上 下
68 / 84
第五話 死後に届けられる忘却の宝物

2

しおりを挟む
 玄関ドアが開いて、八枝さんが出てくるよりも先に、ハーネスを振り切ったミカンが飛び込んでいく。その様子をほほえましげに眺める八枝さんに招かれて、私たちは和室に通された。

 ローテーブルの前へ誠さんと並んで腰を下ろすと、お盆を持った若い女性が和室へ姿を見せた。

「あっ、菜月さんっ」

 と驚きの声をあげる私に、彼女は目を細めてほほえむ。以前よりも、柔和に笑うようになった彼女は、八戸城菜月さんだった。

 どうやら、私に会わせたい人というのは、菜月さんのことだったみたい。

 菜月さんは、誠さんがお世話になっていた先輩、堤達也の助手として、霊媒の仕事をしていた。

 達也が亡くなり、住む家も仕事もなくなってしまうと悩んでいた彼女が今どう過ごしているのかと心配していたが、連絡を取る手段もなくてやきもきしていた。しかし、その彼女がなぜ八枝さんのお宅にいるのだろう。

「一週間前にね、御影さんが菜月さんを連れてこられて、一晩泊めてやってくれないかというものだから」

 八枝さんが向かいに座ってそう切り出すと、遠慮がちにたたみの上へ正座する菜月さんが頭を下げる。

「一泊のつもりだったのだけれど、よく働くお嬢さんで、つい一週間も引き止めてしまって」

 くすりと八枝さんは自嘲ぎみに笑って、菜月さんへ座布団をすすめる。戸惑いながら、彼女が腰をずらすと、八枝さんはさらに続けた。

「菜月さんをこの家に住まわせようと思うの。もちろん、お仕事が見つかって、菜月さんが出ていきたいというなら引き止めるつもりはないのだけど」
「ありがとうございます」

 誠さんはすんなりと頭を下げる。まるで、最初からそのつもりで、菜月さんを紹介したみたい。

「あの、本当によろしいんでしょうか」

 不安げに、菜月さんが言う。

「ええ、かまいませんよ。こうして時折、御影さんが来てくれるけれど、私も独り身ですし、菜月さんのようなかわいらしいお嬢さんが側にいてくれたら心強いわ」

 恐縮そうに肩をすぼめる菜月さんが、ちらりと私を見る。

 彼女とはずっと仲良くしたいと思っていた。天目に暮らしてくれるなら、いつだって会えるし、お話もたくさんできる。うれしくなってほほえみかけると、彼女の気持ちも同じだったのだろうか、ほほえみ返してくれた。

「荷物はもう片付きましたか?」

 誠さんが菜月さんにそう尋ねたとき、キッチンの方から機械的なメロディが流れてきた。

「あら、電話。珍しいこと」

 ちょっとごめんなさいね、と言って腰をあげた八枝さんが部屋を出ていく。すると、今度は庭の方から「ギャーギャー」という、けんかするような、泣きわめくような悲鳴が聞こえた。

 びっくりして誠さんと目を合わせると、「ミカンとマヨイくんでしょうか」と彼は言う。

「ちょっと見てきます」

 すぐに立ち上がり、私も廊下へ出ると、鳴き声の聞こえる庭の奥へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

憧れの童顔巨乳家庭教師といちゃいちゃラブラブにセックスするのは最高に気持ちいい

suna
恋愛
僕の家庭教師は完璧なひとだ。 かわいいと美しいだったらかわいい寄り。 美女か美少女だったら美少女寄り。 明るく元気と知的で真面目だったら後者。 お嬢様という言葉が彼女以上に似合う人間を僕はこれまて見たことがないような女性。 そのうえ、服の上からでもわかる圧倒的な巨乳。 そんな憧れの家庭教師・・・遠野栞といちゃいちゃラブラブにセックスをするだけの話。 ヒロインは丁寧語・敬語、年上家庭教師、お嬢様、ドMなどの属性・要素があります。

とりあえず、後ろから

ZigZag
恋愛
ほぼ、アレの描写しかないアダルト小説です。お察しください。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話

神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。 つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。 歪んだ愛と実らぬ恋の衝突 ノクターンノベルズにもある ☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...