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第四話 霊媒師は死してのち真実を語る
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誠さんは仕方なさそうに、一連の騒動を春樹さんに説明した。しかし、堤達也が殺されたらしいことと、彼が私に取り憑いていることは伏せていた。
「それで兄貴、オノダのこと知ってたんだな」
御影家のある天目とはゆかりのない土地の、しかも、観光地でも繁華街でもない土地にある小さな楽器店を誠さんが知っていた理由にたどり着いた春樹さんは、妙に納得した様子でうなずいた。
納得したのは彼だけではない。私たちの会話から、春樹さんがミュージシャン志望なのだと知った菜月さんもまた、彼の風貌に納得したようだった。
「八戸城さん、何か御用でしたか?」
誠さんが話を戻すように尋ねると、菜月さんはようやく目的を思い出したのか、ああ、と小さな声をあげた。
「御影さんは探偵さんだとおっしゃっていたので気になって」
「気になるとは?」
「堤先生の自殺に疑問を持っていらっしゃるんじゃないかと」
きょろきょろと視線を泳がせた菜月さんは、恐縮そうに肩をすぼめる。
「どうしてそう思われるんです?」
「堤先生が亡くなったことで、奥さまも自殺なんて信じられないと言ってましたし、何かあるんじゃないかって私も思ってしまって……」
「八戸城さんはどう思いますか? 堤達也は自殺するような何かを抱えていましたか?」
わかりません。と、菜月さんはうつむく。
「仕事の方はどうでしたか?」
「どうって……、いつもと変わりません。佐久間さんがよくいらっしゃるようになった印象はありましたけど、ほかには」
首をひねらせ、何かを思い出すように菜月さんは目線をあげる。
「佐久間さんとは?」
「同業の方です。あ、さっき私と話してた方、ご覧になりましたか?」
「着物を召した男性ですね」
「ええ、ええ、そうです。あの方は佐久間剛さんと言います。霊媒師の世界では有名な方で、堤先生のご自宅に時々いらしてました」
金縁メガネの中年男のことを思い出す。なるほど。霊媒師とあれば納得いくような気がする。
それは誠さんも感じたのだろう。ひとつうなずいて、さらに菜月さんへ尋ねた。
「その佐久間さんが、最近はよくいらっしゃるようになっていたというんですね」
「はい。堤先生はあまりいい顔をされてなかったので、私の知らないときにもいらしてるんだなと思った記憶があります」
「では、今日も堤達也の家に?」
「はい、ご焼香にと」
「そうですか。ほかに何か気になることは?」
いいえ。と、菜月さんは首を振る。
「申し訳ありませんが、今日は探偵として来たのではありません。堤達也の死に疑問を感じたわけでもありませんから」
「私のはやとちりでしたね。すみません。わざわざ呼び止めてしまって」
「惜しい人を亡くしたとは思っています」
誠さんが小さな息をつくと、菜月さんも悲しそうに目を伏せた。
「なんだよ、しんみりし過ぎだろ。その、堤ってやつが自殺するような男じゃねぇっていうなら、気の済むまで調べりゃいいだろ」
「春樹、やめなさい」
たしなめる誠さんを見上げて、私はちょっとだけ小さな違和感を覚えた。なんだか誠さんが楽しそうに見えたのだ。
「あー、そうだな。今から堤ってやつが死んだ場所に行くってのはどう? あんた、場所知ってんだろ?」
菜月さんにずけずけとものを言う春樹さんを、誠さんは叱らなかった。それどころか、乗り気な様子を見せる。
「八戸城さん、ご存知なら案内してくれますか? 先輩の最期の場所を、俺も見ておきたいんです」
そう願った誠さんは、してやったりとばかりに、やはりどこか楽しげだった。
「それで兄貴、オノダのこと知ってたんだな」
御影家のある天目とはゆかりのない土地の、しかも、観光地でも繁華街でもない土地にある小さな楽器店を誠さんが知っていた理由にたどり着いた春樹さんは、妙に納得した様子でうなずいた。
納得したのは彼だけではない。私たちの会話から、春樹さんがミュージシャン志望なのだと知った菜月さんもまた、彼の風貌に納得したようだった。
「八戸城さん、何か御用でしたか?」
誠さんが話を戻すように尋ねると、菜月さんはようやく目的を思い出したのか、ああ、と小さな声をあげた。
「御影さんは探偵さんだとおっしゃっていたので気になって」
「気になるとは?」
「堤先生の自殺に疑問を持っていらっしゃるんじゃないかと」
きょろきょろと視線を泳がせた菜月さんは、恐縮そうに肩をすぼめる。
「どうしてそう思われるんです?」
「堤先生が亡くなったことで、奥さまも自殺なんて信じられないと言ってましたし、何かあるんじゃないかって私も思ってしまって……」
「八戸城さんはどう思いますか? 堤達也は自殺するような何かを抱えていましたか?」
わかりません。と、菜月さんはうつむく。
「仕事の方はどうでしたか?」
「どうって……、いつもと変わりません。佐久間さんがよくいらっしゃるようになった印象はありましたけど、ほかには」
首をひねらせ、何かを思い出すように菜月さんは目線をあげる。
「佐久間さんとは?」
「同業の方です。あ、さっき私と話してた方、ご覧になりましたか?」
「着物を召した男性ですね」
「ええ、ええ、そうです。あの方は佐久間剛さんと言います。霊媒師の世界では有名な方で、堤先生のご自宅に時々いらしてました」
金縁メガネの中年男のことを思い出す。なるほど。霊媒師とあれば納得いくような気がする。
それは誠さんも感じたのだろう。ひとつうなずいて、さらに菜月さんへ尋ねた。
「その佐久間さんが、最近はよくいらっしゃるようになっていたというんですね」
「はい。堤先生はあまりいい顔をされてなかったので、私の知らないときにもいらしてるんだなと思った記憶があります」
「では、今日も堤達也の家に?」
「はい、ご焼香にと」
「そうですか。ほかに何か気になることは?」
いいえ。と、菜月さんは首を振る。
「申し訳ありませんが、今日は探偵として来たのではありません。堤達也の死に疑問を感じたわけでもありませんから」
「私のはやとちりでしたね。すみません。わざわざ呼び止めてしまって」
「惜しい人を亡くしたとは思っています」
誠さんが小さな息をつくと、菜月さんも悲しそうに目を伏せた。
「なんだよ、しんみりし過ぎだろ。その、堤ってやつが自殺するような男じゃねぇっていうなら、気の済むまで調べりゃいいだろ」
「春樹、やめなさい」
たしなめる誠さんを見上げて、私はちょっとだけ小さな違和感を覚えた。なんだか誠さんが楽しそうに見えたのだ。
「あー、そうだな。今から堤ってやつが死んだ場所に行くってのはどう? あんた、場所知ってんだろ?」
菜月さんにずけずけとものを言う春樹さんを、誠さんは叱らなかった。それどころか、乗り気な様子を見せる。
「八戸城さん、ご存知なら案内してくれますか? 先輩の最期の場所を、俺も見ておきたいんです」
そう願った誠さんは、してやったりとばかりに、やはりどこか楽しげだった。
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