137 / 145
柳川・立花山編
2
しおりを挟む
「去りません。篠崎さんが逃げるなら、またはやか○んビームぶつけてやります」
「やめろ、緊張感がなさすぎる」
風が吹くと、木々が大袈裟なくらいに大きな音を立ててざわめく。足元の紅葉がざわざわと風に舞い、私たちの間で小さな渦を作る。
私は篠崎さんに一歩、近づいた。
「私の霊力吸った時、責任とってやるって仰ったじゃないですか」
「だから、霊力はもう、」
「霊力の責任の話じゃないです」
私は息を吸って、腹から声を出して尋ねた。
「私の気持ちとキスの責任は取ってくれないんですか」
「……婚活でも世話したらいいのか」
「私が桜さんじゃないから恋愛対象外なら、はっきりそう言ってください。それなら諦めます」
「違う。そうじゃない。……そうじゃないんだ」
篠崎さんは苦しげな顔をして首を振る。
それでも篠崎さんは私の前から逃げない。話をしてくれるつもりはあるようで、内心ほっとする。
「……桜みたいに、俺は俺で、お前を不幸にしたくない」
「不幸にしたくないって言って好意を持ってる女を勝手に置いて去っていくの、どう考えてもエゴですよ。不幸かどうかは私が決めます、それに」
私は拳をぎゅっと握り、篠崎さんの目の前まで近づいた。
見上げる篠崎さんの瞳が揺れている。私は彼の顔を見て、改めて篠崎さんが愛しいと思った。
このまま別れたっていい、悲しいけれど。
だけどーーこれだけは、篠崎さんに伝えなければならない。
「桜さんが不幸かどうかだって、篠崎さんが決めることじゃないのではないですか」
「……っ」
「前世のことなんて私には分かりません。けど。桜さんは幸せだったと思います。あの時代の天涯孤独な女性として生を受けて、能力を認めてもらえる場所で働けて、衣食住に困らず過ごして。あやかしとも、高貴なお武家さんたちとも、仲良くのびのび過ごして。一生懸命愛して、仕事して、夢を持って生きて」
「呪われて井戸に落ちて死ぬ運命を幸せだと言えるのか!」
篠崎さんが叫ぶ。声は震えていた。私は怒声に負けずに言い返す。
「少なくともその運命は、彼女が選んだはずです!」
「やめろ、緊張感がなさすぎる」
風が吹くと、木々が大袈裟なくらいに大きな音を立ててざわめく。足元の紅葉がざわざわと風に舞い、私たちの間で小さな渦を作る。
私は篠崎さんに一歩、近づいた。
「私の霊力吸った時、責任とってやるって仰ったじゃないですか」
「だから、霊力はもう、」
「霊力の責任の話じゃないです」
私は息を吸って、腹から声を出して尋ねた。
「私の気持ちとキスの責任は取ってくれないんですか」
「……婚活でも世話したらいいのか」
「私が桜さんじゃないから恋愛対象外なら、はっきりそう言ってください。それなら諦めます」
「違う。そうじゃない。……そうじゃないんだ」
篠崎さんは苦しげな顔をして首を振る。
それでも篠崎さんは私の前から逃げない。話をしてくれるつもりはあるようで、内心ほっとする。
「……桜みたいに、俺は俺で、お前を不幸にしたくない」
「不幸にしたくないって言って好意を持ってる女を勝手に置いて去っていくの、どう考えてもエゴですよ。不幸かどうかは私が決めます、それに」
私は拳をぎゅっと握り、篠崎さんの目の前まで近づいた。
見上げる篠崎さんの瞳が揺れている。私は彼の顔を見て、改めて篠崎さんが愛しいと思った。
このまま別れたっていい、悲しいけれど。
だけどーーこれだけは、篠崎さんに伝えなければならない。
「桜さんが不幸かどうかだって、篠崎さんが決めることじゃないのではないですか」
「……っ」
「前世のことなんて私には分かりません。けど。桜さんは幸せだったと思います。あの時代の天涯孤独な女性として生を受けて、能力を認めてもらえる場所で働けて、衣食住に困らず過ごして。あやかしとも、高貴なお武家さんたちとも、仲良くのびのび過ごして。一生懸命愛して、仕事して、夢を持って生きて」
「呪われて井戸に落ちて死ぬ運命を幸せだと言えるのか!」
篠崎さんが叫ぶ。声は震えていた。私は怒声に負けずに言い返す。
「少なくともその運命は、彼女が選んだはずです!」
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる