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君を守りたくて

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「連絡取れなくて……か。お姉さん、亡くなったんだよな。……ごめん。なんか俺、ダメだな。光莉がショック受けてるのに、自分の気持ち押しつけた」

 後悔するように拓海が天を仰いだとき、駐車場に車が入ってくる。

 住人が帰ってきたようだ。運転席に乗る中年の男が、駐車場で何しゃべってるんだ、って言いたげに凝視してくるから気まずい。

「ここじゃ、邪魔になるよな。俺の部屋に来いよ」
「もう行くから、大丈夫だよ。理乃のことに拓海を巻き込みたくない」
「気にするな。話ぐらい聞くよ。俺だってまだ気になってることあるし」

 拓海はそう言うと、運転席から降りてきた男に、「こんにちはー」と愛想よくあいさつすると、そそくさと駐車場を出ていく。光莉もちょこんと男に頭を下げ、あわてて彼を追いかける。

「気になることって?」

 拓海の部屋に入るなり、光莉は尋ねる。

「お姉さんって、同じ高校だったよな?」
「理乃を覚えてるの?」
「あー、違う。昨日、光莉さ、卒業アルバム見てただろ? ひとりだけ、やけにじっと見てるなぁって気になってた。あの女の子の名前、確か、松村理乃だったよなって思い出してさ」

 彼はキャリーバッグをリビングに運ぶと、ローテーブルの上に出しっぱなしになっていた卒業アルバムを開く。

「ああ、やっぱりそうだ。光莉のお姉さんって、この人?」

 人差し指で理乃を差す彼に、光莉はうなずく。

「理乃は高2の時に転校してきた。私たちと同じクラスに」
「俺と光莉、同じクラスだったんだな」
「1年の時から一緒。拓海がひとめぼれしたって告白してくれたのも、1年の時」
「えー、それ、マジかよ。俺、そんなふうに光莉に言ったわけ?」
「うん。それまで私は拓海を意識したことなかったけど」
「なんだよそれ。恥ずかしいな」

 照れくさそうにする彼の笑顔は昔と変わらない。あの頃に戻れたらいいのに、と思ってしまう。

「同じ写真部に入って、カメラを語る拓海を見て、カッコいいなって思って付き合うことにしたんだ。本当は別れたくなかったし、同じ大学にも行きたかった。でも……、できなくなった」

 言葉に悔しさがにじんでしまう。理乃は突然現れ、光莉の幸せを根こそぎ奪う。だから、奪われる前に逃げる道を選んだ。

 それは拓海を信頼していないことの裏返しでもあった。卑怯だったのは自分で、理乃だけを責められない。

 まぶたを伏せると、拓海は途端に神妙になる。

「光莉が引っ越したのは、お姉さんが転校してきたことと何か関係がある?」
「お姉さんって呼び方、ちょっと気まずい。私は理乃を姉だなんて思ったことないし、彼女だってそうだったと思う」
「まあ、複雑だよな、きっと」

 そう言う拓海が複雑そうな表情をしている。仲の良い両親の結婚は、実は不倫の末の略奪婚でしたなんて、本当に笑えない。

「理乃は私に嫉妬してた。だから、私に会いに来たんだと思う」
「嫉妬してるのに、会いに来る?」
「理乃はそういう子だから。父のいる私が羨ましくて、私になりたかったんじゃないかな」

 理乃は両親のそろった家庭に憧れていたんじゃないだろうか。両親だけでなく、信頼できる友だち、優しい彼氏……、はたから見たら、羨ましいぐらいの幸せを手にしている光莉になりたくて、すべてを奪い取るために転校してきたんじゃないだろうか。

 しかし、これはただの想像でしかない。理乃は死んでしまった。彼女の真意が聞ける日はもう二度と来ない。
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