かみてんせい

あゆみのり

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そうだ、聖地にゆこう。

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 ズーミちゃんのお家で一夜を過ごし、地上へと戻る。
 水玉に乗り水面に上がる途中、湖の中からみる太陽光は水流で揺らめき、泡に反射しとっても美しかった。

 陸地に上がると、目に突き刺さる「眩しさ攻撃」に変わったけど。

「おう、ズーミ昨日はありがとな!」
 三人で歩いていると、荒れた土を整えていたおじさんがこちらに手を振る。
 つい半日前に戦場だった場所を十数人の人間がお手入れしていた。

「めげないものだ」
 タチのいう通り。もうお店を再開している所がちらほらある。
 一晩ゆっくり休んだ(タチの夜這いを回避しながら)私たちも、復興のお手伝いしようと戻ったのだが――

「お疲れ様ズーミちゃんとねーちゃん達!」
「ありがとうね~」
 兵隊さんが到着したおかげで、人手は足りているような上、ちょっとした有名人になっていた。
 それはそうか、あんな大立ち回りしてたわけだし。
 
「おぉ!魔物を倒してくれたあんちゃん!」
 どうやら、悪いモンスターを退治した一行という認識らしい。
 顔に包帯を巻いている状態のに、壊されたお店の修理をしている。

「屋根の修理か?手伝ってやるのじゃ!」
「じゃーちょっくら頼もうかな」
 ズーミちゃんが水の力を使い、おじさんを支えるように高所へ――。

「って。正体ばらしたの!?」
 そういえば、先ほどから掛けられる声も変だった。
 私とタチはじょーちゃんやねーちゃんなのに、ズーミちゃんは名前で呼ばれている。

 そもそもズーミちゃん。変装もせず素っ裸?で行動してるし。

「というかとっくにバレとったみたいじゃ」
 気にする風でもなくおじさんの補助を続ける。ズーミちゃん。

「変なスライムだと思ってたんだよ。なんでか服着て、何度もウチのもちもち買ってくんだから」
「ギルガの作るお菓子は美味しいからの」
「あたりめーだ!早く店再開して美味しいもちもち、食わせてやるからなズーミ」
 だいぶ前から気付かれてたようで……。
 私とタチが水中ですごしている間に、互いを名前で呼ぶ中になっている。
 というか、このおじさんもちもち殺しの店主さんだったのか。
 どうりでどこかで見た顔だ。


「ズーミが怖くなかったのか?」
 倒れていた旗を地面に差しながらタチが尋ねた。
 幻のもちもち殺し!の文字が風にはためく。確かに、昨日見た旗だ。

「人のフリしてまで、オレの店に並ぶやつだ、そりゃぁ~極悪にちげぇね!」
 顔覚えられるぐらい、通ってたんだろうな……。ズーミちゃん。

「わらわ、この地の化身じゃって言っておろう!」
「水の化身でも、チビっ子スライムでも構やしねぇーよ。足しげくウチに通ってくれて、魔物を倒してくれたんだからよ」
 この世界には色んな生物がいる。
 その中でも人の役に立つ馬や牛などは「家畜」、人に害を及ぼすもの総称が「魔物」だ。

「……いつも、おまけつけてもらったしの」
「お得意様には、ちゃんとサービスしねーとな!……なんだズーミ泣いてんのか?」
「ないとらん!!ないとらんもん!ただ――ちゃんと、戦ってよかったなって……!」
 やりとりをしながらも、みんなで屋台を組み立てていく。
 二人の会話を邪魔しないように聞いているが、微笑ましい親子の日曜大工だ。
 
 胸がぽかぽかしてしまう。
 
「どうやら、昨日の時点で能力を使ったようだな」
 タチの指さす先には、昨日の戦闘で修復不可能なほど破壊され、瓦礫となった残骸が山となって積まれていた。
 
 確かに、人間の力では一晩で運べる量じゃない。
 だいぶ小さな木片から、大きな石の柱まで邪魔にならないよう一か所に集められている。
  
 きっとズーミちゃんが、水でまとめて運んだのだ。
 その証拠に、水に濡れ濃くなった土痕が残されていた。
 まるでお片付けの経路を教えるかのように。

 既にバレていたので、全力で手伝ったのだろう――それがみんなのズーミちゃん呼びの理由か。


「よし。とりあえず今できるコトはこんなもんだ」
 屋根の布を張り直したおっちゃんが、ズーミちゃんの水の玉に乗り降りてきた。
 顔半分を覆う包帯から、少し赤色が滲んできてる。

「……ほんとお騒がせしました。ごめんなさい」
 タチやズーミとは違い、私は謝らなくちゃならない。
 だって、土の化身の行動は私――神様を思ってのコトだろうから。

「なんでじょーちゃんに謝られるんだ?」
 他の三人にわかるわけがない。どうしたらいいだろう?実は私は神で――と説明するべきなんだろうか。
 たぶんズーミちゃんなら信じてくれる。私が神だって――でも……。

「お主。人の身ながら源に触れたり、なにやら隠し事もあるようじゃが……良くやっとったよ」
「……」
 私には貰う資格なんてない、優しい言葉が胸に刺さる。
 苦みを感じ、苦い顔をし、苦々しく自分を思う……ただ佇む私の腰が抱き寄せられた。

「ナナ。私は今お前が好きだ。何か知らんが気に病むな」
 もちろんタチだ。
 出会った当初から彼女はずっと上からだった、まるで神様みたいに偉そうに。
 でも偉そうに振舞うだけの行動をちゃんとしている。
 私と違って――。


「決めた」
 戻ろう。神様に。
 今の私ではなにもできないし、なにも見えない。
 弱いし、情けないし、申し訳ない。
  
 だから向かおう。色々忘れちゃう私だけど、何度生まれ変わっても頭の片隅にある場所に。 
  
 約束の地パンテオン。
 私が人として生まれ落ちた、地上で天に最も近い場所。

 そこに戻れば私は神に戻れる。私の聖地。
 六百年ほどの人生。決意を胸にこれで終わりにする。
 もう十分人間を楽しんだ。

「何を決めたんだ?」
「私パンテオンに向かう!」
 タチの顔を真っすぐとらえて答える。
 目的を決めたことで、少しモヤモヤが晴れた気がした。

「パンテオン……?パンテ教だろう?」
「聖地の名前がパンテオン!空中に浮かぶ約束の地」
 神殺しの女が、聖地の名前を知らないとは……。
 人々が私を想い、信仰の心が集う場所。

 私が地上に降りた、繋がりの地なのに。

「空中に浮かぶ……?地上の中心「ケサ」が聖地の場所だろう?」
 ……?地上の中心??

「確か空中に浮かぶなんたらは、古いほうの聖地じゃな」
 我が眷属、水の化身まで不勉強な事を。
 そんなだから、この辺りは神を信じる者が少ないわけか!

「俺の親戚もパンテ教でな、一人知り合いがケサに向かったよ。もう十年前か……生きてると良いが」
 もちもち殺しのおじさんまで……。

「みなさん。神と言えば神ですよね?」
「基本、パンテ教の神をさすだろうな」
 タチの答えとおじさんのうなずき。
 当然といった態度のズーミちゃんにちょっと安心する。

「パンテの聖地といえば?」
「ケサだろう。私は最終的にそこへ向かうつもりだぞ。神を殺しに」
 即答のタチ。神様とか興味ないからなーというおじさん。
 ……あれ?

「四百年ちょっとまえじゃったかのう……お引越しなされたはずじゃよ?わらわが引き継ぐより前じゃから、詳しくは知らんけど」
 なんですと!?
 神代理――光の化身イトラ!私の知らないうちに何かやってません?!
 えも言われぬ不安に、背筋が凍る。



 ――ただそこにあった。
 たぶん時間で計るなら百三十億年まえぐらい。そう思った。
 
 寂しくなって、イトラを生んだのが四十億年前。
 ともない影の化身ヤウも生まれた。彼は魔物を産み、悪魔と名乗っている。
 
 イトラとヤウが生まれたことにより、天ができ地が広がる。

 三十五億年前ぐらいに地水火風の化身が生まれ。
 地上を豊かに変化させる。四人それぞれ好きに勝手に。
 
 二十万年前ぐらいに人々が私に興味を持ち、二千年前に聖地を作ってくれた。
 
 私を想い。私に願い。
 だから私はここに居る。
 
 「聖地パンテオン」が人と神をつなぐ門となり私はやがて受肉した……。
 

 たった。たった。六百年ほど遊んでいるうちに……!

 短い人の生。
 ほんと、人の感覚じゃ何が起こっているのかさっぱりわからない。
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