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10年後の約束
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「東京湾の事件はいまだに解決してないんです。それで、実は拓海が……容疑者なんです」
「容疑者? 本当に?」
驚く基哉に、光莉はうなずき、今度は卒業アルバムの拓海を指差す。
「理乃と拓海は高校の同級生なんです。拓海には記憶がないので詳細はわかりませんが、警察は彼と理乃が恋人関係にあったんじゃないかって疑ってます」
「じゃあ、拓海くんが悩んでいた恋の相手って、その女性? なんていったらいいか……」
戸惑う基哉に、光莉は確認する。
「拓海が住んでるアパートの隣に、もう一つ、アパートがあるんです。理乃はそのアパートで暮らしていました。もしかしたら、理乃も拓海と同じように、シオンに来ていたかもしれません。ご存知ないですか?」
「……記憶にないな。少なくとも、拓海くんと一緒に来たことはないよ。拓海くんはここを隠れ家のように利用してくれていたから、いくら好意のある女性とは言っても、連れてきたくなかったのかもしれないね」
「そうですか……」
なぜだろう。基哉の話には一貫性があるのに、どこか違和感がある。
拓海は事故に遭う前からシオンに通っていた。理乃だって、拓海が引っ越すより前からペンタプリズムに暮らしていた。ふたりの生活圏は被っていて、恋人関係にあったなら、理乃がシオンを訪れないはずがない。
自分のテリトリーに入った人物を掌握したい性格を持つ理乃が、拓海の行きつけのバーに興味をもたないなんてことあるだろうか。もし、本当に来ていないのなら、彼らは恋人関係にはなかったということじゃないだろうか。
「私、拓海は犯人じゃないと思ってます」
そもそも、拓海は理乃と付き合っていない。そう思えるからこそ、光莉は主張する。
「俺たちもそう思うよ。拓海くんは人を殺せる人間じゃない」
「本当に、そう思ってますか?」
基哉はけげんそうに首をかしげる。
「どんなにいい人だって、何かの拍子に人を殺してしまうかもしれない。私はそこは否定しません」
「……拓海くんが人殺しをする可能性は否定しないけど、彼は犯人じゃないっていう確証があるってこと?」
「確証はありません。だけど、犯人じゃないって思ってます」
「信じてるんだね」
「はい。だから、犯人は必ず見つけ出します。拓海のためにも、理乃のためにも」
力強く言って、こぶしを握る。しかし、気持ちがたかぶる光莉に対し、基哉は冷静だった。
「気持ちはわかるけど、どうやって?」
「自首して欲しいって思ってます」
「自首?」
「理乃……、私にメールしてきたんです。助けてって。ずっと連絡なんてしてなかったのに、私に助けを求めてきたんです」
理乃はプライドが高く、光莉を憎んでいた。一番助けを求めたくない相手だっただろう。それでも助けを求めたのは、理乃にとっての光莉はやはり、姉妹であり、唯一、すべてをさらけ出せる相手だったからじゃないだろうか。
基哉は黙って話に耳を傾けている。
「私は父と暮らしています。理乃は父のいないつらい幼少期を送っていたからか、あまり褒められた性格はしていませんでした。私は理乃から数々の嫌がらせをされて、彼女の執拗な干渉はいつまで続くんだろうって、恐怖しながらこれまで過ごしてきました」
「つらい思いをしてきたんですね……」
千華が苦しそうにつぶやく。そんな彼女の肩を、基哉がそっと抱き寄せる。
「容疑者? 本当に?」
驚く基哉に、光莉はうなずき、今度は卒業アルバムの拓海を指差す。
「理乃と拓海は高校の同級生なんです。拓海には記憶がないので詳細はわかりませんが、警察は彼と理乃が恋人関係にあったんじゃないかって疑ってます」
「じゃあ、拓海くんが悩んでいた恋の相手って、その女性? なんていったらいいか……」
戸惑う基哉に、光莉は確認する。
「拓海が住んでるアパートの隣に、もう一つ、アパートがあるんです。理乃はそのアパートで暮らしていました。もしかしたら、理乃も拓海と同じように、シオンに来ていたかもしれません。ご存知ないですか?」
「……記憶にないな。少なくとも、拓海くんと一緒に来たことはないよ。拓海くんはここを隠れ家のように利用してくれていたから、いくら好意のある女性とは言っても、連れてきたくなかったのかもしれないね」
「そうですか……」
なぜだろう。基哉の話には一貫性があるのに、どこか違和感がある。
拓海は事故に遭う前からシオンに通っていた。理乃だって、拓海が引っ越すより前からペンタプリズムに暮らしていた。ふたりの生活圏は被っていて、恋人関係にあったなら、理乃がシオンを訪れないはずがない。
自分のテリトリーに入った人物を掌握したい性格を持つ理乃が、拓海の行きつけのバーに興味をもたないなんてことあるだろうか。もし、本当に来ていないのなら、彼らは恋人関係にはなかったということじゃないだろうか。
「私、拓海は犯人じゃないと思ってます」
そもそも、拓海は理乃と付き合っていない。そう思えるからこそ、光莉は主張する。
「俺たちもそう思うよ。拓海くんは人を殺せる人間じゃない」
「本当に、そう思ってますか?」
基哉はけげんそうに首をかしげる。
「どんなにいい人だって、何かの拍子に人を殺してしまうかもしれない。私はそこは否定しません」
「……拓海くんが人殺しをする可能性は否定しないけど、彼は犯人じゃないっていう確証があるってこと?」
「確証はありません。だけど、犯人じゃないって思ってます」
「信じてるんだね」
「はい。だから、犯人は必ず見つけ出します。拓海のためにも、理乃のためにも」
力強く言って、こぶしを握る。しかし、気持ちがたかぶる光莉に対し、基哉は冷静だった。
「気持ちはわかるけど、どうやって?」
「自首して欲しいって思ってます」
「自首?」
「理乃……、私にメールしてきたんです。助けてって。ずっと連絡なんてしてなかったのに、私に助けを求めてきたんです」
理乃はプライドが高く、光莉を憎んでいた。一番助けを求めたくない相手だっただろう。それでも助けを求めたのは、理乃にとっての光莉はやはり、姉妹であり、唯一、すべてをさらけ出せる相手だったからじゃないだろうか。
基哉は黙って話に耳を傾けている。
「私は父と暮らしています。理乃は父のいないつらい幼少期を送っていたからか、あまり褒められた性格はしていませんでした。私は理乃から数々の嫌がらせをされて、彼女の執拗な干渉はいつまで続くんだろうって、恐怖しながらこれまで過ごしてきました」
「つらい思いをしてきたんですね……」
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