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第四話 霊媒師は死してのち真実を語る

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「迷惑を承知で、清華さんのアパートを訪ねてみました。こじんまりとした生活でしたが、不自由なく暮らしているようでしたよ」
「それを喜んでいいんだろうか」

 千鶴さんの身体を借りる達也は、小さなため息をつく。

「今ごろ真相は解決済みで、先輩とはもう二度と会えないと思っていましたが、すみません」

 俺の仮説が正しければ、今日八戸城菜月から話を聞いて解決するはずだった。
 しかし、先輩の心残りを取り去ってやることはできなかった。そして、千鶴さんの身体にかかる負担を減らすこともできていない。

「それもまた複雑だね。御影くんとはずっと話していたい気もするよ」
「八戸城さんが先輩を刺したのだと思っていました。それなら解決しなくてもいいのかと思ったりもしましたが、やはりそういうわけにはいきませんね」
「それなら解決しなくてもいい……、か。らしくないことを言うね」

 達也が笑うから、つられて俺もちょっと笑ってしまう。

「俺は刑事じゃないですよ」
「まあそうか。俺が望まないものは調べる必要はないよな」
「先輩は疑っていたんですよね、八戸城さんを。先輩を呼び出したのは彼女ですから」

 少しばかり酒を飲みたそうにあたりを見回す達也だが、何もないことを知ると、目の前の緑茶をすする。そして、湯のみを円卓に置くと同時に息を吐き出す。

「菜月くんじゃないのか、俺を刺したのは」
「おそらく。八戸城さんが嘘をついているようには感じませんでした」
「俺は彼女にうらまれてるよ」
「好意に気づかないふりをして、突き放したからですか」

 図星だろう。達也は苦渋に満ちた表情をする。

「八戸城さんを受け入れる道はありませんでしたか? そうすれば……」
「そうすれば、俺は死なずにすんだか。でもなあ、御影くん、清華を幸せにできなかったのに、菜月くんを幸せにできるはずがないよ」

 達也はきっぱりとそう答えた。
 清華を大切に思い、菜月を突き放せない彼の思いが誰に向いているのかわからない。
 しかし、達也はさみしげに言う。

「今となっては、御影くんのように、素直になればよかったかもしれないね」
「俺みたいに、ですか」
「そうだよ。君は妹のように思っていたはずの女性に思いを告げたじゃないか」
「つまり先輩は……」

 それ以上言うな、とばかりに達也は首を左右に振る。

「八戸城さんとはどこで出会ったんです?」

 そのことについて、清華は何も知らないようだった。
 夫婦の溝は、八戸城菜月が堤家へ来たときから生まれていたのだろう。

「仕事でね、出会ったよ」

 あっさりと、達也は告白する。何もやましいことはないと言っているかのようだ。

「御影くんも承知の通り、俺の除霊には霊媒がいる。その役目を清華が長くつとめてくれていたが、家のことも子育てもきちんとこなす彼女の負担が大きくなってると感じるようになってね」
「代わりになる助手を探していたんですね」
「たまたまだったんだ。仕事で訪れた旅館で、清華が体調を崩してね。仲居だった菜月くんが手伝いたいと申し出てくれた。菜月くんはもともと霊感の強い女性でね、その覚悟もあった」
「だから相談もなく、そのまま八戸城さんを連れて自宅に戻られた?」

 とがめたように聞こえただろう。達也は苦笑ばかりする。

「清華を心配させないためだった。彼女のことを何も理解できてなかったよ」

 それは俺も同じだろうか。
 千鶴さんのすべてを理解しているか、と言われたら、返答に困る。
 千鶴さんがどういうことに興味があるのか、どういうことで楽しいと感じるのか、俺はきっと何もわかっていない。

 しかし、夫婦とはそういうものでもあるのだろう。俺たちはまだ、これから長い月日をかけてわかり合っていく途中にいるのだ。
 簡単に手放すなんて、絶対にしない。そこは達也たちとは違う。断言できる。

「清華さんと何かあったんですか?」

 離婚につながる決定的な、何か。

 俺を一瞥した達也は、がっくりを肩を落とす。

「子どもを産んだことに後悔はないが、父親はあなたでなくても良かった。そう言われたよ」

 投げやりで、憔悴した声で彼はそう言った。

「誰か別に、心を寄せる男性がいたのでしょうか」

 脳裏に、佐久間剛の顔がよぎる。
 佐久間と清華。ふたりの年齢を考えたら、親子ほどの差がある。しかし、清華にはどの年代の男性をも惹きつける魅力があるのも事実。

「それもわからない。俺を慕ってくれてると思い込んでいたからな」
「先輩は魅力的ですよ」

 清華の心変わりが嘘であればいい。そう思うぐらいに、男の目から見ても魅力的だ。だからこそ、俺は達也を慕ってやまない。

「そうかな。清華にはこうも言われたよ。結婚生活は苦しいばかりだった。来世は結婚しないで生きれるようにしたい、ってね」

 結婚生活を全否定された。
 そう思って、達也は離婚に応じたのだと、悲しげに言う。

「苦しいことばかりだったとは思いませんよ、俺は」
「御影くんは優しいね。あの頃の俺は、気持ちの落とし所がわからなくなってね。もう死んでもいいな、と思ったりもしたよ。だから、遺書なんてものも書いたのかもな。いっときの気の迷いが、まさか俺の死因になるとはね。皮肉だね」
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