セイギの魔法使い

喜多朱里

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魔物娘からは逃げられない(4)

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 魔力を込めてボタンを押すと『テンタクル・ショット』に内蔵された魔導具が起動して高速でロープが連続で射出された。短く切り揃えたロープは性技魔法による概念付与で触手へと姿を変える。

「目には目を、触手には触手をってね!」

 スキュラを相手に出し惜しみしている余裕はない。
 ミソラは居るがこの際は固有魔法が使えることが露見する事態は許容する。気付かれて不味いのは性技魔法の在り方だ。ヌルグチョ触手を操る固有魔法だと思われるのは、まあ、ギリギリ……スレスレ、セーフだと信じて受け入れよう。

「やはり固有魔法を使えたのですね! 効果は相手の模倣?」
「説明は生き残った後だ!」

 ディアスの追跡やマジカルスライムの中和などを目にしていたので、相手へのカウンター的な魔法だと推測したのだろう。とりあえずそう思わせて置くことにする。
 幸いにもスキュラの上半身は美女だ。スキュラとあんなことやそんなことをする妄想を滾らせて性欲ブーストによる強化が施される。
 太く逞しく成長した男性的な触手が、スキュラの女性的で柔軟性のある触手へと絡み付く。想像以上に酷い絵面だった。

「ミソラ!」
「お任せください」

 ミソラは動きを封じられた触手の間を縫うように突き進み、遂に本体部分の人間態の目前まで迫った。
 踏み込み一閃。
 鞘に納められた状態から放たれた居合い切りは、寸前で新たに生成された触手によって受け止められていた。二本三本と斬り飛ばすが、スカートの内側から次々と湧き出してくる触手相手に押し込めない。遂に勢いを止められて刀を絡め取られそうになる。

「こうも容易く私の体を切り裂くなんて驚いたわ。でもまだまだ刀に助けられているわね」
「刀の価値が分かるというのなら、そんもので触れるな、穢らわしい!」

 大量の魔力を流し込まれた刀身から青色の閃光が放たれる。魔力そのものが鋭い刃となり触手の干渉を拒絶する。
 ミソラは触手の塊から刀を引き抜いて、アルベルトの近くまで一足で退してきた。

「強行突破は厳しいようです」
「俺が囮になって隙を作る。なんとか一撃を叩き込んでくれ」
「死ぬ気はありませんよね」
「死んだらお前を助けられないだろう」
「分かりました」

 アルベルトは真剣な表情を必死で維持していた。

(これは必要経費だ、決して役得だなんて思ってない。でも見たいという性欲は否定しない)

 弱点を見抜くために発動していた透視でミソラの裸体を拝ませてもらう。武人として鍛え抜かれた身体は、それでも女性的なしなやかさを失っていない。小さめな胸が不自然なぐらい平らに広がっているので、透視を感度を調整するとさらしによって締め付けているのが見えた。うん、こういうのも味わい深くて良き。
 高まるリビドーにアルベルトの召喚した触手がむくりと反り立った。やはり犯罪的な絵面ではあるがパワーアップしたのは間違いない。

「いくぞ!」

 アルベルトは長めのロープを射出して天井の木組みに括り付けると、すぐにシューターを逆回転させてロープを収納させる。引き寄せられて浮き上がった勢いのままスキュラに向けて突っ込んだ。

「空中に身を晒すなんて良い餌食だわ」

 スキュラの人間態が両手を広げて悠然と受け入れる構えだ。
 右手に構えた棍棒に概念付与して性棒エロスカリバーへと姿を変える。性棒を勢いに乗ったままスキュラの人間態に叩き付けようと振り上げた。

「無駄よ」

 スキュラの身体が触手によって更に高く持ち上がる。
 額同士がぶつかりそうになる距離まで顔が近付き、振り下ろす前の性棒が掴み上げられる。空中でぶらぶらと揺れる無防備な体に、性棒を掴んだのとは逆の右手が近付いてくる。

「最大感度だ」

 性棒越しに繋がったスキュラに大して【三千倍世界】を発動すると同時に、性棒エロスカリバーの最強設定で駆動させた。

「――――ッッ!!」

 三千倍の快感にスキュラが白目を剥いた。触手が力を失って地面に広がった。人間態は腰を仰け反ってびくんびくんと震えていた。
 アルベルトは油断せず性棒を握り締めてスキュラの胸に押し付けた。
 触手と触手が絡み合う凄惨な戦場で、ミソラが確実に一本ずつ敵側の触手が斬り飛ばしながら接近してくるのが見える。斬られた触手は霧散して魔素に溶けていった。本体の意識が飛んだ状態でも触手はまだ蠢いていた。

「こんの化け物が!」

 上位の魔物は丈夫過ぎる。あわよくば腹上死狙いだったが、やはりミソラの力が必要だ。

「たたっ斬れ!」
「承知致しました」

 背後に回ったミソラが大上段に構えた刃を振り下ろした。

「おいたが過ぎたわね」

 ぐるりと眼球が動いてアルベルトを睨み付ける。
 ミソラが放った渾身の一撃は、スキュラの首筋に薄い切り傷を付けただけだった。魔力による防壁を肌の上に纏っているのが分かった。先程まではなかったが命の危機に陥って発動したのかもしれない。

「人の手でそこまでの快楽を生み出せるなんて……ああ、はしたなく生娘のように絶頂してしまったわ」

 華奢な身体のどこにそんな力があるのか、両腕に抱え上げられたアルベルトは藻掻くが抜け出せなかった。既にアルベルトの触手は相手を絶頂させる役目を果たして力を失ってしまっている。

「アルベルトさん!」

 ミソラが刀を突き立てようとしていたが歯が立たないようだ。

「これも面白い武器ね」

 スキュラの胸に押し当てていた性棒が奪い取られてしまう。少しの間観察していたがすぐに興味を失い投げ捨てる。
 愛おしく可愛がるように身体を擦られるが全身を悪寒が駆け巡った。

「ぐぅっ、どうやって耐え抜いた」
「驚いたわよ。でも肉欲だけを刺激するなんて心はもっていかれないわ」
「ははは、魔物に愛を説かれるとはな」
「私はすべての人を愛しているわ。弱くて儚くて救いようのない人間。その最期を快楽で彩るのは私なりの慈悲よ」

 スキュラの顔が歪む。

「この男はまだ楽しめそうだけど、あなたは飽きたわ」
「逃げろ!」
「できません!」

 抵抗を続けるミソラに対して、鬱陶しそうに無数の触手を差し向けた。
 ミソラを次々と迫ってくる触手を斬り飛ばすが、圧倒的な数を前に追い詰められていく。遂に壁際まで追い込まれて掴み上げられた。

「ぐはっ……!」

 アルベルトは凄まじい力で放り投げられて地面に叩き付けられた。
 打ち付けた腰の痛みに耐えながら顔を上げると、四肢を拘束されたミソラの姿が見えた。

「ミソラ……!」

 既に粘液による催淫効果でミソラの顔は上気していた。胸や股の間にいやらしく絡み付き擦り上げる。

「くぅっ……」

 羞恥と快楽に歪むミソラの表情。
 ドクンドクンと心臓が強く打ち震えた。
 こんな状況で愚かに見えるかもしれないが、性技魔法のためにこんな状況だからこそミソラの痴態を堪能する。はだけた胸元や太腿の白肌が眩しい。口腔内に押し込まれた触手が乱暴に舐っている。強制的に開脚させられて白い下着が顕になった。強制的な快楽で溢れ出した愛液で陰裂の形に染みができていた。

 このシチュエーションにはアルベルトが絶対に許容できない要素がある。
 怒りと性欲を力に立ち上がった。

「どいつもこいつも、俺は寝取られる側になるつもりはないんだよぉぉぉぉっ!」
「あら、あなたの女だった? 残念……時間切れよ」

 スキュラは嘲笑うようにミソラをスカートの内側に取り込んでしまった。
 伸ばした手は遠く届かない。
 取り込まれたミソラはすぐには死なない。だから落ち着いて思考を回そう。まだ助けられるのだから。きっと間に合うのだから。どれだけ言い聞かせても体は動いてくれなかった。

「うふふふ、いいわ、その顔も素敵よ」

 絶望に染まる姿をスキュラは楽しんでいた。
 まだスキュラは本気を出していない。それはアルベルトも同じだった。だからこそ自己嫌悪が抑えられない。この期に及んでまだ性技魔法を隠せればと考えていた。
 世間体なんて気にしている場合ではなかった筈なのに。でもここまでして隠さないと――過去の失敗が、あの人の死が無駄になる考えてしまった。性技魔法を隠すことを優先して大切な人を死なせておきながら、その死を重く受け止めた結果、第二の犠牲者を受け入れようとしている。
 性技魔法をもっと早く打ち明けていれば、そもそも誰も死ななかったかもしれない。そんな後悔が逆に性技魔法を隠すことを選ばせる。隠すことでまるであの人の死が無駄ではなかったと思い込めるから。

「黙り込んじゃって、まだまだ愉しませてくれると思ったのに残念だわ。せめてあの女と一緒に沈めてあげる」

 アルベルトの体に触手が巻き付いてくる。
 絶望に萎えた状態では性技魔法は発動できなかった。
 ずるずると引き摺られていき、スカートの内側でスキュラの膣口が大きく開いていた。アルベルトの全身を足から咥え込んだ。

 最後の抵抗でスカートの裾を掴む。スキュラはやたらと容姿や服装を気にしていたので半分は嫌がらせ目的だった。
 掴んでいたスカートの一部が千切れてしまい、アルベルトの上半身もスキュラの膣中に取り込まれていく。触手と膣から分泌される粘液によって思考に靄は掛かったが性技魔法の使い手として簡単には堕ちなかった。

「まだ俺は諦めない。だから――!」

 最後に上げた叫び声は誰も聞き届けることなく虚空へ消えた。
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