腰を押さえつける。
 抵抗できないほど強い拘束力だが、痛くも苦しくもないのが不思議な技術だ。

 視界を埋める大きな胸から、とてもいい匂いがする。
 ちゃんと女の子だったんだね。タチ。



「まだ…明日の準備が――!」
「しらん!やらかい。ちいさい。かわいい。寝るぞ」
 とてつもなく一方的な感想をのべられた。
 私だって文句を沢山言いたいところなんだけど、言葉が口から溢れる前に――眠気がじんわりと体中に広がって……。

 疲れた体に久しぶりのふかふかベッド。
 なんでか安心感のあるタチの二の腕。
 顔に押し当てられた、けしからない胸の柔らかさと――

 だめだ…ここで負けたら――。

「愛しているぞ。」
 頭を優しく一撫でされる。
(なんで…タチがこんな撫で方を――人間め――)

 あたたかい。やわらかい。ここちよい。
 抵抗しようとする気持ちすら、私の根っこから抜け落ちていく……


「ふぁっ!!」
 目の前には、満足げにほほ笑むタチの笑顔。

 当然。窓からはお天道様がのぞいていた。
 
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