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手放したくない幸福
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3時を過ぎた頃、郵便物を取りに外へ出た。塀に取り付けられた郵便受けを開いて、眉をひそめる。見たことのある真っ白な封筒が、一通届けられていた。
おそるおそる封筒を手に取る。表面には、富山豊彦様方 久我みちる様、とある。しかし、以前とは違って、手書きの文字だった。裏返してみるが、差出人の名前はない。
すぐにリビングへ戻り、ペーパーナイフを使って封筒を開いた。中には、一枚の便せんが入っていた。
三つ折りになったそれを開く。予想外に、便せんには文字が綴られていた。
______________
久我みちるさんへ
大切なお話があり、筆を取りました。私はあなたの秘密を知っています。一度、会ってお話がしたいです。
ホテルベリシマ内にありますレストランカランコエで、20時に待っています。来てくださるまで、毎日待っています。
______________
手紙を読み終えると、そっと便せんを封筒に戻した。
優しい丸みを帯びた文字や、その文面から、女性からの手紙だと、容易に想像はついた。
真っ先に思い浮かんだのは、椎名さゆみだった。私の秘密と書かれているけれど、私が内緒にしたいのは、四乃森直己のこと以外にない。
一通目の手紙の時は、なぜ白紙だったのだろう。彼女が私とコンタクト取るのをためらっていたからか、それとも、単なる嫌がらせだったのか。
嫌がらせだったとすれば、ひとりで会いに出かけても大丈夫なのだろうか。
テーブルの上にあるスマホを手に取り、電話をかけた。すぐに電話はつながった。
「どうした? みちる」
「清貴さん、ごめんなさい……、ご相談があって」
「珍しいな、俺を頼るなんて。何かあったか?」
茶化すように言うけれど、ピリッとした空気が流れる。清貴さんだって、私のことで気を遣ってくれている。
「また差出人のない手紙が来たんです」
「白紙のやつか?」
「はい。でも、今日はちゃんとお手紙が入っていました。私に会いたいと。たぶん、女性の方です」
そう言うと、清貴さんはしばらく思案げに沈黙して、尋ねてきた。
「いつ会う?」
「ホテルベリシマで、20時に」
「わかった。俺も行く。みちるは家で待ってろ」
「ありがとうございます……」
「いや、俺も会ってみたいからな。直己さんの奥さんに」
「えっ? 清貴さんも椎名さゆみさんだって思うんですか?」
やっぱり、という思いが強くなる。
「前に送られてきた手紙の消印から、椎名さゆみじゃないかって疑ってた」
「消印ですか?」
「うん。さゆみの実家のある地域を管轄する郵便局のものだった」
「実家?」
「さすがに新居で手紙を書くのはまずいと思ったんじゃないか?」
「そう……ですね」
手紙の主がさゆみさんなら、直己には絶対知られたくないと思うだろう。夫の隠し子が、自身とそれほど歳の変わらない女性だなんて、私だったら動揺する。
だけど、会いたいなんて思うだろうか。しばらく考えて、首を横に振る。興味はあっても、私なら会わない気がする。
差出人は、大切な話があるという。
何か確かめたいことでもあるのだろうか。四乃森直己には秘密がある。私の秘密を知ってるというけれど、彼の秘密を知りたいのだろうか……。
おそるおそる封筒を手に取る。表面には、富山豊彦様方 久我みちる様、とある。しかし、以前とは違って、手書きの文字だった。裏返してみるが、差出人の名前はない。
すぐにリビングへ戻り、ペーパーナイフを使って封筒を開いた。中には、一枚の便せんが入っていた。
三つ折りになったそれを開く。予想外に、便せんには文字が綴られていた。
______________
久我みちるさんへ
大切なお話があり、筆を取りました。私はあなたの秘密を知っています。一度、会ってお話がしたいです。
ホテルベリシマ内にありますレストランカランコエで、20時に待っています。来てくださるまで、毎日待っています。
______________
手紙を読み終えると、そっと便せんを封筒に戻した。
優しい丸みを帯びた文字や、その文面から、女性からの手紙だと、容易に想像はついた。
真っ先に思い浮かんだのは、椎名さゆみだった。私の秘密と書かれているけれど、私が内緒にしたいのは、四乃森直己のこと以外にない。
一通目の手紙の時は、なぜ白紙だったのだろう。彼女が私とコンタクト取るのをためらっていたからか、それとも、単なる嫌がらせだったのか。
嫌がらせだったとすれば、ひとりで会いに出かけても大丈夫なのだろうか。
テーブルの上にあるスマホを手に取り、電話をかけた。すぐに電話はつながった。
「どうした? みちる」
「清貴さん、ごめんなさい……、ご相談があって」
「珍しいな、俺を頼るなんて。何かあったか?」
茶化すように言うけれど、ピリッとした空気が流れる。清貴さんだって、私のことで気を遣ってくれている。
「また差出人のない手紙が来たんです」
「白紙のやつか?」
「はい。でも、今日はちゃんとお手紙が入っていました。私に会いたいと。たぶん、女性の方です」
そう言うと、清貴さんはしばらく思案げに沈黙して、尋ねてきた。
「いつ会う?」
「ホテルベリシマで、20時に」
「わかった。俺も行く。みちるは家で待ってろ」
「ありがとうございます……」
「いや、俺も会ってみたいからな。直己さんの奥さんに」
「えっ? 清貴さんも椎名さゆみさんだって思うんですか?」
やっぱり、という思いが強くなる。
「前に送られてきた手紙の消印から、椎名さゆみじゃないかって疑ってた」
「消印ですか?」
「うん。さゆみの実家のある地域を管轄する郵便局のものだった」
「実家?」
「さすがに新居で手紙を書くのはまずいと思ったんじゃないか?」
「そう……ですね」
手紙の主がさゆみさんなら、直己には絶対知られたくないと思うだろう。夫の隠し子が、自身とそれほど歳の変わらない女性だなんて、私だったら動揺する。
だけど、会いたいなんて思うだろうか。しばらく考えて、首を横に振る。興味はあっても、私なら会わない気がする。
差出人は、大切な話があるという。
何か確かめたいことでもあるのだろうか。四乃森直己には秘密がある。私の秘密を知ってるというけれど、彼の秘密を知りたいのだろうか……。
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