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柳川・立花山編

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 私と高橋様はある作戦を計画し、博多駅に到着したところで早速二手に別れた。私は一人博多駅のロータリーでぶらぶらする。

 博多駅はビジネス街が近いからか、天神よりずっとスーツ姿の男性の姿を多く見る。百貨店がいくつか立ち並び華やかで催事も多い博多口とは違い、筑紫口は特に、「スーツ観光客スーツスーツ観光客! 昼食ラーメン! 夜の居酒屋!」という雰囲気だ。
 ロータリーに並んだタクシーの数を数えながらぼんやりとして10分。
 想像より早く、私の目の前にワゴン車が勢いよく寄せられてきた。

「はあい! ご機嫌いかが菊井サン! いい天気ね! ウチで働く気になった!?」

 瀟洒な丸メガネに長い黒髪、華奢な男性が勢いよくワゴンから顔をだし、早口で営業をかけてくる。熱烈なオーバーリアクションに合わせて、愛想が良すぎるせいで面白い人に見えるけれど、よくみたらこの人も随分な美形だ。
 あまりにちょろくて、思わず引いてしまう。

「徐福さん……本当にいらっしゃったんですね……」
「ささ。立ち話もなんだから早くワゴン乗りましょ? それともすぐ契約しちゃうならここで書類もほら」
「あ、いや、ちょっと待ってください」
「契約書はサインをした後よく考えればいいんだよ、さあさあ」

 にこにことワゴンに引っ張り込もうとする徐福さん。
 私に手を伸ばしてきたその手を、隣から出てきて掴んだのは高橋様だ。

「えっ」
「ほら、やっぱり。楓殿が一人で立ってると出てくると思ったぞ、貴殿は」

 高橋様を見て徐福さんは紫の目を丸くして声を裏返す。

「ただちょっと思ったよりチョロすぎて驚いたぞ」
「ええ……本当に」

 私たちは軽く引いた顔で徐福さんを眺めた。徐福さんはキッと高橋様を睨んだ。

「ちょっと! 旦那がどうして楓殿といるの!?」
「早速だが単刀直入に願い出よう。筑紫野の霊狐ーー尽紫と紫野の居場所に案内してくれ」
「はぁ?」

 徐福さんは露骨に眉間に皺を寄せる。

「何? 話が見えないんだけど? いきなり何よ」
「筑紫野の霊狐の居場所だ。知らぬ存ぜぬとは言わせぬぞ」

 突然の事態に困惑する徐福さんに、高橋様はどストレートに切り込んでいく。綺麗な人だけど、それはそうとしてもの凄く押しが強いな、高橋様。
 徐福さんはきっぱりと「知らないね」と言い切る。

「そんな事言われても、我一介の善良な方士よ? 我の行動範囲とも重なってないし、うなぎの寝床も狐の根倉も、知るわけがないじゃない」
「ほう?」

 高橋様はそれでもずい、と身を乗り出す。

「貴殿、二日市温泉にも商売の手を広げているではないか」
「まあ、そうだけど。それが何?」
「貴殿の宿に訪れたあやかしは時々、太宰府の此方まで観光に来ておるようだなあ?」

 一秒。徐福さんの動きが止まる。

「……それはお客様が勝手に行ってるだけでしょ? 我は関係ないよ」
「ほう? 良いのか? 私もかの公も、今後とも二千年の方士の徐福殿と親しくしていければと思っているのだが」

 かの公って誰だろう。思ったところで名前をいいそうになり私は口を塞ぐ。
 多分言ってはいけないあの人だ。

「う……そう言われても知らないものは知らないし」
「徐・福・殿♡」

 高橋様はささやくと、徐福殿をワゴンに追い詰める。所謂壁トンだ。ワゴントン?

「博多駅でスカウトしている貴殿を、博多の他のあやかしが見逃しているわけがなかろう。紫野ーー篠崎が緩衝材となって有効な関係を築いてきた面もあるだろう?」
「顔、顔が近いんだけど」
「お互いに良い関係を築いていきたいではないか、徐福殿。なっ」
「旦那、そのいい顔で押し通したらなんでも通ると思ってない?」
「はは。いい顔かどうかは判断を委ねるが、私のこれが通じなかったのは道雪様くらいだ」
「あああえええい…………仕方ないね、狐に何かを頼まれてる訳でもない。とりあえず座って話そうか」

 徐福さんはしぶしぶと言った風に肩をすくめ、私たちをワゴンの中へと案内した。
 ワゴンに入ったところでパチン、と指を鳴らす音が響きーー気がつけば目の前には、旅館の玄関が広がっていた。
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