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第三話 誠さんは奔放な恋がお好き

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「え、万智子が取り憑いてるって言うんですか?」

 ロビーで諏訪啓司を見つけた俺は、ラウンジへと彼を誘い、千鶴さんの身に起きた昨日の出来事を話した。
 最初は奇妙な表情で俺の話を聞いていた彼も、千鶴さんの放った次の言葉を伝えると息を飲んだ。

「どうしてあのとき、引き止めてくれなかったの……。そう言ったんですか、万智子は」
「ええ。そう言って、今でも泣いています。諏訪さんに未練があるようです」

 諏訪さんは苦しげに眉を寄せて、テーブルの上で指をからませる。

「万智子は引き止めてほしかったんだ……」

 後悔するように、そのままひたいに指を押し当てる諏訪さんに、俺は問う。

「井上万智子さんはあなたと一緒のときに事故に遭われたんですね?」

 諏訪さんは肯定するように、こうべを垂れたまま首をさげる。そして、鼻をすする音を立てて、潤む目をあげる。

「万智子は大学のマドンナ的存在でした」
「ええ、お綺麗な方だったのでしょう」

 あいづちを打つと、諏訪さんはどことなく懐かしそうな目をする。

「まじめだけが取り柄の、俺みたいな面白みのない男に万智子が振り向くなんて思っていなかったんですよ」
「あなたはカッコいいですよ」
「カッコいいか……。そうだな。そう言ってくれる人もいる。でも万智子の周りにいた男にはかなわなかった」
「でもあなたを選んだ」

 諏訪さんは首をゆっくり横に振り、悲しげに笑う。

「たくさんいる男のうちのひとりでしたよ。気分で万智子は男を変えるんです。それでもよかった。万智子は俺だけを好きでいてくれると錯覚させるのがうまかったから」
「そうですか」
「クールだなぁ、御影さんは。万智子があなたの奥様に悪さしてるんでしょう? もっと俺を責めたらいいのに」
「なぜ責めるんです?」

 苦痛に顔を歪める彼は、まるで責められたいようだ。

「万智子は引き止めてほしかったんでしょう? 俺は違うと思ってた。俺とデートに来てるのに、好きで他の男とスキーに出かけたと思ってた」
「スキーの事故でしたか」
「ええ……、ちょっと吹雪いてはいたんです。だから本当にスキーに行ったとは思わなかった。俺とじゃ退屈だから、ここで出会った男と軽く遊ぼうとしてると思ったんです」

 今にも泣き出しそうな顔で苦しげに笑う諏訪さんを痛ましげに見つめ、俺は息をつく。

「信じてあげたかったですね、万智子さんを」
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