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第一話 甘い夫婦生活とはなりません
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最初から気づいていた。
天目神社の鳥居から千鶴さんのワンピースが見えていた時から。
声をかけずにいたのは、真実に一歩でも早く近づきたかったからか。
それとも、ただ単に春樹と一緒にいる彼女を見たくなかったからか。
人目をひく金髪の春樹と色白で華奢な千鶴さんは、住吉駅で下車する俺についてきた。
俺を尾行しているつもりなのだろう。
まこうとビルの路地を曲がった後、二人は追いかけて来ない。
気になって来た道を戻ってはみたが、すでに二人の姿はなかった。
まこうとしたのに、急に不安になった。
目の届かないところにいる千鶴さんのことは必要以上に心配になる。
「あら、御影さん?」
春樹は目立つ。まだ遠くに行っていないはずだと辺りを見回していると、背中に声をかけられた。
白ブラウスにベージュのタイトスカート。チェック柄のショールを肩にかける女性が、足早に俺に近づいてくる。
「やっと決心なさったの?」
ほがらかな笑みを見せる彼女に、俺はようやく本分を思い出して微笑みかける。
「いえ、今日はあなたに会いたくて来たんですよ」
「聞く人が聞くと誤解するような言い方なさるのね。会わせたい方がいるってお話は先週お断りしたはず」
彼女は眉をひそめて息をつく。
「どうしてもいけませんか」
「……先週は行けると思ってました。でも、あの人のお嬢様のいる家を見たら怖じ気づいてしまって。どうしてそんな気持ちになってしまったんだろうってずっと考えてました」
目を伏せたまま、彼女は淡々と続ける。
「後ろめたい気持ちがあったんだと思います。無自覚でしたが、確かに私は……」
そう言って、彼女は口をつぐむ。今にも泣き出しそうになるのをこらえて、笑顔を見せる。
「今夜も飲みに付き合ってくださる? 先週のように」
「ええ、かまいませんよ」
「結婚なさってるのに罪な人」
彼女の視線は俺の左手の薬指に落ちる。
「後ろめたい気持ちがお互いにないのなら問題ありません」
本当にそうだろうか。
彼女と食事をすることが、千鶴さんを裏切る行為になっていないと断言できるだろうか。
それでも解決の糸口を見つけたい俺は、彼女と会える機会を手放したくはなく。
彼女もまた、ため息をつきつつ、俺の気持ちに応えてくれる。
「今からお仕事ですので、3時間後にここで」
そう一方的に告げた彼女は俺と目を合わせることなく、くるりと体の向きを変えると歩道を歩き始める。
その先には、浜辺クッキングスクールの大きな看板のついた雑居ビルがあった。
最初から気づいていた。
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それとも、ただ単に春樹と一緒にいる彼女を見たくなかったからか。
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俺を尾行しているつもりなのだろう。
まこうとビルの路地を曲がった後、二人は追いかけて来ない。
気になって来た道を戻ってはみたが、すでに二人の姿はなかった。
まこうとしたのに、急に不安になった。
目の届かないところにいる千鶴さんのことは必要以上に心配になる。
「あら、御影さん?」
春樹は目立つ。まだ遠くに行っていないはずだと辺りを見回していると、背中に声をかけられた。
白ブラウスにベージュのタイトスカート。チェック柄のショールを肩にかける女性が、足早に俺に近づいてくる。
「やっと決心なさったの?」
ほがらかな笑みを見せる彼女に、俺はようやく本分を思い出して微笑みかける。
「いえ、今日はあなたに会いたくて来たんですよ」
「聞く人が聞くと誤解するような言い方なさるのね。会わせたい方がいるってお話は先週お断りしたはず」
彼女は眉をひそめて息をつく。
「どうしてもいけませんか」
「……先週は行けると思ってました。でも、あの人のお嬢様のいる家を見たら怖じ気づいてしまって。どうしてそんな気持ちになってしまったんだろうってずっと考えてました」
目を伏せたまま、彼女は淡々と続ける。
「後ろめたい気持ちがあったんだと思います。無自覚でしたが、確かに私は……」
そう言って、彼女は口をつぐむ。今にも泣き出しそうになるのをこらえて、笑顔を見せる。
「今夜も飲みに付き合ってくださる? 先週のように」
「ええ、かまいませんよ」
「結婚なさってるのに罪な人」
彼女の視線は俺の左手の薬指に落ちる。
「後ろめたい気持ちがお互いにないのなら問題ありません」
本当にそうだろうか。
彼女と食事をすることが、千鶴さんを裏切る行為になっていないと断言できるだろうか。
それでも解決の糸口を見つけたい俺は、彼女と会える機会を手放したくはなく。
彼女もまた、ため息をつきつつ、俺の気持ちに応えてくれる。
「今からお仕事ですので、3時間後にここで」
そう一方的に告げた彼女は俺と目を合わせることなく、くるりと体の向きを変えると歩道を歩き始める。
その先には、浜辺クッキングスクールの大きな看板のついた雑居ビルがあった。
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