セイギの魔法使い

喜多朱里

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受付嬢姉をわからせたい(中編)

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「んぅっ……」

 悩ましく漏れ出した声が股間に響く。
 長い付き合いになると思った相手には、できる限り性的な目を向けないようにしているので、女の顔を見せたエクレールに動揺を抑え切れなかった。
 改めて見なくても、エクレールは美人だ。歳はアルベルトの一つ上で19歳。この世界の多くの国では15歳を成人としているので立派な大人だ。

 鮮やかな金の長髪をストレートに流しており、何人か立つ受付嬢の中でまず一番に目が行く。色白の肌に朱色が混じり、普段は感情を見せない碧眼は羞恥に潤んでいた。
 女性にしては高い身長とすらりと伸びた手足を包むのは、ギルド指定のエプロンドレス。控え目にフリルをあしらわれたゴシックデザインで、短いスカートとニーハイソックスの間に覗く太腿がよく映える。
 性技魔法のために鍛えた女体観察能力から割り出されたスリーサイズは、スレンダーなモデル体型を表していた。

「本当に大丈夫ですか?」

 心配する新米パーティの面々に、エクレールは普段の態度を取り繕い説明を再開させた。
 アルベルトはわざと攻撃の手を緩めた。
 いつもどおり淡々と依頼の注意事項を読み上げていく様子を観察して、タイミングを見計らい――再び【見えざる蛇手】により内腿に手を這わせる。

「皆様はこれから初めて町の外――んっ、失礼しました。町の外での依頼を行うにあたって…………」

 遠隔操作された手が太腿を閉じることで動きを封じようとしてくる。物理的に接触する上で対象から妨害を受けてしまうのが難点だ。

「エクレールさん?」
「いえ。説明を続け――んんっ」

 しかし、魔素制御を磨き続けたアルベルトは挟まれる前に抜け出した。
 太腿を閉じ切ったのをからかうように、手刀の形にした右手を太腿の付け根に差し込んだ。
 エクレールは冷静な表情を保ちつつ、両手を身体の前で組む振りをして、再び腕を押さえ込んできた。

(ふっふっふ、澄まし顔で力比べなんていつまで続くかな)

 新米パーティも違和感は感じているが、その程度でここまで見事に取り繕われてしまっている。それでは晒し者の刑には足りない。
 アルベルトはエクレールの鋼の精神に嗜虐心をくすぐられてしまい、止めどころを失っていた。
 スカート越しに押さえ付けられた腕だが手の先はまだ自由に動かせる。太腿の間で手刀をノコギリの刃に見立てて前後に動かした。太腿の付け根に差し込まれた手が、エクレールの女の部分を下着越しに擦り付けられた。

「最後の、注意点は、生還を……優、先すること、ですっ」

 エクレールは息も絶え絶えになりながらも接客をやり切った。
 ぎこちないお辞儀で心配の言葉を送る新米パーティを見送ると、その場に崩れ落ちた。


    ***


 呼吸を整えて立ち上がったエクレールは額の汗を拭うと、受付の奥にある事務作業用の自席に腰掛けた。全身を手で触れて異常がないか確認をしていた。

「……嬢王蜂は命の危機でそれどころじゃなかったし、もうちょっと楽しませてもらおうかな」

 これも今まで晒し者にされてきた正当な仕返しでセーフだ。そんな風に自分の良心を説得して、アルベルトは再び【見えざる蛇手】を発動した。
 肉眼では細かい様子を確かめられないが、性技魔法によるエロ特化感覚強化をもってすれば、対象の発情有無や僅かな声、身体の体勢などを離れたところからでも把握できる。透視や覗き視点を体感する魔法に比べて、魔力消費が控え目なのも便利な点だ。

「どうして、急に……こんな――またっ、んんっ!」

 両足を開いたタイミングで、右手で下着の股下部分をずらして、直接デリケートな部分に触れた。
 不思議な達成感が湧き上がった。
 性技魔法で色々とやらかしてきたが、仕事場の上司とも言える相手に堂々とセクハラをするなんて、前世では考えられないことだ。
 優しくねぶるように指を這わせれば面白ぐらい反応を見せた。

「ん、やっ、そこは、だめっ」

 押さえ込んだ嬌声が、自分だけに聞こえる。
 嗜虐心が満たされると共に征服欲が湧き上がった。
 アルベルトは欲望に導かれるまま、突き立てた指をエクレールの秘部の奥へと進ませようと――

「アルベルトさん!」
「はいっ! ……あっ」

 急な呼び掛けに跳ね上がる。その勢いでエクレールの奥まで指が入ってしまった。みっちりと閉まった狭い道に指は身動きを取れなくなる。

「驚かせてしまったみたいですね、ごめんなさい」

 シフォンが目の前に立っていた。

「いやー、あはは、いえ、大丈夫です」

 笑って誤魔化しながら、受付の奥を横目で確認すれば、机に突っ伏して身悶えするエクレールの姿があった。
 シフォンは姉の様子にはもちろん気付かないまま、トレイに載せて運んできた注文の品を並べる。
 前世のときから仕事の疲れを洗い流しくれたビールが美味しそうに泡を弾けさせている。今日のつまみは魚の煮付けのようだ。どちらも今は味を感じることはできないだろう。

「あの……少しだけ、お邪魔していいですか」

 シフォンが可愛らしく顔の前で手を合わせて上目遣いに見詰めてくる。
 いつもだったらとても嬉しい誘いなのだが、今も右手はお姉さんと仲良くやっているところで困った。【見えざる蛇手】の制御には細心の魔素操作が求められるため解除するためにも落ち着かなくてはならない。

「も、もちろんです」
「ありがとうございます!」

 普通の振る舞いを意識する余りに受け入れてしまった。断れば良かったと気付いた時には、シフォンは向かい合うように座っていた。


    ***


 シフォンに気付かれないように、魔素制御を誤らないように、まずはエクレールの身体から指を抜くこと。

「あんっ……」

(ああああああっ! 可愛く喘がないでぇぇっ! 俺のせいだけどさぁぁ!)

 未経験なのかまだまだ男性経験が足りないのか、締まりの良いエクレールの身体は、アルベルトの指をぎゅうぎゅうに締め付けて離そうとしない。少し動かすだけで甘い声が漏れ出していた。
 エクレールは口元を腕で押さえ込んでいるが、どんな小さい声でも性技魔法の副作用でエロいものなら勝手に拾われてしまう。
 右手が死闘を繰り広げている間、アルベルトは真面目な顔を作っていた。こちらを見詰めるシフォンが真剣な顔をしていたからだ。

「アルベルトさんは……後衛職の魔法使いですよね」
「ええ、まあ……」
「でも固有魔法の報告をあげていません」
「…………」

 それを絶賛使用中なのだが、言えるわけもない。
 もしかして気付いているのだろうか、不安が頭をもたげる。
 シフォンは詰問のようになっていることに気付いたのか、慌てたように顔の前で手を振った。

「もちろんギルドへの報告義務はないですよ! ただ心配なんです」
「どういうことですか?」
「私は魔石を届けましたよね」
「……はい、あの時はありがとうございます」

 アルベルトは表情筋をこれまでの人生で一番働かせていた。顔はシリアスモードを全開にしながらも、右手の秘密の花園探検隊の大脱出劇を繰り広げているのだから。

「基礎魔法だけであれば、魔石は必要になることはほとんどないと思います。でも常に持ち歩いているのだとしたら、やっぱりアルベルトさんは、固有魔法を使えないのではなくて使わないんだって」

 魔石は魔法使いの必需品だ。魔素を宿した鉱石で、術者の魔力の代わりに消費することで魔法を発動できる。魔力が尽きた時や、極端に魔素に干渉しにくい特殊な環境で魔法を発動するのに用いる。
 アルベルトは性技魔法を人前で使うわけにいかないので、基礎魔法だけを使用していた。
 シフォンは瞼を閉じて少しの間、何も言葉を口にしなかった。右手に集中していると意を決したように口を開いた。

「エクレお姉ちゃんが、アルベルトさんに厳しいのは……固有魔法が大きなデメリットを持つものじゃないかと思っているからです」

 大正解だけどきっと大外れだ、とアルベルトは思った。
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