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第二話 御影家には秘密がありました
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空気の澄んだ自然豊かな天目の夜空には、美しく輝く星が広がっている。
縁側に腰掛け、夜空を見上げながら白い息を吐く。寒さに負けて両手をこすり合わせていると、スッと隣へ誠さんが座る。
「千鶴さんはこの場所がお好きですね」
「はい。とても落ち着きます」
「そうですか」
そう言って、誠さんも夜空を眺める。
しばらくそうして黙っていたが、誠さんが先に口を開く。
「夏乃さんはお優しい方でしたね」
「はい。私もそう思います」
「先ほど、夏乃さんの残した手紙を八枝さんにお届けしてきました」
「手紙があったんですか?」
意外なことを聞いたと驚くと、黙っていてすみませんと誠さんは謝罪した。
「天目神社へ捨てられたマヨイくんですがね、木箱に入れられていたんです」
「まあ……」
「その木箱を宮司の宮原に見せてもらいました。木箱の中に新聞紙が敷かれていましてね。その下に手紙が入っていました」
「それが夏乃さんのお手紙だったんですね」
ええ、と誠さんはうなずく。
「マヨイくんの性格、好きなもの、怖がるもの……、さまざまなことが事細かに書かれていましたよ。愛に溢れた手紙でした」
「マヨイくんは愛されていましたね」
「そうですね。夏乃さんのことはとても残念ですが、藤沢さんたちも幸せになるといいですね」
「まだ池上さんには反対されているんですよね?」
彰人さんにとって、夏乃さんとの婚約が解消されたことと、秋帆さんと結ばれることは話が違う。
「まだおふたりともお若いですから、きっと苦難を乗り越えられますよ。俺たちはどちらにしろ、見守ることしかできませんしね」
「誠さんがそうおっしゃると、本当に大丈夫なような気がします」
「今度は俺たちも乗り越えてみますか?」
「え……、あっ……」
熱量のあるまなざしで見つめられて、戸惑ってしまう。
夏乃さんの件が解決したら……と、願われていたことは忘れていない。
「今夜、俺と過ごしてくれますね」
問うように言うのに、私には選択肢がないようでもあった。たとえ選択肢があったとしても答えは一つしかないのに。
「あ、はい。お気に召されるかはわかりませんが、せいいっぱい……」
どきどきと高鳴る胸を押さえながらうなずくと、ふわっと誠さんに抱きしめられる。
「ああ、冷たいですね。すぐに温めて差しあげたい」
立ち上がって私の手を引く彼を見上げる。
「あの、誠さん……」
「なんです?」
「私、いつかふたごを産みます」
「ん? 急になんですか?」
誠さんの口元はわずかに緩んでいるが、そのまなざしは真摯で。おかしくてたまらないのに、まじめに私の話を聞こうとしてくれているよう。
「私たちが嫉妬してしまうぐらい、仲の良いふたごになると思います」
「そうですか。それはいいですね」
「いいですか?」
「もちろんですよ。その分、千鶴さんは俺を愛してくれるのでしょうから」
優しく微笑む彼に見つめられたら、ほおが赤らんでいく。ますます目を細める彼は私の手を優しくだけれど、力強く引く。
「今夜はミカンを春樹に頼んできました。ですから安心してください」
「……そんな風におっしゃられると恥ずかしいですけど、できる限りご期待に添えるようにします」
「あなたという人は……」
ますますほおを染める私を見て、あはは、と誠さんは珍しく声を上げて笑った。
【第二話 完結】
空気の澄んだ自然豊かな天目の夜空には、美しく輝く星が広がっている。
縁側に腰掛け、夜空を見上げながら白い息を吐く。寒さに負けて両手をこすり合わせていると、スッと隣へ誠さんが座る。
「千鶴さんはこの場所がお好きですね」
「はい。とても落ち着きます」
「そうですか」
そう言って、誠さんも夜空を眺める。
しばらくそうして黙っていたが、誠さんが先に口を開く。
「夏乃さんはお優しい方でしたね」
「はい。私もそう思います」
「先ほど、夏乃さんの残した手紙を八枝さんにお届けしてきました」
「手紙があったんですか?」
意外なことを聞いたと驚くと、黙っていてすみませんと誠さんは謝罪した。
「天目神社へ捨てられたマヨイくんですがね、木箱に入れられていたんです」
「まあ……」
「その木箱を宮司の宮原に見せてもらいました。木箱の中に新聞紙が敷かれていましてね。その下に手紙が入っていました」
「それが夏乃さんのお手紙だったんですね」
ええ、と誠さんはうなずく。
「マヨイくんの性格、好きなもの、怖がるもの……、さまざまなことが事細かに書かれていましたよ。愛に溢れた手紙でした」
「マヨイくんは愛されていましたね」
「そうですね。夏乃さんのことはとても残念ですが、藤沢さんたちも幸せになるといいですね」
「まだ池上さんには反対されているんですよね?」
彰人さんにとって、夏乃さんとの婚約が解消されたことと、秋帆さんと結ばれることは話が違う。
「まだおふたりともお若いですから、きっと苦難を乗り越えられますよ。俺たちはどちらにしろ、見守ることしかできませんしね」
「誠さんがそうおっしゃると、本当に大丈夫なような気がします」
「今度は俺たちも乗り越えてみますか?」
「え……、あっ……」
熱量のあるまなざしで見つめられて、戸惑ってしまう。
夏乃さんの件が解決したら……と、願われていたことは忘れていない。
「今夜、俺と過ごしてくれますね」
問うように言うのに、私には選択肢がないようでもあった。たとえ選択肢があったとしても答えは一つしかないのに。
「あ、はい。お気に召されるかはわかりませんが、せいいっぱい……」
どきどきと高鳴る胸を押さえながらうなずくと、ふわっと誠さんに抱きしめられる。
「ああ、冷たいですね。すぐに温めて差しあげたい」
立ち上がって私の手を引く彼を見上げる。
「あの、誠さん……」
「なんです?」
「私、いつかふたごを産みます」
「ん? 急になんですか?」
誠さんの口元はわずかに緩んでいるが、そのまなざしは真摯で。おかしくてたまらないのに、まじめに私の話を聞こうとしてくれているよう。
「私たちが嫉妬してしまうぐらい、仲の良いふたごになると思います」
「そうですか。それはいいですね」
「いいですか?」
「もちろんですよ。その分、千鶴さんは俺を愛してくれるのでしょうから」
優しく微笑む彼に見つめられたら、ほおが赤らんでいく。ますます目を細める彼は私の手を優しくだけれど、力強く引く。
「今夜はミカンを春樹に頼んできました。ですから安心してください」
「……そんな風におっしゃられると恥ずかしいですけど、できる限りご期待に添えるようにします」
「あなたという人は……」
ますますほおを染める私を見て、あはは、と誠さんは珍しく声を上げて笑った。
【第二話 完結】
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