あしたの恋

水城ひさぎ

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星月夜

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「明日嘉くん、本当? 本当にうちに来るの?」

 駅の改札口に入っていく明日嘉くんについていく。学校帰りに彼が電車に乗るなんて言ったのは初めてのことだ。それだけでも驚きなのに、私のうちに行くと言う。

「ああ、定期的に行ってるんだ。日菜詩ちゃんに会ったことがないだけで」
「そうなんだね。お父さん、明日嘉くんは元気にしてるかってよく聞いてくるよ。すごく気にしてるみたい」

 そう言うと、明日嘉くんはふと足を止めて私に目を移す。そしてうっすらと笑みを浮かべる。

「なにか、気づいてるのかもしれないね」
「え……っ、わ、私、なんにも話してないよ」
「話さなくても伝わるんじゃないかな。最近やけに綺麗になったよね、日菜詩ちゃん。そういう変化は感じるんだよ」
「そ、そうかな……、あんまり変わってないと思うけど」

 髪を落ち着きなく撫でる私を見て、明日嘉くんはそっとほおに指を滑らせてくる。

「変わったよ。俺が言うんだから間違いない。男が出来たなってのはわかってるよ」
「えー……、ちょっと恥ずかしいね」
「俺は結構緊張してるけどね」
「そうなの?」
「当たり前だろ。緊張しないはずはないよ」
「大丈夫だよ、明日嘉くん。私、何にも言わないから」
「日菜詩ちゃん……」

 明日嘉くんはなぜか困り顔をする。私たちのことを反対されるかもと不安がっているのは彼の方なのに。

「あ、そうだ、明日嘉くん。夜ご飯うちで食べる? 最近ね、お料理も前よりやるようになったの。明日嘉くんに食べてもらえたら嬉しい」

 話をそらすと、明日嘉くんはそっと目を細める。

「ああ、迷惑にならないならいいよ」
「じゃあ、明日嘉くんの好きなもの作るね。何がいい?」
「日菜詩ちゃんが作るものならなんでも好きだよ」
「なんでも? そんな風に言われると、私もちょっと緊張しちゃう。なんだか変な感じするね」
「何が?」
「だって私、明日嘉くんの彼女みたい。付き合ってるって、まだ信じられないの」
「みたいじゃなくて彼女だよ。そんな風に思うのは俺の努力不足だよな。優しくするから、ずっと俺だけの日菜詩ちゃんでいてよ」
「……あ、うん、明日嘉くんは出会った時からずっと優しかったよ。だから信じてるの。あしたも、その次も、ずっと明日嘉くんと一緒にいられるって」

 何も疑わない。今までは私一人の思いだったけれど、今は彼も同じ気持ちだと信じている。それを証明するかのように、明日嘉くんはそっと私の手を握りしめて、「俺も」と囁いた。
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