かみてんせい

あゆみのり

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フレー!フレー!

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 けが人を救出していた兵士さんのところまでおじちゃんを運び、ズーミちゃんのところに戻る。
「ズーミちゃん!なんでタチに加勢しないの!」
 そう、ズーミちゃんもずっとタチとダッドの戦いをただ見ていた。
 凄くもどかしそうに。
 
「じゃって…わらわは化身じゃし……」
「それは、――それはそうかもだけど!」
「わらわは無為に人間を攻撃したりせん……せんけど、人と化身どちらにつくべきかと言うとの……」
 確かに、むしろ傍観してくれているだけでもありがたい関係性だった。
 私の視座がおかしいだけなのかもしれない、完全に人間としてコトを見ていた。

 神殺しを目論む女と土の化身の対決。
 頭で考えれば、どちらにつくべきかは明白だ。

「……わかった!なら被害が広がらないよう、あっちで守ってあげて!」
「……」
 それでも、今の私はただの人。
 能力も才能もないナナの私には、どうしてもダッドを応援する気にはなれない。

「動けない怪我人が集まってるから、とばっちりとか、崩落とか怖いだろうから!」
「それなら――土の化身に敵対してるわけじゃないしの……」
「そう!自分の場所を守ってるだけ!」
 釈然としない様子だが、小さくうなずく水の化身。
 逃げ惑う人を見て、何かしたいという気持ちがあったのだろう。
 私も同じだからよくわかる。

「ありがと!それじゃよろしくね!」
「まて!ナナお主はどこに行く!」
「応援!一人じゃ元気でないだろうから!」
 私は神様。人に元気づけてもらってばかりじゃ、面目が立たない。
 雑に頭をなで、勇気づけてくれたタチが言っていた。

(できることを……)

 貰いっぱなしじゃ、我慢ならない。
 戦う役には立てないだろうけど、せめて応援しに行こう。一人で化身に立ち向かう変態神殺しを。



   *     *     *



ひゅぱ!ひゅぱ!
 水の斬撃がきらめき、土の塊が舞い落ちる。

(さすがに――疲労がたまってきたな……)
 
 悪魔と契約し、尋常ならざる体力を得ているとはいえ、限度がある。
 相手は化身。自分の何倍もある土の塊を相手に、終わりの見えぬ戦闘を繰り広げているのだ――しかも三体同時に。

(もともとたくさん性交するために得た力だからな……。乱交なら大歓迎なのだが――)

「土塊相手ではな!」
 余計な思いが頭に通るのは、よくない傾向だ。
 ただただ肉体の赴《おもむ》くままに――戦闘も性交もそれが一番調子よくコトが進む。

 ダッドの攻撃はただ腕を振っているだけ、パターンも多くはない。
 だが質量があり、私と違い勢いは衰えない。

 それに比べこっちの剣筋はヨレ、回避行動も危うくなってきた。

(こちらに有利な要素が多少欲しい所だな)
 弱音ではない。まだまだ戦える。
 だが、少しぐらい味付けが変わってもいい頃だろう。同じことの繰り返しに食傷気味だ。

カツン!

 何処からか飛んできた石ころがダッドの体にぶつかった。
 ダメージはもちろんないが、ほんの少しダッドの意識がそれたのがわかる。

(一撃入れれるな)
 ほんの少しの味変更で、一撃多く叩き込んでやれた。
 せっかく対峙しているのだ、ちゃんと隙はついてやらないと申し訳ない。

「タチー!がんばれー!」
 目で確認する余裕はないが、可愛い援軍が到着したようだ。

 なぜ逃げてない!と脳が着火しかけたが、ここは後から沸き起こった喜びを胸いっぱいに味わおう。
 その方が得だ。

「よく来たな!だがあまり前に出るなよ!」
 だが、少しまずい。

 万一私がボコられてもいいが、ナナをボコさせるわけいはいかない。
 ナナを食べるのは私だ。
 
 こんな退屈で、野暮ったい土塊より絶対に私の方が美味しく頂ける。

(億が一にも負けられなくなってしまったな)

「うん!えっとズーミちゃんは……大人の事情で助太刀できないってー!」
 残念。
 戦力として期待できそうな、唯一の手札だったのだが……まぁ仕方がない。
 配られたカードで戦うのも、また味わい方の一つだ。

「そうか!あとで体に教え込まんとな!抱いて!!」
 会話は体力を使うし、集中力も少しばかりそれるが、そんな些細な事以上に気力が沸く。
 勝つために大事なのは気力の方に決まっている。
  
 へたくそなコントロールで飛ぶ小石と可愛い声援。
 少し変化したこの場を、私は楽しんでいた。




   *     *     *



 ナナに言われた通り、けが人の集められた倉庫付近で身を隠しながら護衛についている。
 もし屋根が崩れたり、土の塊が飛んで来たら守ってやらんと――。
 戦闘場所からは割と離れているので、とばっちりの心配は少なそうだ、タチが負けない限り……。
 
 その時はどうしよう。
 考えたくもない。
 じゃけど、あの場にいてもタチの手助けはできんし、ただ見ているだけじゃ。

 あぁ……ついさっきまであんなににぎわっていたアルケー湖が――。
 どうしてこんな事に。

 ちゃんと管理しなかったわらわのせいじゃろうか?
 それとも好き勝手やる人間のせい?大暴れするダッドのせい?

 化身としての力を見せつけ、もう少し人間をコントロールするべきじゃったのかもしれない。
 「神殺しの剣」をネタに商売繁盛させているのを見過ごすべきではなかったのかも?
 でも、奴らにも生活がある。努力がある――側でずっと見てきたのじゃからわかる……。

 ぐるぐるめぐる思考に吐きそうになる。
 
 わらわの引き継いだ地……。

「お前の誠実さこそが、この力を持つにふさわしい」

 三百年前、先代の水の化身に言われた言葉を思い出す。とても嬉しかった。
 認められた気がして。同時にとても不安だった――できる自信などないのじゃから。
 
 結果、今こうなっている。
 四人いる化身の中で唯一の二代目。
 化身の中で唯一神様にお会いしたことのない元スライム。

(神様だったらどうなさるのじゃろう……)
 迷うといつもその基準で計ろうとしてしまう。情けないと自分でも思うが仕方ない。
 体の中にある授かりし源、ココから溢れる絶大な力が一番安心を与えてくれるのだから。
 
「うぅ……」
 痛そうに、苦しそうに、横たわる人々がうめく。
 見知った顔も多い。
 当然だ、付き合いの長いアルケー湖の周りの住人ばかりだから。

 服を着こんで、体を隠しよく歩きまわっている。
 人間の賑わいや、喧噪《けんそう》が好きだから。

 混ざりたくなる。構いたくなる。それがわらわの性分じゃ。
 
 どうすればいいのだろう?人間の痛々しい姿をみていられない。
 水の化身なのに。

「ぐっ…がっ……!」
 聞き覚えのある声がした。

「!!」
 倉庫の外、端っこのほうに寝かされている男性に目が留まる。

 よく知る顔だった。
 血に汚れた包帯が顔半分を覆っていてもわかる。
 
 わらわを子供と思ってか、いつもおまけに一玉多く差してくれる、もちもち殺しの店主――

 ギルガだ。 
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