2 / 25
猫耳の上司
2
しおりを挟む
*
気づくと、アパートのベッドで横になっていた。
夢……だったんだろうか。
門堂に残業を頼まれたところからすでに夢で、いつものように缶チューハイ飲みながらドラマ見て、寝入ってしまったのかも。
変な夢だった。
猫耳をつけた美青年……つまり、コスプレを趣味とする青年に出会ってしまった。しかも、あまりにも美しい。どこかの雑誌かなんかで紹介されれば人気沸騰間違いなしの青年だ。
いやいや、私は健全な、お堅いぐらいの男子が好きで、誰もいない夜の路地裏をコスプレして歩く青年は、タイプとかけ離れてる。どんな美青年でも、出会えたからって喜ぶことはないし、夢に見るほど好きなわけじゃない。
じゃあなんで、あんな夢見たんだろう……。
ベッドに仰向けになった時、枕もとの目覚まし時計が鳴った。
「あー、結局、ドラマの内容覚えてない」
ぼやきながら目覚まし時計を止めて、ベッドから降りる。
部屋の中は普段と変わらず、ほどほどに片付いていた。缶チューハイを飲んだ形跡も、ない。
洗面所の鏡にうつる私を見て、眉をひそめる。お化粧も落としてないし、服もパジャマに着替えてない。
「夢じゃなかったのかー。まじかー」
洗面台に手をついてつぶやくが、頭の中は大混乱だ。
夢じゃなかったのだとしたら、私はどうやってここに帰ってきたんだろう。まさか、猫耳の青年に連れてこられた? だとしたら、アパートの場所まで知られてしまったことになる。
そうか。自分で帰ってきたんだ。うん、そう。たぶん、そう。絶対、そう! 正常性バイアスの働いた私に、たちまち活力が湧いてくる。
そうとなったら、さっさと準備してしまおう。シャワーを浴びて、服を着替え、パンと牛乳で朝食を済ませると、私はいつも通りに出社した。
オフィスの朝は、始業のチャイムが鳴るまでざわついている。普段と何も変わらない光景がある。
ホッと息をついてデスクに座り、パソコンを立ち上げる。
「昨日はさんざんだったよなー。悪かったな、残業付き合わせて。おかげで助かったよ、美森」
隣のデスクに座った青年が、私に話しかけてくる。目を合わせると、彼はにこっと笑った。背筋がちょっとだけゾッとする。
「門堂係長……?」
「係長? 美森、寝ぼけてんの? 俺、まだ主任……って、美森は主任でもないかぁ」
わはは、と笑う門堂の嫌さは昨日までと変わらないが、間違いなく彼は係長なはず。
「どういうこと……」
門堂は眉をひそめると、ネームプレートをご丁寧に見せてくる。確かに、門堂渉主任と書かれている。
「係長は、あっち。忘れたのかよ。忘れてんなら、マジやばいけどな。先月、本社からやってきた、狐坂京だよ」
「こさか、きょう……?」
聞いたこともない名前だ。
そう思って、門堂の指差す方を見た私は、ヒュッと変な息をもらしていた。
いつも門堂が座っている係長の席に、なぜか昨日の青年が座っている。ううん。それは正確じゃない。
昨夜とは違って、猫耳はないし、髪も短髪。どちらかというと、スーツを着た凛々しい姿は、私のタイプどんぴしゃな好青年風。いやいや、待って。夜になると、あれは猫耳のコスプレして、路地裏を徘徊するのだ。私のタイプでは、断じてない。
私の視線を感じたのか、不意に狐坂京がこちらを見る。すると彼は、ゆっくりと手をあげ、手招きした。
「美森ましろ、ちょっと話がある。会議室に来てくれ」
「あっ、はいっ!」
勢いよく立ち上がる私の横で、門堂が「変な仕事押し付けられるなよ」と忠告する。お前が言うか、と心の中で悪態をつきながら、私はオフィスを出ていく京の後を追った。
気づくと、アパートのベッドで横になっていた。
夢……だったんだろうか。
門堂に残業を頼まれたところからすでに夢で、いつものように缶チューハイ飲みながらドラマ見て、寝入ってしまったのかも。
変な夢だった。
猫耳をつけた美青年……つまり、コスプレを趣味とする青年に出会ってしまった。しかも、あまりにも美しい。どこかの雑誌かなんかで紹介されれば人気沸騰間違いなしの青年だ。
いやいや、私は健全な、お堅いぐらいの男子が好きで、誰もいない夜の路地裏をコスプレして歩く青年は、タイプとかけ離れてる。どんな美青年でも、出会えたからって喜ぶことはないし、夢に見るほど好きなわけじゃない。
じゃあなんで、あんな夢見たんだろう……。
ベッドに仰向けになった時、枕もとの目覚まし時計が鳴った。
「あー、結局、ドラマの内容覚えてない」
ぼやきながら目覚まし時計を止めて、ベッドから降りる。
部屋の中は普段と変わらず、ほどほどに片付いていた。缶チューハイを飲んだ形跡も、ない。
洗面所の鏡にうつる私を見て、眉をひそめる。お化粧も落としてないし、服もパジャマに着替えてない。
「夢じゃなかったのかー。まじかー」
洗面台に手をついてつぶやくが、頭の中は大混乱だ。
夢じゃなかったのだとしたら、私はどうやってここに帰ってきたんだろう。まさか、猫耳の青年に連れてこられた? だとしたら、アパートの場所まで知られてしまったことになる。
そうか。自分で帰ってきたんだ。うん、そう。たぶん、そう。絶対、そう! 正常性バイアスの働いた私に、たちまち活力が湧いてくる。
そうとなったら、さっさと準備してしまおう。シャワーを浴びて、服を着替え、パンと牛乳で朝食を済ませると、私はいつも通りに出社した。
オフィスの朝は、始業のチャイムが鳴るまでざわついている。普段と何も変わらない光景がある。
ホッと息をついてデスクに座り、パソコンを立ち上げる。
「昨日はさんざんだったよなー。悪かったな、残業付き合わせて。おかげで助かったよ、美森」
隣のデスクに座った青年が、私に話しかけてくる。目を合わせると、彼はにこっと笑った。背筋がちょっとだけゾッとする。
「門堂係長……?」
「係長? 美森、寝ぼけてんの? 俺、まだ主任……って、美森は主任でもないかぁ」
わはは、と笑う門堂の嫌さは昨日までと変わらないが、間違いなく彼は係長なはず。
「どういうこと……」
門堂は眉をひそめると、ネームプレートをご丁寧に見せてくる。確かに、門堂渉主任と書かれている。
「係長は、あっち。忘れたのかよ。忘れてんなら、マジやばいけどな。先月、本社からやってきた、狐坂京だよ」
「こさか、きょう……?」
聞いたこともない名前だ。
そう思って、門堂の指差す方を見た私は、ヒュッと変な息をもらしていた。
いつも門堂が座っている係長の席に、なぜか昨日の青年が座っている。ううん。それは正確じゃない。
昨夜とは違って、猫耳はないし、髪も短髪。どちらかというと、スーツを着た凛々しい姿は、私のタイプどんぴしゃな好青年風。いやいや、待って。夜になると、あれは猫耳のコスプレして、路地裏を徘徊するのだ。私のタイプでは、断じてない。
私の視線を感じたのか、不意に狐坂京がこちらを見る。すると彼は、ゆっくりと手をあげ、手招きした。
「美森ましろ、ちょっと話がある。会議室に来てくれ」
「あっ、はいっ!」
勢いよく立ち上がる私の横で、門堂が「変な仕事押し付けられるなよ」と忠告する。お前が言うか、と心の中で悪態をつきながら、私はオフィスを出ていく京の後を追った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
臣と野薔薇の恋愛事情
花咲蝶ちょ
恋愛
ハッピーエンドです。
オクテでオタクな年の差恋愛×オカルト体験なストーリー
あやかしと神様の恋愛成就と祈り姫のキャラクターのスピンオフです。
そちらも読んでもらえると嬉しいです。
祈り姫☆恋日和で載せていて長くなったので別枠に移動しました。
2019/11/10
タイトルをオタクとオクテの恋愛事情から臣と野薔薇の恋愛事情に変えました。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~
蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。
職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。
私はこんな人と絶対に関わりたくない!
独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。
それは……『Dの男』
あの男と真逆の、未経験の人。
少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。
私が探しているのはあなたじゃない。
私は誰かの『唯一』になりたいの……。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる