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第一話 甘い夫婦生活とはなりません
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目覚めると、あぐらをかく誠さんの腕に抱かれていた。
こんな風に寄り添って過ごした時間は今までになく、戸惑いの方が大きいのに声を出せない。
正面には中庭が見える窓がある。
私の部屋にいるようだ。
「ああ、良かった。ずいぶんと眠っていたので心配しました」
そのずいぶんな時間、誠さんは抱いていてくれたのだ。
彼だって疲れているだろうと身体を起こそうとするが、妙に気だるくて、そのまま彼の胸に頭をもたれさせてしまう。
「大丈夫ですか? 千鶴さん」
「はい。でもなんだか、身体が変な感じで」
「重たいですか?」
「いいえ、むしろ軽いです。お母さんがいなくなったのでしょうか」
中庭に視線を向ける。もしかしたら母の姿がそこにあるかもしれないなんて思えて。
しかし、そこでは今夜も無数のオーブが穏やかに踊っているだけだった。
「成仏されたならいいことです」
「事情を話してくださったら良かったのに」
「依頼主との間には守秘義務がありますから」
誠さんはそうはぐらかして、くすりと笑う。
そんな表情を見つめていたら、ふと口をついて出る言葉がある。
「私、愛情表現を間違えているんでしょうか」
「ん? 急にどうされましたか」
「誠さんのこと、好きだから結婚したんです」
当たり前すぎて口にはしてこなかった言葉を口にした。
誠さんはきょとんとしたが、すぐに私から目をそらして口元をさする。
「結婚してほしいって言ってくださったから、とても嬉しくて、すぐに承諾しました」
目をそらさないでと、誠さんのほおに手のひらをあてる。
「結婚を受け入れたのは愛情表現だと思ってました。でもそれだけでは足りないんだと気づきました」
「千鶴さん、俺はもうじゅうぶんに、あなたの気持ちを嬉しく思っていて……」
困り顔で、誠さんは髪をかく。
「じゅうぶんなんてことあるんでしょうか」
「まあもちろん夫婦ですから、じゅうぶんなことは何もしていませんね」
「誠さんは何をしたいの?」
そう尋ねると、彼のほおがわずかにゆるむ。にやつく。そんな感じだ。しかし、すぐにそんな表情も消えてしまう。
「千鶴さんは俺にしてほしいことがありますか?」
「私は……」
うーん、と考え込み、ちょっと勇気を出して言う。
「ずっと抱きしめて欲しいって思ってましたが、それももう叶ってしまったので、その……次は、キスをしてみたいです」
ほおが赤らんでいくのを感じる。ずいぶんと大胆で、はしたないお願いをしてしまった。誠さんが優しく微笑むから余計になんだか恥ずかしい。
「誠さんは私にして欲しいこと、ありますか?」
羞恥を隠そうと尋ねると、私の方へ顔を寄せて彼は言う。
「俺も、あなたと同じ思いですよ。いつキスをさせてくれるのかと悩んでいました」
「あ……っ」
と、声をあげた時には、唇は塞がれていた。
ぎゅっと目を閉じて、誠さんの手を握りしめる。
重なり合うだけの唇は温かくて、それだけで幸せに満ち溢れている。
「まだ……、離れないで」
離れた唇が名残惜しい。
誠さんが願うことを私は拒まない。それと同じように、私の願いも彼は受け入れてくれる。
ただ今まで、願いを伝えなかっただけだ。
伝えなければ、心を寄せ合うこともできなかった。
だから、私はもう一度乞う。
「また明日も、してくれますか?」
誠さんの背中に手を回すと、耳元で彼はそっと笑う。そして、両腕で私を優しく抱きしめる。
「明日と言わず、何度でも」
【第1話 完結】
目覚めると、あぐらをかく誠さんの腕に抱かれていた。
こんな風に寄り添って過ごした時間は今までになく、戸惑いの方が大きいのに声を出せない。
正面には中庭が見える窓がある。
私の部屋にいるようだ。
「ああ、良かった。ずいぶんと眠っていたので心配しました」
そのずいぶんな時間、誠さんは抱いていてくれたのだ。
彼だって疲れているだろうと身体を起こそうとするが、妙に気だるくて、そのまま彼の胸に頭をもたれさせてしまう。
「大丈夫ですか? 千鶴さん」
「はい。でもなんだか、身体が変な感じで」
「重たいですか?」
「いいえ、むしろ軽いです。お母さんがいなくなったのでしょうか」
中庭に視線を向ける。もしかしたら母の姿がそこにあるかもしれないなんて思えて。
しかし、そこでは今夜も無数のオーブが穏やかに踊っているだけだった。
「成仏されたならいいことです」
「事情を話してくださったら良かったのに」
「依頼主との間には守秘義務がありますから」
誠さんはそうはぐらかして、くすりと笑う。
そんな表情を見つめていたら、ふと口をついて出る言葉がある。
「私、愛情表現を間違えているんでしょうか」
「ん? 急にどうされましたか」
「誠さんのこと、好きだから結婚したんです」
当たり前すぎて口にはしてこなかった言葉を口にした。
誠さんはきょとんとしたが、すぐに私から目をそらして口元をさする。
「結婚してほしいって言ってくださったから、とても嬉しくて、すぐに承諾しました」
目をそらさないでと、誠さんのほおに手のひらをあてる。
「結婚を受け入れたのは愛情表現だと思ってました。でもそれだけでは足りないんだと気づきました」
「千鶴さん、俺はもうじゅうぶんに、あなたの気持ちを嬉しく思っていて……」
困り顔で、誠さんは髪をかく。
「じゅうぶんなんてことあるんでしょうか」
「まあもちろん夫婦ですから、じゅうぶんなことは何もしていませんね」
「誠さんは何をしたいの?」
そう尋ねると、彼のほおがわずかにゆるむ。にやつく。そんな感じだ。しかし、すぐにそんな表情も消えてしまう。
「千鶴さんは俺にしてほしいことがありますか?」
「私は……」
うーん、と考え込み、ちょっと勇気を出して言う。
「ずっと抱きしめて欲しいって思ってましたが、それももう叶ってしまったので、その……次は、キスをしてみたいです」
ほおが赤らんでいくのを感じる。ずいぶんと大胆で、はしたないお願いをしてしまった。誠さんが優しく微笑むから余計になんだか恥ずかしい。
「誠さんは私にして欲しいこと、ありますか?」
羞恥を隠そうと尋ねると、私の方へ顔を寄せて彼は言う。
「俺も、あなたと同じ思いですよ。いつキスをさせてくれるのかと悩んでいました」
「あ……っ」
と、声をあげた時には、唇は塞がれていた。
ぎゅっと目を閉じて、誠さんの手を握りしめる。
重なり合うだけの唇は温かくて、それだけで幸せに満ち溢れている。
「まだ……、離れないで」
離れた唇が名残惜しい。
誠さんが願うことを私は拒まない。それと同じように、私の願いも彼は受け入れてくれる。
ただ今まで、願いを伝えなかっただけだ。
伝えなければ、心を寄せ合うこともできなかった。
だから、私はもう一度乞う。
「また明日も、してくれますか?」
誠さんの背中に手を回すと、耳元で彼はそっと笑う。そして、両腕で私を優しく抱きしめる。
「明日と言わず、何度でも」
【第1話 完結】
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