嘘よりも真実よりも

水城ひさぎ

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手放したくない幸福

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 マンションの地下駐車場に停車した車を降りると、総司さんに腰を抱かれて、エレベーターへ向かった。

 腰に回る腕が、さりげなく彼の方へ私の身体を引き寄せる。よそよそしかった距離感が一気に縮まるのを感じる。

 最初から大胆に迫ってきた彼は、こういう人だったのだと思い出し、緊張した。嫌ではないけれど、簡単に踏み込んでくる強さを、私は抗えないと知っている。むしろ、今まで距離を保てていたのは、彼の誠意だったのだろうとも思う。

 エレベーターに乗り込み、彼は12のボタンを押す。途中、どの階にも止まらず、私たちは12階へ運ばれた。

 誰にも会わずに彼の部屋に到着すると、リビングへ通された。ソファーへ私を座らせた彼は、キッチンからワイングラスを運んでくる。

「軽く食べられるものを注文しましょうか。ワインは何がいいですか?」
「金城さんのおすすめで」
「では、白にしましょう」

 ワインセラーからボトルワインを取り出し、彼はスマホで電話をかける。デリバリーを頼んでくれたみたい。

「ワイン、飲んでも?」

 グラスに白のスパークリングワインを注ぎながら、今さらに彼は尋ねてくる。

 送れない、と言ったのだろう。帰す気もないと。

「乾杯しましょう」

 私の返事を待たず、グラスを差し出す。これを受け取るということが返事になるのだと思って、グラスに手を伸ばす。

 わずかにグラスを重ねて乾杯し、ワインを口に含む。爽やかで甘いスパークリングワインは強くなくて、彼の優しさを感じる。

「あんまり酔ってほしくないので」

 総司さんはうっすら笑んで、私のほおに手を添える。彼はほおに触れるのが好きみたい。親指でほおをなで下ろすから、ほんの少しくすぐったい。

「お仕事、お忙しいですね」
「週末は、社長の会合に同行することになりましてね。2週間後には会えますよ」
「2週間……ずいぶん、会えない気がしてましたけど、すぐに会えますね」
「俺は毎日会いたいぐらいですけどね」

 私の前にひざを進めた彼は、両腕を広げて私を優しく包み込む。

「やっと、みちるさんに届いた」

 彼がそう言った時、チャイムが鳴る。

 総司さんはすぐに立ち上がると玄関へ向かった。デリバリーが到着したみたい。ビニール袋をさげて戻ってきた彼は、テーブルの上にそれを乗せると、私のほおを両手ではさみこむ。

「金城さん……?」
「邪魔が入りました。食事の前に、キスしても?」
「えっ……」

 後ろ頭に手が回る。拒む必要もなくて、重なる唇を受け止める。

 最初は優しく触れて、角度を変えて何度か触れ合った後、しっとりと重なる。唇の感触を楽しむようについばんだかと思うと強く吸い付いて、緩急を使い分ける彼のキスは気持ちがよかった。

 知らず、彼の胸元をつかんで、あごをあげていた。私だって、もっと彼に触れていたい。そんな思いがあふれ出した時、総司さんはゆっくり私から離れた。

「続きも、したいです」

 まっすぐに見つめられたら、逃げ出せない。彼はそのつもりで誘ったのだろうし、私もそのつもりでついてきた。

 気持ちを確かめてから誘われるまでの時間が性急な気はしたけれど、彼はずっと私を好きでいてくれて、ずっとそういう思いを抱えていたのかもしれない。

 迷いながらも小さくうなずいたら、総司さんは色っぽい目をして、視線をさげた。

 後ろ頭を支えていた指がうなじに触れる。そのまま、ワンピースのファスナーが下ろされていく。あらわになった肩に指が触れて、ひもを下げながら広がった手のひらが、ブラの上から胸を覆う。

 優しく胸を撫でながら、キスを落としてくる彼の首の後ろに手を回す。腰のあたりまでワンピースがぱさりと落ちて、彼の指が背中に回ってくる。

 両手で丁寧にブラがはずされていく間も、優しいキスは続いていた。

「お綺麗です」

 唇を離して、目線をさげた彼は言う。恥ずかしくて、両腕で胸元を隠す。

「金城さん……」
「そろそろ、総司と呼んでください」

 私の手首をつかみ、両腕を離させる。手のひらで胸を覆い、指の腹で優しく触れてくる。私の心も、身体も、すごく大切に思ってくれてるみたいで、うれしくなる。

 白いふくらみの上をなでていた指の腹が先端に触れて、ビクッと体が反応してしまうと、彼はうっすら笑むように開いた口で頂きを含む。

「ああ……」

 思わず、甘いため息が漏れた。優しかった。唇も舌も……。愛おしそうに触れて、時折、強く吸い付いて、全身をさぐる手のひらが、私の全てを壊さないように、守るように触れていくから、もっと激しくしてもいいのだと身体が震える。

「どこもお綺麗で、乱したくなります。完璧では、物足りない」

 ほおに触れた指先が髪にうずまり、深いキスが落ちてくる。唇の隙間を割って入る舌先に、私から差し出す舌に絡ませる。

 無我夢中になってキスをした。目尻に浮かぶ涙をぬぐってくれる彼を見上げ、私も彼のほおに触れる。

「総司さんのお好きなようにしてください……」
「ベッドへ行きましょうか」

 うなずく前に抱き上げられて、ワンピースをその場へ落としたまま、ベッドへ連れていかれた。

 大きくて、ふかふかのベッドに下ろされると、総司さんはネクタイに指をかけた。胸元を隠して息をひそめる私を見下ろしたまま、シャツを脱ぎ、ベルトをはずす。

「みちるさん、今夜は帰せないので、そのおつもりで」

 仰向けになる私の上に、総司さんはかぶさってくる。好きにしていいって言ったのに、彼はどこまでも優しく触れてくれる。

 はじめて出会った時よりも、私を好きになってくれてるんだって、キスからも伝わってくる。

「総司さんも、いつまでも私をみちるさんなんて呼ばないで」
「……みちる、と呼んでも?」
「はい……」
「いいですね。あなたの特別になったみたいだ」

 みちる、と唇を動かして、目を細めた彼は、私の両足を大きく広げた。ショーツの端から指を差し入れ、私の弱いところに優しく触れる。

 ゾクっと身体が震えて、つま先に力が入る。久しぶりに訪れた感覚で、飯沼さんが脳裏をよぎった。

 彼はどうやって私を抱いただろう。その感覚がよみがえってくると同時に、総司さんの方が優しくて、彼にはやく抱かれたいって感情もわき起こる。

「総司さ……ん、あ……っ、は……はやく……」

 シーツに指をからませて、指の動きに合わせて、甘い息を吐く。無意識に求めた、彼を欲する気持ちに恥ずかしくなりながら、シーツを引っ張って顔を覆おうとするのに、うまく隠せない。

「はやく……、なんですか?」

 いたずらっぽく尋ねてくるから、ますますほおは赤らんだ。

「パーティーの時は焦っていました。強引にしてしまって反省しています。今はあなたの気持ちを確かめたい」
「私の気持ち……」
「まだ、俺をどう思ってるのか、聞いてない。みちるの口から聞きたい」
「……それはもちろん、総司さんが好きです」

 おずおずと申し出る。

「そうですか」

 彼は冷静にそう言って、ショーツに両手をかけた。

「好きですか」
「はい。好きです。きっと、出会った時からずっと、惹かれていました」
「それは初耳です。もっとはやく、こうしていたらよかった」

 やんわり微笑んだ彼の頭がさがる。ショーツが足から抜けると、開いた足の間に柔らかな髪が触れてくる。さっきまで彼の指が触れていた弱いところに、舌先が触れて、自然と足が閉じてしまう。

「もっと開いて」

 くすりと笑った彼が太ももを押し倒す。ぎゅっとシーツを握りしめる私を上目遣いで見つめながら、弱いところへ舌を這わせていく。

 息があがる。上下する胸へ彼の指が伸びてきて、桃色の頂きをなでていく。と同時に、温かい舌先が奥へと入ってくる。

「あ……っ、あ……んっ」

 身体をのけ反らし、シーツの上を滑る足先で、必死に腰を上げる。

「逃げないで」
「あ……っ、総司さん……っ」

 思わず上半身をあげたら、総司さんが足を持ち上げて、さらに足を開いてきた。

「綺麗ですよ。乱れていても美しいなんて、罪な人だ」
「や……、もう、だめ……」
「今から俺がここに入るんですよ。だめなんて、言ったらいけない」

 長くきれいな指が、一番弱いところへ深く入り込んでくる。

「ああ……っ、んっ」
「ああ、かわいいです。ここも、とても綺麗なピンクだ」

 胸の先端を口に含んで、指を抜き差しするから、身体の中から高まっていくものを感じる。甘く吐く息が、次第に荒々しくなる。

「はあ……、はあ……っ」
「そろそろいれますよ」

 指が抜けた。そう感じた次の瞬間に、思いがけない質量が、中へ入ってくる。

 シーツをぎゅっとつかみ、力の入るつま先で、空を蹴った。

「総司さん……っ」
「なんて……柔らかい」

 彼が、ゆっくり、ゆっくりと深く深く中へ入ってくる。

「もう……っ」

 限界まで入ってきた後、彼は一気にそれを引き抜いた。身体がビクンッと揺れて、力が抜ける前に、ふたたび、大きな質量が押し込まれてくる。

「総司さんっ」

 両腕を伸ばし、彼の背中にしがみついた。彼もまた、愛おしそうに片腕で私を抱きしめ、こめかみにキスをする。

「かわいいです。……もっとかわいいあなたを見せてください」
「総司さん……」

 ベッドに沈められて、両足を抱え込まれる。彼は私を見つめたまま、ゆっくりと動いていく。

「ここが、気持ちいいですか」

 無意識にうなずく私の手に指を絡ませて、同じところを突いてくる。

 気持ちがいい。すごく。

「こんなの、初めて……」
「そうですか。初めてですか」

 総司さんは色っぽく笑んで、熱に浮かされた私の身体にしっとりとキスを落としていく。

 繋がれたままの場所は、しっかりと抱き合うみたいにくっついて、まだ離れないでって彼を受け止めている。しかし、すぐに彼は腰を浮かし、私から離れていく。そして、入ってくる。何度も何度も繰り返す動きに、脳が痺れていく。

 彼の鍛えられた身体にうっすら汗がにじんで、彼にしがみつく私の指は滑り落ちていく。

 ベッドに両腕を投げ出す私を見下ろしながら、総司さんはますます上下に揺れながら責め立ててくる。

 甘い息と荒々しい息が混ざり合って、とっくに限界を迎えた私の中で、「いきますよ」とささやいた彼は大きくなった。

「可愛かったですよ」

 私の身体に軽く体重を乗せて、彼は言う。

「総司さん……」

 恥ずかしくて、彼の背中を抱きしめて、胸に鼻先をうずめる。

「素晴らしかった、とても。ありがとう」
「……はい」
「みちるは、苦しくなかった?」
「はい、大丈夫です。すごく優しくしてくださったから……」

 そう言うと、総司さんは「ありがとう」ともう一度言って、触れるだけのキスをした。
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