かみてんせい

あゆみのり

文字の大きさ
上 下
5 / 89

えっ?今なんて?

しおりを挟む
「はっはっは!冗談だ!そう怯えるなナナ!」
 怯えて目線を合わせられない私。
 構うことなく楽しそうに笑うタチ。

(絶対嘘だ……!本気だった!!!)

「無理やりされるのはいけるが、する方はそうでもない!仲がいい奴にだけだ!」
「そ……そうですか…」
 その言葉で私が安心すると思うのだろうか?
 一切視線をそらさない、ギラギラ輝くタチの赤い瞳がなにより恐ろしい。

「可哀想すぎると萎えるからな。愛がないと燃えん!!」
「どこに愛が!?愛が入る要素ありました!?」
「溢れているだろう!この私に!!!」

 この人の自信はいったいどこから溢れてくるのだろう?
 豊かな源泉をお持ちなのは十分伝わってくるが、謎である。
 
「愛とは他者を慈しみ思いやる――」
「フン!慈愛や友愛か?そんなもの幻だ」
 つまらなそうに、私の言葉を聞き終わる前に鼻で笑うタチ。
 せめて最後まで聞いてほしいものだ。私もタチの言葉をちゃんと聞いてないけどさ!

「なっ――!あなたは勝手に押し付けてるだけじゃない!」
「それこそ愛だ!愛とは病!愛とは炎!愛とは我欲!!」
「絶対違う!そんな小さなものじゃない!!思いやりのない愛なんてただの暴力だもん!っていうかあなたのはただの肉欲でしょ!」
 つくづく価値観の合わない人間だ。
 ちょっとだけ、イラっとしてしまう。
 まだ、勝手に胸をまさぐったことを許していないからな!
 
「ふむ……。誰かに愛されたことがないのだな。愛らしい奴め」
(この女――!!私以上に人に愛された者なんて……!こっちは神様だぞ!!)
 安っちい憐《あわれ》みの視線が私の感情を逆なでするが、あまり声をあらげられない。

 だって怖いもんこの人。
 下手に刺激してヒートアップされても困る。

「ズーミに立ち向かう度胸、ウブなありよう、実に私好みだ!よかったら一緒にこないか退屈させんぞ?」
「私にも目的がありますので」
 もちもちの甘いお菓子を食べるというね!
 美味しいもの食べて、偉そうにふるまう変態タチの事なんて忘れるんだ!

「そうか……残念だ。ズーミといえばあの水攻めもなかなか良かったな…。どうだ?私と一緒にいればきっとナナも受けれるぞ?」
 どういう口説き文句だ。水攻めを受けれるって。
 タチの誉め言葉で喜ぶん人間なんているのだろうか?神にはわからない。



「と~~っても魅力的なお誘いですけど、遠慮しておきます」
「死ぬ直前で、今度は私が助けてやるから、じっくり味わっていいんだぞ?」
 コロコロ変わる豊かな表情なことで……眉を八の字に曲げ、もの凄く寂しそうに物騒な特典をアピールしてくれる。
 誘い方間違っているけどね!
 この人本気で思ってるんだろうな……「何事も経験!」を否定するつもりはないけど、水攻めって……。
 それで喜んでついてくる人がいるのだろうか?……いないよね?

「どうだ?せめて神殺しの剣を手に入れるまで一緒にいないか?」
 やだやだ絶対一緒になんか行動しない。する理由がない。
 こんな人と一緒にいたら身が持たない。

「丁寧におことわ――神殺しの剣……?」
 何その字面だけで鳥肌の立つモノ……。
 神様知らないよ?そんな剣。
 まぁ、人の体に収まってるからそもそも知らない事、覚えていない事だらけなんだけど……。

「売られた喧嘩を買うためにな!まずは戦力強化というわけだ!!なにせ相手は神だからな!!!」
「うってない!うってません!」
 まったくもって覚えがない。神様として一人間に喧嘩など売るわけがない。

「なぜナナが否定する?今しがたズーミに襲われたのを見ていただろう?奴は神の使い「水の化身」だ」
「えっ……えっと…」
 だめだ、説明が難しい――というか素直に「私が神様で、そんな指示飛ばしてませんもん!」と言えばいいのだけれど、この場でたたき斬られる気しかしない。

「どうだ?興味ないか?神を恨んだ人間達が作り出した剣……!この水の化身の土地にあるはずなんだ」

 ぶるぶる!体がすくんで震えてしまう。
 え?何?知らないうちにそんなモノ作られちゃってたの?
 人に転生してから600年ぐらい。肉体を作り出した準備期間100年を合わせるとたぶん700年ほど。
 神様が知らないうちに、何作ってくれちゃってるの!?

「どうした?寒いか?日も落ちてきたしな」
 確かに、見渡すと夕焼け空もどこへやら、私の恐れを煽《あお》るように夜が迫っていた。
 当然のように私の腰に腕を回すタチ。
 
 やってる行為は格好よさげだけれど、下心しか感じない。
 たった半日の付き合いで理解した。

「あの……えっと――やっぱりご一緒していいですか?」
 巻き付く腕から、するりと逃れつつ決心する。
(だめだ…!この人放っておくと絶対私殺されそう……!)

 神殺しの剣――。
 斬られたらめちゃくちゃ痛そうだ。死んでもまた産まれるからいいけれど、痛いのだけは嫌だ。

「もちろんだ!最近寂しい一人寝が続いていてな!パートナーを求めていた!」
「え~。あぁ~……そういうのはちょっと~」
 私程度の回避力じゃ、強引に抱きよるタチから逃れられない。
 すっかり肩を抱き寄せられ、お肌とお肌が密着する。
 
 うん、生暖かい。タチも一応生き物なんだね……。
 まんべんなく黒に覆われた空の下、感じたくない温もりを強制的に味あわされる。
 ……あぁ星空が綺麗だ。

「今日はもう暗いここで野営だな。ゆっくりしていていいぞ!準備は私がヤルからな!」
 なんの準備ですか!!ってツッコンだら負けなんだろうな。
 まずは、明日の朝を無事で迎えられるのか……そんな心配が胸いっぱいに広がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦力より戦略。

haruhi8128
ファンタジー
【毎日更新!】 引きこもりニートが異世界に飛ばされてしまった!? とりあえず周りを見学していると自分に不都合なことばかり判明! 知識をもってどうにかしなきゃ!! ゲームの世界にとばされてしまった主人公は、周りを見学しているうちにある子と出会う。なしくずし的にパーティーを組むのだが、その正体は…!? 感想頂けると嬉しいです!   横書きのほうが見やすいかもです!(結構数字使ってるので…) 「ツギクル」のバナーになります。良ければ是非。 <a href="https://www.tugikuru.jp/colink/link?cid=40118" target="_blank"><img src="https://www.tugikuru.jp/colink?cid=40118&size=l" alt="ツギクルバナー"></a>

ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷
ファンタジー
 セレスタ・ラウは帝国魔術学院で魔術を学び、優秀な成績で卒業した。帝国魔術師団への入団も間違いなしと言われていたが、帝国から遠く離れた村の教会に配属を希望する。  ある夜、リュシールという女吸血鬼と出会う。彼女はセレスタを気に入ったと告げ、とある計画への協力を求める。  "光"の魔術師と"闇の住人"である吸血鬼、二人の冒険と戦いと日常を書いたファンタジー。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...