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第四話 霊媒師は死してのち真実を語る

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「なんか俺、使われたんじゃね?」

 菜月さんの運転する車が発進すると、後部座席で並んで座る春樹さんが、私に耳打ちした。

 やっぱりそうですよね。と、思ったが、助手席の誠さんに聞こえてるような気がして無言でやり過ごす。

「先輩が亡くなったのは、ご自宅ではないんですね」

 堤達也の自宅とは反対方向の道を、車は進む。

「はい。ここから車で10分ほどの山の中です」
「山中ですか」

 誠さんと菜月さんの会話は短かった。
 運転する彼女を気遣ったのだろうし、彼も考え事をしたかったのかもしれない。

 住宅地を走行していた車は、次第に木々に囲まれた道へと入っていく。そして、いつしか、森のゆるい坂道を登り始める。

 人通りの多い道からさほど離れた場所ではないのに、車が停車した場所は、まったくと言っていいほどひとけのないところだった。

 死を選ぶには適した場所だろう。
 そんな風に思ったが、口には出せなかった。

 菜月さんは車から降りた私たちに会釈すると、慣れた足取りで山の入り口から奥へと進んでいく。
 けもの道ではない。誰かが利用している形跡のある小道だ。

「静かな場所ですね」

 誠さんは私の手を握りながら、そう言う。私を見失わないようにと、心配してつないでくれたような気がした。

「思ったより奥まで行かないんだな」

 先に歩いていた菜月さんが立ち止まるのを見て、春樹さんは何気なくそう口にした。
 自殺するなら、もっと人目に触れない場所を選ぶんじゃないか。そう思ったのかもしれない。

「堤先生はここに倒れてました」

 私たちが菜月さんに追いつくと、彼女は足元の少し先を指差した。そこには慰霊のための花束が供えられている。

 誠さんは前に進み出て、ひざを折ると両手を合わせた。私も春樹さんもそれにならう。
 人がひとり亡くなった場所にものものしさはないが、やはりどこかさみしげな雰囲気が漂っている。

「第一発見者はどなたですか?」
「この山の所有者の、館野たちのさんです」
「どんな方です?」
「確か、お年は70歳。奥さまを亡くされて、今は一人暮らしだとか。堤先生とは交流があったようで、しばらくはこの山への出入りも自由にしていいと言ってくださる、親切な方です」

 誠さんは静かにうなずく。

「先輩はここで倒れていたんですね」
「はい。うつ伏せに倒れていたそうです。お腹から血を流して倒れていたので、自殺ではないと思ったと館野さんは言ってました」
「では事件か、事故かと?」
「そう見えたそうです。でもここは昔から自殺者の多い場所で、自殺と断定された時には納得されてました」

 菜月さんはそう言ったが、自殺するならこの場所を選ぶのかもしれないということに納得しただけだろう、と補足した。

「館野さんも堤先生が自殺するなんて、と奥さまと同じように信じられないとおっしゃってました」
「それが早い段階で自殺と断定されたのには理由が?」
「……ええ。堤先生の遺書が見つかったんです。何かに悩んでいるようには見えなかったので驚きました」

 一見、自殺とするには不自然なことも、遺書の存在によってすべてが納得いくものになったようだ。

 でも誠さんは、堤達也本人から『刺された』と聞いている以上、すぐには納得できないでいるだろう。

 彼は「そうですか」と息をつき、森以外何もない辺りを見回す。

「しかしなぜ、館野さんはこの山に?」
「自殺者がいないか確認するためです。自殺の名所だなんて一時は騒がれたそうですから、最近は毎日この山を訪れているそうです」

 もしそうなら、自殺の名所と知っている犯人が、自殺に見せかけて殺したかもしれない。
 そんな風に思っていると、春樹さんが前へと進み出た。

「自殺しそうにない人間が、遺書を残して自殺か。もし他殺だとしたら、案外奥さんがあやしいかもな」
「春樹」

 誠さんは春樹さんをたしなめる。しかし、一番疑わしいのは奥さんであることを承知で堤達也の自宅を訪れたのだから、誠さんも彼の考えには同意だろうと思った。

「だってそうだろ。だいたい財産目当ての殺人だったりするんだよ」
「先輩の自殺は信じられないが、滅多なことを言うな。それとこれは話が違う」

 眉をひそめる誠さんが、申し訳なさそうに菜月さんへ視線を移す。すると、彼女は組み合わせていた指にぎゅっと力を込めて言った。

「財産目当てなんてことはありません。外聞を気にされて奥さまは何も言いませんが、先生と奥さまは半年も前に離婚されてるんですから」
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