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柳川・立花山編

土地付き一戸建て所有猫

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 徐徐さんの件ののち。
 私は篠崎さんの車でアパートに送られてから、ふらふらの足取りで部屋に到着した。
 そしてすぐに、フォローに回ってくださった羽犬塚さんへとメッセージで確認をとって電話をかけた。

 私が声を出す前に、羽犬塚さんはいつもの明るい声で話しかけてくれた。

「大丈夫、楓ちゃん~! 急に攫われたんでしょ~?? えっちなことされなかった?」
「全くされてません! ご安心ください!」
「あららそう~? 篠崎さんにもされてない?」
「しっ篠崎さんとも健全な関係です!!!」

 声が裏返る私に、電話の向こうでクスクスと笑う気配がした。

「それならよかったわ~。ふふふ、私の件は大丈夫よ。元々博多駅の近くにお使いに出てたから、すぐに対応できたし。楓ちゃんが気にする必要はないのよ~」
「ありがとうございます。でも申し訳ありませんでした……今度から攫われそうな時はすぐに○やかけんビームで応戦します」
「それもどうかと思うけどね~」

 その後私たちは当たり障りなく会話をして電話を切った。
 切った瞬間にふと思う。羽犬塚さんは普段ケモモフな黒柴犬さんの姿にOL服を着てお仕事している。ケモナーさんがホイホイされるような見た目だが、人間らしさは低い。

「あの姿で博多駅でお使い……?」

 もしかしたら篠崎さんのように、普通の人間に近い姿にもなれるのかもしれない。逆に篠崎さんももしかしたら、羽犬塚さんのようなケモモフな狐さん姿にもなれるのかも。いつかその姿でもふもふさせてもらいたい、是非とも。

「……篠崎さん……」

 篠崎さんの事を思うだけで、自動的オートマティックに頬が熱くなっていく。触れられた場所がじんじんする。
 長いまつ毛に、雨空を映した透き通った瞳。真面目な顔をして、私の髪に触れる指の先の温度と、押しつけられた渇いた唇の感触。
 車の中でキスされた、あの一瞬が何度も何度も甦ってくる。

 あの時初めて、「社長」でも「霊力の世話をしているあやかし」でもない「篠崎さん」に触れた気がする。
 篠崎さんの過去を聞くのは怖い。こんな甘い気持ちに浸れるのなんて今だけかもしれない。

 だからせめて、今だけでも篠崎さんの匂いとか、キスの感触とか、優しい声を何度も反芻していたかった。

「にゃあ」
「ぎゃーーーーー!!!!!!」

 風呂上がりの夜さんが猫の姿でやってきていた。
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