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第一話 甘い夫婦生活とはなりません
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「今日の朝ごはんはオムレツかぁー」
キッチンに立つ私の肩越しから伸びてきた細い指が、完成したばかりのサラダに乗るミニトマトをつまむ。
「あっ、つまみ食いは……」
注意しようと振り返ると、思いのほか近くに春樹さんの顔があって驚いてしまう。
「いつも千鶴ちゃんは可愛いね」
にこっと笑って、春樹さんは両肩に手を乗せてくる。
ますます顔が近づいて、思わず顔を背けた私はハッと息を飲む。
いつからいたのだろう。
新聞を手にした誠さんが複雑そうに眉をひそめたまま、無言で食卓につく。
「兄貴は朝から無愛想だなー。あー、千鶴ちゃん、俺も運ぶの手伝うよ。居候させてもらってるみたいなもんだし、何でも言って」
私が持ち上げたお盆をひょいと取り上げて、春樹さんはテーブルに食事を並べていく。
フットワークは軽い。軽いのはそれだけではないかもしれないけれど。
春樹さんが御影家で暮らすようになってから一週間が経つ。
彼のいる食卓は賑やかしく、落ち着いた誠さんとの生活とは違うけれど、こんな雰囲気も悪くはないなと思う。
「いただきます」
と言って、箸を手に取る。
視線を感じて目をあげると、誠さんが私を見ていた。
「千鶴さん、今夜は遅くなりますが、いつものように戸締りをきちんとして休んでいてください」
淡々と誠さんは言う。
いつもの優しい彼とはほんの少し様子が違って、わずかに毒を含むように剣呑としている。
「はい、わかりました。でももしかしたら起きているかもしれません」
「今夜は冷えるようですから、暖かくしていてください」
「はい」
と、もう一度うなずく。
すると春樹さんがにやにやしながら横やりを入れる。
「今夜は俺とデートするんだよ、兄貴」
「何?」
「だから千鶴ちゃんと俺、今夜は遅くなるから。ね、千鶴ちゃん」
春樹さんがウィンクすると、誠さんの表情が一層険しくなる。
「あ、あの、春樹さん、それは内緒のお話じゃ……」
今夜は誠さんを尾行するのだ。
出かけることを知られないようにと言ったのは春樹さんなのに、と慌ててしまう。
「千鶴さん、それはどういう」
「どうもこうも、兄貴が忙しくて全然千鶴ちゃんの相手してやらないから、俺が楽しませてあげようってわけ。兄貴は安心して仕事してくればいいよ」
ますます誠さんは眉をひそめる。こんなに不機嫌になったのは初めてじゃないかと思うほど。
「誠さん、大丈夫です。ほんのちょっとお出かけするだけですから」
出かけるのをやめるとは言えなかった。
誠さんが今、どんな仕事をしているのか知りたい気持ちを優先してしまった。
「……そうですか。千鶴さんが出かけたいのなら仕方ないでしょう。ですが、これだけは忘れないでください」
誠さんは小さな息をつく。
「なんでしょうか……?」
怒らせてしまっただろうか。
不安になりながら問うと、誠さんは厳しい表情を崩そうともせず、私の手のひらに思いのほか優しく手を重ねてくる。
「千鶴さんを愛しています。あなたがどう思おうとも、この気持ちに嘘はありません」
「今日の朝ごはんはオムレツかぁー」
キッチンに立つ私の肩越しから伸びてきた細い指が、完成したばかりのサラダに乗るミニトマトをつまむ。
「あっ、つまみ食いは……」
注意しようと振り返ると、思いのほか近くに春樹さんの顔があって驚いてしまう。
「いつも千鶴ちゃんは可愛いね」
にこっと笑って、春樹さんは両肩に手を乗せてくる。
ますます顔が近づいて、思わず顔を背けた私はハッと息を飲む。
いつからいたのだろう。
新聞を手にした誠さんが複雑そうに眉をひそめたまま、無言で食卓につく。
「兄貴は朝から無愛想だなー。あー、千鶴ちゃん、俺も運ぶの手伝うよ。居候させてもらってるみたいなもんだし、何でも言って」
私が持ち上げたお盆をひょいと取り上げて、春樹さんはテーブルに食事を並べていく。
フットワークは軽い。軽いのはそれだけではないかもしれないけれど。
春樹さんが御影家で暮らすようになってから一週間が経つ。
彼のいる食卓は賑やかしく、落ち着いた誠さんとの生活とは違うけれど、こんな雰囲気も悪くはないなと思う。
「いただきます」
と言って、箸を手に取る。
視線を感じて目をあげると、誠さんが私を見ていた。
「千鶴さん、今夜は遅くなりますが、いつものように戸締りをきちんとして休んでいてください」
淡々と誠さんは言う。
いつもの優しい彼とはほんの少し様子が違って、わずかに毒を含むように剣呑としている。
「はい、わかりました。でももしかしたら起きているかもしれません」
「今夜は冷えるようですから、暖かくしていてください」
「はい」
と、もう一度うなずく。
すると春樹さんがにやにやしながら横やりを入れる。
「今夜は俺とデートするんだよ、兄貴」
「何?」
「だから千鶴ちゃんと俺、今夜は遅くなるから。ね、千鶴ちゃん」
春樹さんがウィンクすると、誠さんの表情が一層険しくなる。
「あ、あの、春樹さん、それは内緒のお話じゃ……」
今夜は誠さんを尾行するのだ。
出かけることを知られないようにと言ったのは春樹さんなのに、と慌ててしまう。
「千鶴さん、それはどういう」
「どうもこうも、兄貴が忙しくて全然千鶴ちゃんの相手してやらないから、俺が楽しませてあげようってわけ。兄貴は安心して仕事してくればいいよ」
ますます誠さんは眉をひそめる。こんなに不機嫌になったのは初めてじゃないかと思うほど。
「誠さん、大丈夫です。ほんのちょっとお出かけするだけですから」
出かけるのをやめるとは言えなかった。
誠さんが今、どんな仕事をしているのか知りたい気持ちを優先してしまった。
「……そうですか。千鶴さんが出かけたいのなら仕方ないでしょう。ですが、これだけは忘れないでください」
誠さんは小さな息をつく。
「なんでしょうか……?」
怒らせてしまっただろうか。
不安になりながら問うと、誠さんは厳しい表情を崩そうともせず、私の手のひらに思いのほか優しく手を重ねてくる。
「千鶴さんを愛しています。あなたがどう思おうとも、この気持ちに嘘はありません」
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