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柳川・立花山編

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「来週、社長が今後について話す機会を設けてくれたの。社長の過去とか、社長が考えてることとか、教えてくれるって。……だから私も隠さず彼に、私の気持ちを伝えるんだ。きちんと想いを伝える。恋愛としてダメならダメ、OKならOKできっぱりしたいんだ」
「そう」

 旬ちゃんは水面に目を向ける。視線に弾かれるように水鳥が、黒松から一斉にバサバサと逃げていった。

「OKならつがいになるの?」
「つ、つがいって」

 そんな言い回し、猫の夜さんからしか聞いたことない。狼狽えた私を見る旬ちゃんは真顔だった。
 真っ黒な瞳に、たじろぐ私が綺麗に写り込んでいる。

「……っ」

 何故か急にぞくりとする。
 ーーなんだろう。一瞬、篠崎さんの真面目な顔を思い出した。

「楓ちゃんは社長と恋人になりたいの? それとも結婚? どこまで考えてるの」
「わかんない。なりたいのかどうかも」

 私は首を振る。

「はっきりしているのは、今の仕事が楽しいという事と、社長が好き、この二つだけ。……できれば両方とも失いたくない。けれど、それを決めるのは来週だから。社長も、私とちゃんと色々話してくれるって約束してくれたし」
「……楓ちゃん。普通じゃなくなっても、いいの?」
「普通、かあ」

 旬ちゃんの言葉を受け止め、私は池に目を向け、友人達との飲み会の夜を思い出す。
 そして人間を辞めることを唆してきた徐徐さんの言葉も。

 私は結局、本当はどうしたい?
 そんなの、決まってる。

「社長の傍にいたい。社長と、もっともっといろんなことを知って行きたい」

 私は、私なりの「普通」を選ぶのが一番楽みたいだ。

「人が言う『普通』より、やっぱり自分自身が納得する道と、大切にしたい人を大切にしたいんだ。だから恋心も……仕事も、大事にしたい。『普通』の言葉に逃げないよ」

 その時、旬ちゃんは深くため息を吐いた。

「ばかね、楓ちゃん」

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