佐藤くんは覗きたい

喜多朱里

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家族を覗きたい(5)

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「流石に二人だと狭いかな」
「ちょっとだけね」

 興奮さめやらぬまま体を洗い終えて浴槽に浸かる。二人で向き合うように座ると、お互いに足を曲げていても膝が触れ合うぐらい近い距離だった。
 身じろぎするだけで足先がぶつかってしまう。
 気恥ずかしさに足を引っ込めると、有村さんが足裏で脛を撫でてくる。

「……くすぐったいよ」
「くすぐってるんだもん」

 有村さんは膝を抱え込んで口元を覆っているが、口端が吊り上がっているのを隠し切れていない。

「ひゃっ……! ふふ、ふっふふ……」

 仕返しで足の甲につつつと掠めるように指先を這わせる。
 有村さんは身を捩りながら笑い声を堪えていた。
 鍔迫り合いのように足の指を絡め合いながら、もっと有効な弱点はないかと足先で探っていく。

「あんっ…………あ、んむむ」

 有村さんは嬌声が漏れた口元を慌てて押さえ込んだ。
 僕の足先がずれて秘部に触れていた。柔肉を押し広げる指をお湯に揺られた陰毛がさわさわとくすぐってくる。
 目の前に裸の有村さんがいるのだと改めて理解させられた。一度射精して落ち着いていた筈の息子がそろそろ出番かと起き上がろうとするので足を閉じて黙らせる。

「……佐藤くんのえっち」
「こ、これは本当に事故だから!」

 不可抗力だと正直に伝えるが、疑いの目線は厳しいままだった。

「罰として領地の一部を取り上げだよ」

 ぐいぐいと体を寄せてきたので足を広げて避けようとするが、途中でくるりと背を向けて僕の足の間に収まった。

「んふふ、これで佐藤くんの足には好き勝手させないよ」
「……有村さん」
「んー?」
「人間には手というものがあってね」
「それはズルだよ!」

 足でやられたから足でやり返したのであって、足でしか戦わないなんて紳士協定は結んでいない。
 僕が手をわきわきと動かすと、有村さんは両腕で胸を覆い隠して背中を丸め込んだ。

「これで触れないよー!」
「いやいや、どこもかしこもがら空きだけど」

 脇腹を指先でちょこんと突いた。

「ひゃう!?」

 有村さんの体がお湯の中で跳ね上がった。

「んふっ、ひぃぅ、ぅんにぃ」

 ちょんちょん突くたびに可愛らしい声が漏れ聞こえる。
 嗜虐心にそそられて続けていたら、有村さんがぷるぷると震えながら涙目で見上げてきていた。

「あっ…………やり過ぎた、ごめんね」
「はぁはぁはぁぁ……佐藤くんはいじわるだよっ」
「反応が可愛いからいじり甲斐があって」
「禁止ー! それに誤魔化されないからねー! むぅぅ、もっと優しくしてくてもいいんだよ。ううん、優しくするべき。もっともっと甘やかしまくるべき!」
「願望がだだ漏れだけど」
「いいの、佐藤くんには隠し事も嘘もしないって決めたんだから」

 その言葉がどれだけ僕を救っているのか、有村さんはきっと気付いていない。だからこそ嬉しい。本音で話してくれているんだって信じられる。

「そうだったね。僕はこんなんだからさ、何をしてほしいのか具体的に言ってもらってもいいかな」
「……佐藤くん、もしかして羞恥プレイを狙ってない?」
「穿ち過ぎだよ!?」
「信じるからね。それじゃあ……」

 有村さんが僕の右腕を持ち上げて体の正面に回した。
 意図を察した僕は、同じように左腕を伸ばすと有村さんを背中から抱き締めた。

「ぎゅぅぅ……ふふっ」

 有村さんは擬音を口に出しながら愛おしそうに僕の両腕を抱え込む。

「温かいね」
「うん」
「もうちょっとだけこのまま」
「分かった」

 静まり返った風呂場ではお互いの息遣いがよく聞こえた。時折、思い出したようにシャワーの先端から垂れる水滴やスポンジから染み出した水滴が弾けて音を響かせた。
 艶々の肌が僕の腕に吸い付いてくる。まるで離れたくないと駄々をこねているようだった。

 温かくて柔らかくて愛おしい。
 肌と肌の触れ合いに心が通じ合っているような気がする。
 気付けば心臓の鼓動は静かになっていた。あれだけ緊張と興奮をしていたのにリラックスしてきたようだ。

「今度からお泊まりする時は一緒にお風呂入ろうね」
「……う、うーん」
「ぶーぶー、どうして悩むのさー」

 子どもっぽく拗ねる有村さんに声を出して笑う。

「だって我慢できなくなりそうで」
「どういうこと?」
「えーと」
「なにを我慢するの? それさえ解決すれば良いなら協力するよ!」

 有村さんが無邪気な笑顔で振り返る。
 その動作でお尻が股間を擦り上げていた。一気に海綿体へと血液が流れ込んで、垂れ下がっていた陰茎が瞬く間に反り勃つ。
 裸の有村さんと密着していれば、それはもう賢者だった息子も逆行して遊び人に転職するさ。

「……こういうことかな」
「なるほど、だねっ!」

 お尻に当たる硬い感触の正体に気付いたせいか、有村さんの声は上擦っていた。

「有村さん……?」

 僕の腕を潜り抜けて、有村さんが体を反転させる。正面に向き直ると緊張した顔でにじり寄ってきた。

「もう一回、ぎゅっとして」

 僕は有村さんを抱き竦めた。
 囁き声が耳朶を打つ。

「いいよっ」
「えっ……?」
「我慢しなくていいよ」

 有村さんの手が僕の頭を抱き寄せた。
 真っ赤に染めた顔が近付いてきて唇が重なる。短く触れるだけのキスだった。

「そんなこと言われたら、わたしも……我慢できないもん」

 抱き締める腕に自然と力がこもる。
 それに応えるように有村さんの抱き着く力も強くなった。

「家族になりたいって言われてすごく嬉しかった……だって、佐藤くんからわたしを求めてくれたから。本当はずっとずっと不安だったんだよ」

 有村さんの背中を撫でると震えは治まった。

「佐藤くんなら困っているのがわたしじゃなくても助けてたと思うから……今こうしていられるのは運が良かっただけ――だからこそね! わたしが佐藤くんを離さないようにしようと思ったの」

 熱い吐息が頬を撫でる。
 爛々と輝いた瞳には依存を超えた感情が宿っていた。
 有村さんが腰を落としてきて、いきり立つ男根が内腿をなぞっていく。

「待って、有村さんっ!」

 このままでは挿入してしまいそうだった。
 脱衣所に置いてきたコンドームを取りに行こうとするが、肩を押さえ付けられて立ち上がれなかった。

「うん、大丈夫だよ、わかってるから……コンドームを付けてないから挿れちゃダメだよね」

 陰茎が有村さんの股下を潜り抜ける。
 挟み込まれて膣口には近付けないけど、むっちりとした太腿に大喜びでびくんびくんと動き回っていた。

「ひゃうっ、もう大人しくするんだよ」
「う、うん……これも知らないでやってるんだよね」
「こういうやり方もあるの?」
「ああ、うん、素股って呼ばれてる」
「……佐藤くんこそ、どうして詳しいの? 実は経験豊富だったりする?」

 不安と不満が入り混じった視線に居た堪れなくなる。

「知ってるだけです。はい。するのは初めてです。はい」
「そっか、うん……そっかー……ふふ、うふふっ」

 物凄く嬉しそうなので、僕の童貞心が傷付いたのなんて安いもんだ。

「わたしも、佐藤くんがぜんぶ初めてだよっ」

 有村さんの喜びをすぐに追体験して、さっきの傷も完璧に癒えた。
 今日のために女性経験皆無を貫いていたんだぞって胸を張れる。相棒の右手も誇らしそうだ。

「さとーくんっ」

 有村さんは蕩けるような笑顔を浮かべながら腰を前後に揺らした。
 性器が擦れ合い刺激する。太腿に包み込まれる感触は童貞の僕には本当の挿入と変わらないように思えた。湯船を覗き込めばぎんぎんに硬くなった陰茎が股下を出入りするのが見えた。

「有村さんっ、気持ちいいよ」
「うれしいなっ」

 目の前の光景に圧倒された。腰の動きに合わせて大きく実った二つの果実がゆさゆさと揺れ動く。濡れて艶めく果皮の上を水滴が滑り落ちて顔に降り注ぐ。お湯と混じった塩っぱい果汁が口の中に飛び込んできた。
 汚いし気持ち悪いのは分かっているけど、有村さんの体液だと思えば興奮に早変わりするのだから性欲は恐ろしい。こうして冷静に考えても、有村さんの体をむしろ舐め回したいと思っているのだ。

「んっしょっ、んんっ、うんっ、んーっ、ああっ」

 有村さんが甘く切ない声を上げる。
 陰茎がスリットに沿うように擦れるのが気持ち良いようだった。誤って挿入してしまったかと思ったが、雁首より先はお尻の方に回って、間違っても挿入しない状態になっていた。

「ふぁぁっ、あたま……ふあふあしてくるっ」

 興奮のせいで呂律が回っていない。

「ん、あっ、だめ、かもっ」

 有村さんが倒れ込んできたのを受け止めようとするが、巨乳を顔に押し付けられて呼吸をできなくなる。世界で最も幸福な窒息死を迎えそうだ。
 なんとか有村さんの体を抱き起こして、おっぱい天国から帰還を果たした。もしも本当に死んでいたら腹上死扱いなのだろうか。

「有村さん?」
「……うぅぅ、のぼせちゃった」
「今度は温まり過ぎちゃったね。そろそろ出ようか」
「うんっ」

 自分で立ち上がろうとする有村さんの肩を支える。
 お姫様抱っこをするのがスマートかもしれないけど、滑りやすい風呂場では貧弱ボディを信じ切れなかった。

「あのね」
「どうしたの?」
「部屋に戻ったら、続き……しようねっ」
「大丈夫だよ、僕の方こそ有村さんを逃がす気なんてないからさ」
「うふふー」

 有村さんは夢見心地に呟いた。

「すっごく、うれしいなぁ」
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