セイギの魔法使い

喜多朱里

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魔物娘をわからせたい(3)

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 おかずには鮮度がある。
 どれだけお気に入りのおかずであったとしても、何度も使い続けていく内に興奮度合いは落ちていく。逆に言えばお気に入りで新鮮なおかずを手に入れた時、かつてないほどの興奮を得られるのだ。
 反りが合わない相手に対して自ら裸身を晒す――風俗で頼んで実現するプレイではなく、現実で達成した理想のシチュエーションは魂すらも震えさせた。

「ありがとう、もう服を整えてくれて大丈夫だ」

 お礼を伝えると、ミソラはすぐに胸元と下腹部を隠した。
 アルベルトは今更ながら紳士を発揮して背を向ける。背後でごそごそと服装を整える音が更なる妄想を滾らせた。
 シフォンやシトロンとの甘い時間もまた格別だった。
 この旅で得たあらゆる興奮と性欲を束ねて性技魔法を発動した。

「うぉぉぉぉぉぉーーっ!!」

 両手に握り締めた性棒エロスカリバーが限界を超える魔力を受けてヒビが入る。
 スキュラ相手にはまだ足りない。
 力を溜めている間にシフォンとの視界接続で外の様子を確かめると、連携して必死に抵抗しているが消耗激しく徐々に追い詰められていた。

『何も手はないようね。なんのための時間稼ぎだったのかしら』

 嘲笑うスキュラに対してエルネストが前に出て全員をかばった。
 背中を見るだけで覚悟が伝わってくる。死に場所と定めて最期の魔法を発動しようとしていた。

「脱出を急ぐぞ! 外はまだスキュラと戦闘中だ!」

 収束し切れなかった魔力が光となって闇を照らす。
 意図せずネタ元の聖剣のように輝いた電マを勢い良く肉床に叩き付けた。
 接触と同時に【三千倍世界】を完全解放した。

「相棒もってくれよ! 感度3000倍だ!!」

 超振動する電マが耐え切れず自壊を始める。
 突如、動きを止めたスキュラが身を屈めて震え出した。

『残念……時間切れだよ』

 アリアがにやりと笑っていた。
 聞き覚えのある台詞と共に過去と現在は繋がった。
 スキュラが身悶えしているのか全身を激しい揺れが襲った。

「効いています!」
「ああ、さっさとイキやがれこの触手エロモンスターァァァァッ!!!!」

 地響きと共に何か背後からまるで津波が迫るような音が聞こえる。

「これがもしかして……! アルベルトさん、来ます――」

 ミソラの声が掻き消される。
 潮吹きの津波に巻き込まれて押し流されるまで、最後の力を振り絞りエロスカリバーで肉床に刺激を与え続けた。

「ミソラ! 大丈夫か!?」
「……アルベルトさん」

 溺れ掛けたミソラの腕を掴んで引き寄せる。
 何かトラウマでもあるのか青い顔で震え上がっていた。

「目を閉じて掴まってろ! 後は脱出するだけだ!」

 弱々しく頷くとミソラの腕が背中が回される。
 凄まじい勢いに平衡感覚が狂いそうになりながら、ミソラに何度も「大丈夫だ」と呼び掛け続けた。
 流された先に光を捉える。

「外だ!」

 潮吹きによって勢い良く体外へと放り出された。
 ミソラを抱えたまま地面を転がっていく。背中を受け止められて回る視界が止まった。囚われていたのは短い時間だった筈なのに、見上げた青い空が懐かしく思えた。

「流石だな、アルベルトくん、ミソラくん」

 エルネストが背中を支えてくれていた。

「ありがとうございます、ギルドマスター。ミソラ、大丈夫か?」
「はい……助かりました」

 シフォンとシトロンが駆け寄ってくるが、手の平を突き出して制止した。
 スキュラは背中から倒れ込んでびくんびくんと震えていた。

「しぶといな」

 まだ生きている。あれだけの性的刺激を受けていれば腹上死してもおかしくない筈なのに、やはり伝説は伊達ではないようだ。
 アルベルトが立ち上がると、まるで対抗するようにスキュラも起き上がる。

「ふふ、ふふふっ、ふふふふふふっ!」

 壊れたように笑っていたかと思うと一瞬で無表情に切り替わった。

「私の全力をもって蹂躙する。あなた達は魂すらも残さず消し去るわ」
「ようやく目が合ったかと思ったら、物騒なことを言いやがって」
「光栄に思いなさい、

 一切の油断も隙も無い。
 突き刺すような敵意に思わず頬が吊り上がった。

「何が可笑しいの?」
「お前は人生を懸けるに値する敵だ」

 気狂いでも見るように目を丸くしたが、すぐにその油断は消えて目を細めた。こちらに策があるかもしれないと警戒を強めた。
 内側からの攻撃で仕留め切れなかった場合にどうするか、アルベルトは覚悟を決めていた。
 性技魔法を隠さず大勢の前で使う。
 振り返るとシフォンと目が合った。
 エクレールとシフォンを救うのは代償行為なんかではない。救いたいと思っている。他の人もそうだ。みんな慕ってくれたり、力を貸してくれたり、頼ってくれたり――大切な人達なんだ。失いたくないんだ。そのためだったら、彼らにたとえ嫌われたっていい。また独りぼっちになっても構わない。

「――俺自身を曝け出す」

 固有魔法は魂に由来する。
 前世より引き継いだ魂はそれだけで強力なのだろう。
 現在に至っても魂と魔法に対して肉体の強度が追い付いてない。
 しかし、もう一つ足を引っ張る原因があった。それはアルベルト自身が性技魔法を受け入れられず、過去のトラウマも重なって否定していたことだ。

「最大威力の攻撃準備を! 防御はこちらで受け持つ! 俺に命を預けてくれ!」

 全員が言葉を疑わず、反発もせず受け入れてくれた。
 それぞれに用意できる最大の攻撃を放とうと身構える。

「シフォンさん、俺がまた死にそうになったら助けてください」
「――はいっ!」

 目を見開いたシフォンが花開くように笑った。
 命を託す。
 命を託される。
 今ならその信頼の重さと嬉しさが理解できた。

「それでもやっぱり純愛モノが一番なんだよ!」

 全部打ち明けて、受け入れられたなら、性技魔法でたくさんイチャコラしたい。あんなことやこんなこと、前世から溜め込んだ理想のシチュエーションが脳内に溢れ返る。
 前世より素人童貞を拗らせ続けた男の妄想を此処に曝け出そう。
 性技魔法とは即ち童貞の妄想。非現実の具現。ありもしない幻想。
 故に現実を塗り替える。

「私の攻撃をどうやって防ぐと――」

 スキュラの動きが不自然に止まる。口を開いてこちらに踏み出そうとした体勢のまま完全に硬直していた。
 【約束された真実の一割】と名付けられた性技魔法がある。
 数多くの時間停止AVが発売されてきた。しかし残念ながらその内の九割は偽物。時間が止まったように振る舞ったり演出しているが、犬は歩くし女優は震える粗悪品なのだ。
 しかし裏を返せば一割は本物であると示していた。
 人々の「こうであって欲しい」という妄想が魂の奥底で結合・熟成された偽造概念であり『最低の幻想ワースト・ファンタズム』とも呼ばれる性欲の最果てだ。

 スキュラも周囲の蠢くスイープリーチも完全に動きが止まっていた。
 防ぐ必要なんてない。相手になにもさせずに終わらせる。

「ここまでとはね」

 アリアが無数の魔力弾を生み出しながら笑みを浮かべる。

「――抜刀飛斬『衣重ころもがさね』」

 ミソラは腰を低く落として抜刀術の構えを取る。

「仰ぎ見よ、これなるは我が魔道の頂き――『灼熱紅鏡サンライト・プロミネンス』」

 グレアムの頭上に大きな鏡が現れて周辺の魔素が収束していく。

「老体に響くわい」

 サヴァランは杖を掲げて異国の言葉で詠唱を始めると、スキュラの首元に歪みが発生する。

「全力をくらいやがれー!」

 ガレットが剣を投擲の構えを取る。

「拾った命、無駄にしてはならんな」

 エルネストは怪力で瓦礫を振りかぶる。

「センパイ、任せて!」

 シトロンは弓を引き絞る。

「ありったけの攻撃を叩き込め!」

 アルベルトの掛け声を合図に全員の攻撃が一斉に放たれた。
 その瞬間、スキュラの止まっていた時間が動き出す。もはや回避不可能な距離で渾身の一撃が無数に押し寄せた。
  既に内側を蹂躙されたスキュラの消耗は著しく、全身を覆う魔力防壁を失っていた。
 首を捩じ切られ、全身を斬られ殴打され、魔法に焼かれ――それでもまだスキュラは執念で生命にしがみついていた。

「ごほっ! げほげほっ! まだだ! もう一度叩き込め!」

 吐血しながらも、再び【約束された真実の一割】を発動した。
 幸せないちゃいちゃ妄想で性欲を滾らえて少しでも効果時間が伸ばす。

「アルさん!」

 シフォンの治癒魔法が反動で傷付いた体を治してくれる。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 再び一斉に放たれた攻撃にスキュラが晒されて、再び動き出した時の中で遂に地面へと倒れ伏した。

「……油断なんてしないさ」

 魔力感知を働かせると、まだスキュラの反応が残っている。
 アルベルトはスキュラの敗北に逃げ出すスイープリーチに紛れて、スキュラから千切れた触手が一本這っていくのを見付け出した。
 腰に装備した『テンタクル・シューター』で鉤縄ロープを射出して、巻き付けながら先端の鉤を触手に突き刺した。

「さらばだ、相棒……そして――くたばりやがれ、スキュラ!」

 ロープを引き戻して捕らえたスキュラに性棒エロスカリバーを叩き込んだ。
 その一撃が止めとなり、スキュラの魔力消失と共に電マは砕け散った。
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