異世界転生した俺らの愉快な魔王軍

喜多朱里

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第一章:魔王軍誕生

魔王様はスローライフを送れない(3)

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 アステリアはマルクト丘陵のあちこちを巡ってランドドラゴンのことを調べ上げた。
 知れは知るほどランドドラゴンの振る舞いには嫌気が差してくる。
 優れた知性と高い社会性を持ち合わせているのにも関わらず他種族を見下す素振りを隠そうとしない。ランドドラゴンは同族以外を玩具、餌、あるいは障害物としてしか認識していなかった。

 生態系の頂点、天敵の存在しない絶対者、傲岸不遜の怪物――数百年の蓄積で凝り固まった価値観は揺るがず、命の危機に瀕しても決して消え去らない驕りを築き上げた。
 力を示した後は言葉を交わせはしたが対話は成立しなかった。最初から聞く耳など持っていないのだ。

 それからもランドドラゴンが他種族を戯れに蹂躙するのを目にした。
 食物連鎖の結果や自然界の生存競争ではない。高度な知性を持つ者しか行わない極めて幼稚な命を弄ぶ残虐的な行為だった。
 アステリアはランドドラゴンを嫌悪しながらその行いを理解できてしまう。前世を振り返っても、高度な文明を築いて平和な暮らしを実現しても、決して社会からいじめは消えてなくならなかった。知性体は命の危機に陥らずとも他者の命を奪えるのだ。

 人間性と呼ぶべき前世の価値観。それを手放した瞬間、アステリアはこの世界に染まり果てる。
 なんとなくだが、魔神様はそれを望んでいないような気がした。
 だから、アステリアは理性を手に最後まで交渉を続けることを誓う。それでもランドドラゴンが歩み寄らないのであれば――魔神様の求めるように、虐げられた者達のために戦うのだ。
 アステリアはようやくマルクト丘陵の新たな支配者になる覚悟を決めた。


    *


 たった独りでランドドラゴンを殲滅するには手札が不足している。
 奴らと戦うと決めた時は全滅させる必要がある。もしも一匹でも逃せば復讐を誓うランドドラゴンが誕生してしまう。天敵の存在しない停滞した今の状態でも厄介な頑丈さを持っているのに、強くなる理由を持った個体がどれだけ恐ろしい存在になるのか想像もしたくない。

 今こそ魔神様の言う仲間――他の転生者の手を借りるべき時なのだが、肝心の手を貸してもらう方法がなかった。
 エルフの里で行っていた調査と研究で、転生者は現地民(この世界で生まれた魂)とは異なる魔力を持っていることが分かっている。
 長い時間を費やして周辺の転生者位置を特定したので、会いに行くことはできるが、一人ずつ声を掛けてスカウトするなんて時間が掛かり過ぎる。エルフの寿命的には問題ないのだが、その間にもマルクト丘陵はランドドラゴンの支配に苦しみ続けている。

「ちょっと息抜きするか」

 アステリアはコボルトの遺してくれた地下室から外に出ると、芝草の上に仰向けで寝転がり夜空を見上げた。

「今の季節だとどんな星座があるんだろうな」

 この世界には星の輝きを遮るような人工の光はないので、どこでも満天の星空が広がっている。
 天体観測は前世からの趣味だった。
 エルフの里では星見の学術書を何冊も読み漁って、実際に星空からその星座を探すのを楽しんでいた。今は手元に星座を確かめる術がないので、童心に返って一際輝く星同士を結んでオリジナルの星座を作ってみる。
 思ったより良い気分転換になり、沈んていた心が少し軽くなった。

「ん……?」

 何か途轍もないアイディアが閃いた気がする。
 アステリアは答えに辿り着けそうなのに、あと一歩が足りないもどかしさに髪を掻き毟る。服が汚れるのを気にせずじたばたと地面を転がり回った。

「いってぇ!」

 草むらに隠れた小石に頭をぶつけて体を丸めて悶え苦しむ。
 月明かりは叢雲に隠されて、思い付きそうだった何かも隠れてしまったような気がした。
 涙目で石っころを睨み付けていると、その先に見えた岩場に視線が吸い寄せられた。体を起こしてぼんやり見詰め続けていると、月が再び顔を出すのに合わせて岩場の隅がきらりと輝いた。
 それは蜘蛛の巣だった。夜露が月明かりを反射して幻想的な光を帯びていた。

「ああっ! インターネットだ!」

 アステリアは拠点から紙とペンを持ち出してきた。
 閃いたアイディアを魔術式に落とし込みながら殴り書きしていく。
 思考の速度に手の動きが追い付かないのがもどかしくて仕方なかった。

 答えは星のようにこんなにも近くて遠いところにあった。
 ずっと停滞していた魔法研究がブレイクスルーを迎えたことで、まるで霧が晴れたように想定した問題に対する答えが瞬時に浮かび上がる。
 それから月日が流れて、この世界に生まれ落ちてからずっと考えてきた転生者同士を繋げる魔法がようやく形になった。

 運命の夜、アステリアは肉体と魂に刻んだ魔術式に魔力を注ぎ込んで、星空に網目状に広がる魔力の細い糸を展開した。
 これから地上に居る無数の魂から魔神様によって転生させられた魂だけに魔力糸を繋ぎ合わせてネットワークを構築する。エルフの里で収集していた転生者の所在地情報が役に立った。
 月よりも小さく見える星々は、遥か彼方で輝く巨大な恒星であることを知っている――その認識の齟齬を活用すれば、実際の距離も場所も問題にはならない。魔法は想像力に左右されるので、

 魔法に求められる術者の認識と想像力任せで、正しい原理も詳しい仕組みも知らないインターネットの概念を魔法に組み込んだ。アステリアは前世で散々お世話になったので感覚的に扱える技術だった。
 星座は恒星によって形作られる。惑星や衛星ではないのだから自らの力で輝ける。その認識を利用して、参加者の魔力を引き出して魔力ネットワークのリソースに使用する魔力吸収を組み込んだ。魔力吸収は抵抗レジストされやすい術式だが、一瞬でも繋がってやり取りできれば、その後に受け入れてもらえばいい。

 最初の魔力ネットワーク構築には、アステリアの魔力を大量に消費するが、維持管理に必要なリソースを参加者全員で分担すれば大きな問題にはならないという計算結果が出ていた。
 それでも利用用途が無限大なインターネットを再現するのは不可能なので、最小限の消費で済むコミュニケーションツールに用途を限定する必要があった。

 一番最初に思い浮かんだのがネット掲示板だった。
 我ながら悪くないアイディアだと自画自賛する。多機能なSNSツールを使い慣れた世代からすれば、古臭いと思われてしまうだろうけどテキストベースのやり取りなら魔力ネットワークへの負荷を最低限に抑え込める。
 画像や音声、動画などの機能拡張は余裕ができたら付け足していけばいい。

 アステリアの展開した魔力ネットワークが次々と転生者達の脳内――正確には魂に干渉して術式を組み上げていく。
 各地で自らの異変を感じ取った転生者は、その魔法に悪意や攻撃的な意志が感じられないのでほとんどの者が受け入れた。魔法に詳しくない者は戸惑っている内に術式が定着していた。
 そして転生者達に共通のイメージが同時に刻み付けられた。

 【異世界】魔王だけど何か質問ある?【転生】

 世界の片隅で密かに魔王軍とTchは産声を上げた。
 距離や環境を無視して即時の情報伝達を行える何段階にもパラダイムシフトを起こした先にある筈の技術を魔王軍は独自に獲得したのだ。
 それは転生チートと呼んでも差し支えのない特別な力だった。


    *


987:魔王様
こうしてTchは生まれたってわけ

988:名無しの魔王軍
テンセイのマオーのマナがパーイでペターン
なるほどですねー

989:名無しの魔王軍
完全に理解した(理解したい)

990:転生終了幽霊
難しいことは分からないけど
魔王様がすごいのは分かったよ!

991:名無しの魔王軍
最後の魔力ネットワークに持ってかれたけど
冒険者とかコボルトとかゴブリンとか
あっさりと死人が出てるの殺伐とし過ぎぃ!

992:魔王様
>>988
なんでや!?
XIIIよりは分かりやすかったやろ!

>>989
願望かよ!

>>990
うむうむ、もっと褒めたまえよ

>>991
お前初めてか魔物の生息域は、力抜けよ

993:名無しの魔王軍
なんで即レスできるんですかねぇ
これが魔力の格差社会……

994:歌って踊れる魔導書
この掲示板がそんな力技で生まれたとは……
しかし幾ら魔王様の魔力があっても
本当に可能なのだろうか?
まさか魔神様の介入が……?

995:名無しの魔王軍
ガチ考察モードは草
機械と同じで魔法はそういうもんって
深く考えずに使ってたわ

996:魔王様
まあエンジンの仕組みとか知らなくても
車の運転に支障はないからな
ただ固有魔法は魂に深く関わる力だから
もう少し真面目に考えた方がええんちゃう?

あっ、そういや参考元の都合から
一つのスレッドは1000で終わりだから
そこんとこよろしくな?

997:転生終了幽霊
次スレ立てておかないとねー
僕達の夜はこれからだ!

998:名無しの魔王軍
1000なら彼女ができる

999:名無しの魔王軍
1000なら魔王様が巨乳になる

1000:名無しの魔王軍
1000なら魔王軍は永久不滅

1001:1001 Over 1000
このスレッドは1000を超えました。
魔王軍の明日はどっちだ!?
新しいスレッドで運命は決まる……
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