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柳川・立花山編

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 篠崎さんの目が見開く。
 私は四百年間寂しさと後悔に耐え続けた、彼の心のそこまで届くように訴えた。

「逃げることはいくらでもできた。けれど桜さんは最後まで精一杯生きたんです! 幸せだったからこそ、東区に私として生まれ変わったんじゃないですか? 大好きな人と一緒に暮らした、立花山が見える場所で」
「……違う……違う。桜は、もっと幸せになれる筈だった。俺と出会ったせいで、」
「篠崎さん。もっと良く、桜さんのことを思い出してください。篠崎さんの罪悪感で、彼女を不幸で可哀想な人にしないで」
「……桜は……」
「旬ちゃんの話を聞く中でも、彼女が嫌々お姫様の身代わりになったとか、自分の境遇を憂いていたという話はありませんでした。最後まで彼女は精一杯生きたんです。……桜さんが最期まで役目を果たして生き抜いた矜持を、どうか受け入れてあげてくれませんか?」

 篠崎さんの尻尾が揺れる。
 背が高くてかっこいい男の人が、迷子の子供のような目をして私を見つめている。
 私は背伸びして、篠崎さんを抱きしめた。

 篠崎さんが息を詰める。私は身を固くした彼の身と心を解きほぐすように、ぴったりと体を寄せて背中を撫でた。

「でもまあ、待ってたのに来てくれなかったらそりゃ寂しいですよ」
「俺は……」
「大好きな人が遠く知らない場所で亡くなってしまったら、いくらそれが誇り高い人生だったとしても、残された方はたまったもんじゃないです。それも真実です。……桜さんの代わりに私が謝ります。ごめんなさい」
「謝るな、お前は楓だろ」

 咎めながらも、声は怒っていない。

「そうですね、すみません」

 背中をそっと撫でられる気配がする。柔らかな声で名を呼ばれて、私は胸の奥が温かくなるのを感じた。
 篠崎さんは独りごとのように「そもそも、」とつぶやいた。

「……狐と主人が、夫婦になろうとしたのが誤りだったんだ」
「当時は知りませんけど、今は人間だって自由に恋してる時代です。だから私はと桜さんの恋が誤りだったなんて、絶対思いません」

 篠崎さんが黙り込む。私はぎゅっと、抱きしめる腕に力を込めた。

「私ははわからないけれど、今目の前にいる篠崎さんが好きです」
「……」
「篠崎さんは、どうなんですか?」
「俺は……」
「振るんだったら、狐だからとか人間だからとか、前世がどうのとか、不幸にさせるとか、そういう振り方以外でお願いします。私が気乗りしないなら、わたしを振ってください。ちょっとくらい泣いて、きっぱり諦めます」

 その時。
 木々の上から、ふわりと大きなものが舞い降りてきた。

「楓ちゃん。……私の負けだわ」
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